第六章「決闘と血闘と」
第六章「決闘と血闘と」第一話
突然の襲来と宣言、逃げられない中で決闘が始まった。
「っ!」
「ふふっ♪」
最初の鞘当て程度と言える数回の応酬の中でユキオは気付き、相手はさらに楽しそうになっていた。
(実力差が違いすぎる)
一言で言えばその一言を一撃一撃に感じ続けるユキオがそこにあった。
事実相手のLVは20程度なのに対してこっちは10超えたかも程度。
そればかりでは無い、相手のステータスを確認する事をしなかった(出来なかった?)事もあったがその必要が無い程の相手の力と技にすぐに圧倒され始める。
ただ一点「武器の違いからくるアドバンテージ」だけを除いて。
「いいねえ!見つけて良かったよ!」
それさえ楽しんでるように思える相手に疲れも怯みも感じさせずこっちは圧倒されながら疲れが溜まっていく。
「ユキオ…」
手を出さないと決めてはいるが傍から見て明らかに不利な仲間を心配しない訳がなく、それと同時に周りを囲む女達が警戒を守りながらもその様子を楽しんでる様にも思えて…その光景は…
(…あの時の私はこんな感じだったのかもしれない)
村に来た時に突然女性達に囲まれて迫られた時の事を思いだした。
このままやられてしまうのか…否、と言える状況をユキオは守る事で精一杯だった。
それは武器によるリーチの違い、使い方の違い、そして何よりこの世界では「棒術」という物は無いのだろうか圧倒されているとは言え相手はどこか攻めあぐねている様に見え、実の所一気に間合いを詰められる事も無く攻め込まれても時にかわし、時にいなし、切りかかる刃も弾く事で自分に降りかかる線を逸らし続ける事は出来ていた……それだけしか出来なかったという現状の裏返しでもあったのだが。
一方の相手は嬉々とした様子を変えようともせず疲れを感じ始めたのか少しづつ息が荒くなっていく、だがユキオに比べると明らかに疲れを感じさせていなかった。
それ所か時々自分から「当たりに行く」とさえ思える程に突っ込んでくる事もあった。実際その通りなのかもしれない、時々攻撃が当たる事はあった、しかし実力差とレベル差から来る物なのか彼女にとって痛いと思える程でも無かった、動きを止める程度になる事はあったがそれ以上は無い事に少し不満を感じ始めていた。
そして意外な事かもしれないがここに至って実は「お互いに一撃も明確な攻撃を受けていない」と言う状態にあった。
ユキオの棒が相手の体に当たる事はあった、相手の刃がユキオの体をかする事はあった。だが明確に「攻撃をした、当たった」と言える攻撃をまだ出来ずにいた。それを生み出しているのかユキオの棒術だという事に相手は気付いてより嬉々として突っ込んできて、ユキオは圧倒されて対処に追われる。そんな構図がしばらく続いた。
「はあ…はあ…っ!」
「どうしたの?…この程度なの?」
お互いもう息は荒くなっていた、だがユキオは息苦しいにまで入ろうとしていた中で相手は「体が温まってきた」と思わせる程度に見えた。
『下降中のユキオと上昇中の相手』
実力差はここにおいても明確だった。ユキオは決定打を見いだせなくなっていた。方ばかりの鎧どおしを使うにしてもただ近づいただけなら相手に無防備を晒して真向に斬られるだろう……ならば。
「…終わりかい?」
ユキオの空気が変ったのを感じて相手が声を掛けて来た。
「せやね、これ以上続けても動けなくなりそうや」
「そう…」
彼女の中ではもっと楽しみたいという気持ちはあったがここまでだろうなと言う所は感じ取っていた。
『次の一撃が最後』
そうお互いの認識が合致した瞬間。
「はあぁ!」
ここで始めてユキオが突き出して攻めて来た。
「っ!」
それをユキオから見て右にかわしながら切りかかる相手。
(ここ!)
それを見つけて突き出した棒を横になぐように動きを変えて弾こうとするユキオ。
「っ!」
その動きは既に相手にばれていたのか刃の向きを変えながら横に弾く、咄嗟の動きとは言えその一撃は棒を弾くには十分だった。
『横に大きく弾かれた棒、正中線が無防備になるユキオ、再び振り下ろされる刃』
事ここに至れば後にあるのは「真向に斬られて絶命するユキオの姿」と誰もが思うだろう…だが実際にあった光景は別ものだった。
「がっ!」
相手に大きく弾かれた棒、その方向とは反対に動きながら弾かれた勢いを壊さない様に棒を片手持ちにした状態動かしてその中で変わった勢いをぶれさせない様に開けていた手を添える。それにより起きた事は…
『自分が弾き飛ばしたはずの棒が…自分が弾き飛ばした勢いそのままに自分のこめかみを強打した』という光景だった。そしてそれこそがこの決闘における唯一の「有効打」だった。
「っ!」
その一瞬を逃すまいとユキオは相手のこめかみを殴った方の場所を変え…
「ぐっ!」
相手の鳩尾辺りに動かすと突き出した。一瞬の意識の混乱から来る無防備状態だった相手にとってその一撃は強烈だったのか大きく弾かれて地面に倒れた。
「…っ!」
それをユキオは棒の反対側を前にしながら追いかけて起き上がろうと動こうとする相手の剣の間合いより遠い場所から突き出した棒の先は…さっきの一撃のせいなのか斜めに切れ、そのまま首を突きさすには十分な殺傷力を持っていそうだった。
「……」
「……」
沈黙、静寂…相手はただ戦うつもりではいた。しかしこの状況に自分が追い込まれた事、そして何より…相手からは殺意が…いや思い返せば初めからそう言うたぐいの物を相手から感じる事は無かった。
『戦意、闘志、殺意もかもしれない』
そして今自分の目の前にいる相手から感じるのは「覚悟」…別の言い方をするなら「相手を敵としか見てない」そんな空気だった。
もしここでさらに動こうとすれば相手は躊躇いなくその先を自分の首に突き刺してくるだろう。避ける事は出来なくも無いとは思う、だが彼女は思った…
『自分が感じたかった物を相手は与えてくれた』と言う事に。
……カラン。
それは彼女にとってはどういう意味を持つのかは知らない。よくある物ならこれが恋心なのかもしれないが彼女の中では違っていた、それをユキオが知るのはもう少し後の事になるのだが…剣を地面に落した彼女は両手を上げて言った。
「…まいったよ」と。
こうして白昼に突然起きた決闘は幕を閉じた。
続
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