第五章「この世界の変った所と村を去るまで」第四話
その時、ギルド内の空気は一変した…
「…え?」
その理由を一番知らないユキオだけが驚いて…
『アーロフ大陸シーン地方』…ここはこの世界の者達にとって特別な意味を持つ…
それは『かつて魔王城があった場所で今も人の侵入を拒み続ける』とも『所謂RPGで言う所のED後に入れる隠しダンジョン』とも言える程の最強で最凶とも言える地域の事を指していた。
神きゅんからその場所の事を聞いて「よし、行こう」と決めたが実際の場所はギルドカードから解る地図から解るはずも無い程遠く、ランクが上がったり色んなギルドを渡り歩けばその中でその場所を見つける事も出来るだろう…何時かは。
だが時間が惜しいという現状は否定できない以上は出来る限り最短距離を進みたいと思うのは当然のことで全土を見る事の出来る地図がもしあってそこに印でもつけてもらえるならそれを頼りに進む事も出来るだろう。
そう思って聞いてみたら…こうなった…
「疑うのも無理はないだろう。しかし神ky…神様は申されました。私も側でその光景を見てその言葉を聞いておりますので間違いではありません」
付きそいで司祭がやって来ていてそう告げる。彼の側でユキオが「神きゅん神きゅん」言っていたせいか彼も言いそうになったが咄嗟に訂正した、まあ神きゅんなら笑って許しそうだが。
「そうなのですか?でも…」
受付嬢は、いやここに居る全員が同じように思っただろう「死にに行くようなもんだ」と。
実際ユキオとハクトのレベルは10前後まで上がっていたがそれでは付け焼刃にもならない事は誰が見ても明らかでそれはこの村のギルドに所属している全冒険者に言える事でもあった(上位でもレベル30前後なのでギリギリ行けるかどうか)。
「あの…それでも行きたいんですか?」
「はい、行くと決めたので。流石にいきなりそこに行けない事は解ってます。でもどっちに行くかでも解らないと始まらないので」
「…そうですか…では」
ユキオの意志が固い事を確認して折れたのか受付嬢が全土を記した地図を取り出すとその場所に印をつけて渡してきた。
「…海の向こうと言う事でええんですか?」
「そうですね。この『アオセラ大陸』から北に向かって船に乗って途中の『海洋諸島連合』のどれかの国を経由してと言う事になりますね」
「結構遠いですね」
「そうですね…大袈裟ですけど南の中心から北の中心へと言った長さになると思いますから…」
現実世界の地図で言うなら…
『オーストラリア中部の「アリススプリングス」からユーラシア大陸モンゴルの「ウランバートル」位まで位の距離』
と言う様に地図上には見えた。実際の地図とその大陸の形は違うがそれ位に思えるのだからどれくらい遠いかはお察しだろう。
「まあ、その間に鍛えながら進んでいきますよ」
「そうですか?無理はなさらないでくださいね?」
実際の現実を突きつけられても動じる事の無いユキオに念を押すように言う受付嬢がそこにあった。
「大冒険だなおい!」
ギルドを出る前にアルバート達に出会って昨日のことを確認しつつ事の次第を伝えると開口一番言われたのはこのことばだったな。
「せやね、まあ進む事だけ止めない事だけ決めてって所やけど」
「俺達が付いていっても良いだろうが俺達にはもう少しこの辺りでやりたい事があるからな」
「短い間だったけど楽しかったわ」
「まだ俺達よりも弱いのだから注意を」
「(静かに頷く)」
「はい!」
それがこのギルドでの最後の出来事になった。
次のギルドは…「バレスト帝国」方面か「オルスト公国」方面かの分岐点に存在する「セーバの町のギルド」になる。そこからどっちに進むかは後で決める事でまずは北へ、そしてその先の海岸線の港へ行くという事は決まった。
……そんなユキオの次の行動が決まり始めようとしていた頃…
「姐さん。あいつが村を出るみたいだよ?」
「何時になるのか解る?」
「数日中と言う事だけだねまだ、北へ向かう事は解ったけど」
「北か……」
「…姐さん?」
「いや、何でも無いよ。手筈を始めよう」
「はい!」
君は覚えているだろうか?盗賊が襲来した時にユキオが応戦していた様子を遠くで伺いながら他の盗賊達を切り捨てていた存在の事を。
彼女達が目を付けた相手がユキオだという事にユキオだけが気付いていなかった、それが解る時献血士としての次の務めが始まる事を今はまだ知らない。
それから数日後始末と準備に追われて時が過ぎた…
あの家族にご馳走してあげたり(その中でエレナの働き口を見つけるきっかけになったりした)豆売りの店に改めて挨拶に向かったり、武具店でこれからの事を考えて武具の新調や再検討をした結果…
「…これで良いのか?」
「はい、ありがとうございます。無茶なお願いだったらすいません」
「いや、その事は問題無いし初めて聞いた物を作るって面白いからな!」
「それなら何よりです」
ハクトは戦う中でより動きやすく、戦いやすく出来る様に装備を変えたり調整したりする中でユキオがお願いして作ってもらったのは…「鎧通し」と言われる短刀や短剣と分類されるだろう武器だった。
見た目は刀だが刃は両刃で「切る」よりも「突く」事を目的にした武器で。この世界だからなのかこの村周辺だからなのか刀と言う存在はあまり伝わって無いようだったのでユキオが要望したのは「槍の刃の部分を短剣の刃にした物」だった。
これを左右の腰に一本ずつ備えて組み付かれる等で動きが制限された時でもすぐに脱いて突き刺せるように備えると同時に。
「っ!……っ!」
右手で右腰の、左手で左腰の鎧通しを抜いて逆手に構える。これによって棒が持たれてしまったり弾き飛ばされて武器が無くなった時の緊急用として使う事も可能になる。
「でも良かったのか?「棒の先につけて槍に変える」事が出来る様に細工も出来たけど」
「それをした上で吹き飛ばされたらそれこそ意味ないですから」
「それで納得してるなら良いけどな」
「はい、ありがとうございました」
そんなこんなの用意が済んで…
「今までありがとうございました!」
ご足労と思いながらも村長や助ける事が出来た家族とギルドの司祭、そしてアルバート達に見送られる形で朝日を受けて村の出口に立つユキオとハクトがいた。
「長い旅になりますがお気をつけて」
「はい」
「もし追いついたらまた一緒にパーティー組もうぜ!」
「うん!その時は!」
「神の御加護がどこまでもありますように」
「何より、神きゅんの為に!」
「…おお、そうだな…神きゅんの為の!」
(神きゅん?)
ユキオと司祭以外の面々が初めて聞いて疑問が浮かんだ事は言うまでもない。
「…では!行ってきます!」
そう言って背中を向けて村を出るユキオ達に声援が響く…これがこの村での最後の出来事となった。
いざ!次の町へ…
続
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