第五章「この世界の変った所と村を去るまで」最終話
「…そういえば」
村を出てその姿が遠くなっていく中でハクトが不意に呟いた。
「何?」
「ここから先は遠いですから…元の姿に戻って走りましょうか?」
「元の姿って…白馬の?」
「はい」
「でもそうなると追いかけられるんや無かったっけ?」
「その心配は無くなりましたから」
安心した笑顔とでも言おうか、そんな顔をユキオに向けてハクトは言う。
「…ひょっとして村を襲った相手って」
「そうですね。私を捕まえようとした相手でした」
「…そっか」
「…ごめんなさい」
「え?」
「あの時は怖くて体が動かなくなって…」
「まあ仕方ないと思うで?そんな相手やったらフラッシュバックの一つ位」
「フラッシュバック?」
「何かの拍子で急に完全に思いだしたり症状が戻ってしまったり、そんな感じの」
「そう…ですね…でも」
「まあこれからこれから…旅は始まったばかりなんやからこれから慣れていけばええんよ」
「ユキオ…はい」
顔に影を落として謝り始めたハクトをなだめる様に笑顔でそう返すユキオがそこに居て…周りは静かな、でもいい天気の中舗装はされてはいないが整備はされている道を進む二人がそこにあった。
「それでどうしますか?」
「ん~…お願いしたいのもあるけど…」
「何か問題でもあるのですか?」
「いや、捕まえたい程の存在やったら第二第三のって不安は消えんやろうからと」
「あ…」
当然と言えば当然の心配だろう。そしてそれはこれからも、旅を終えるまで続くかもしれない事だという事にユキオの言葉を聞いて気付くハクト。
「何とか出来ればいいのですけど」
「出来そうにないなら今はな」
「…分かりました」
すまなそうにハクトは言い、気にしてない様子でユキオは答えた。
村はもう見えなくなっていた、それ位遠く離れたその時だった。
「っ!」
突然現れてユキオ達を囲んだのは…あの女達だった。
「…何や?」
「見つけたよ?」
「見つけた?」
全くの初対面にそんな事を言われて見当がつかないユキオはハクトに視線を送る、それが何を意味するのかを察したハクトだったが同じだったらしく軽く顔を横に振った。
「覚えが無いんやけど?」
「そうだね、ここで出会うのが初めてなんだから」
女達は囲いを解こうとはしない、そして装備した武器を何時でも使える様に構えていた。その頭目であろうユキオに問いかける女性だけが自然体に立っていた。
「数日前の盗賊騒ぎ、あの時に見つけてね。追いかけたって訳」
「盗賊…」
それを聞いてやっぱりハクトを狙っているのかと思ったユキオは棒を構えてハクトをかばう様に少し前に出た。
「何か勘違いしてるみたいね」
「……」
「そっちの男を狙ってこんな事をしてる訳じゃ無い…」
そこまで言うと大げさともとれる動きから「びしっ!」という効果音が付きそうな動きで指を指したのは…ユキオだった。
「私が探してるのは…お前さ」
「…え?」
(え?……この流れやったら普通ハクトに方に行かん?村の時の二の舞かと思ってたけどそれも違う?え?何で俺?)
構えはとか無いが少し混乱するユキオがそこに居た。
今言う話では無いのかもしれないが頭目の女性はヒロイン格と言える程の美人で日焼けした肌に動きを制限しない程度の鎧と全身を守る為の服をその下に来て、スタイルは…ソニヤよりもメリハリは少ないが戦士として鍛え上げた為の物だろう位の差程度で…そして周りの女達も失礼な言い方をすれば「下位互換」と呼べる位の、しかし誰も美人と呼ばれるには十分な人達だった。
『そんな相手が目当てとしているのはユキオ』……え?
この一言をどうしても理解できないユキオだった。
「あの…人違いでは無いんですよね?」
「ええ、見間違えてないよ」
「何か恨みを買う事も…」
「それも無いね。まああの盗賊達が退治されたから良かったけどそれはあの村のギルドの話だし」
「……」
「…ま、話し合っても解らないか」
そう言うといきなり剣を抜いてユキオに刃先を向けた。
「私と決闘しろ!拒むならここで殺すだけ」
いきなり空気が変った、いやこっちの方が彼女本来の姿なのかもしれないと思った。
「決闘?」
「ええ、あの時見たその棒を使った戦いに興味が湧いてね。戦ってみたいと思った訳」
「戦っても殺して、戦わなくても殺す…か」
「そうね。そっちの男は助けても良いけど…」
そう言いながら視線をハクトに向ける女性、その目には興味を感じていない様に見えた。
「私を楽しませてくれたなら負けても殺さないわ。でもそうじゃ無いなら…」
空気が変っていく。さっきまでは「温和」とか「友好」とかを感じさせる空気だったが今はもう「臨戦」という言葉が一番似合う位に変わって、ユキオの気持ちも関係なくもう少ししたら襲い掛かって来るだろう事を感じたユキオは…構えた。
「ユキオ、私も…」
それを察して構えながら声をかけてくるハクトにユキオは…
「相手が決闘やって言って来てるんやから一騎打ちで。そうやない時は頼む」
「…うん」
二人が臨戦態勢になった事に女性は嬉しそうに微笑んだ。
「…皆には手出しはさせない。する時はお前が負けた時」
そう言いながら構える女性。そして…
「…さあ、始めようか」
静かに、しかし全身から「闘争心」と思える物を発して女性は言った。
新しい町に向かう途中の静かな草原の道で…それは始まったのだった。
第五章 完
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