第五章「この世界の変った所と村を去るまで」第二話

「今回は本当に助かりました!ありがとうございます」

 翌朝、アルバートに言われた通りに村長の家に向かったユキオ(ハクトも同伴)。

温かく迎えてくれた事に戸惑いを感じながらも喜んでくれている事を噛みしめて応接室で椅子に座って向かい合った後改めてなのか村長がそう言った。

「見た限り僧侶や薬を扱う方がそれなりに居たようですが…」

「それはギルド登録者の中におられまして、あの方々にも本当にお世話になりました。もし居なかったと思うと後どれだけの助からない命があったのか…」

その言葉に間違いは無い事はその渦中に居て現場を見たからこそ解る事だった。ユキオの存在は後押しとしては十分な存在だっただろう、だがその前に「直接的な治療の出来る存在」がもしあの時よりも少ない、最悪居ないなんて事があったらユキオであっても目の前の苦しむ人達を最悪全員見殺しと取られる事しか出来なかっただろう。

「それは主として動いてくれた方々によるものが主で私は…」

「いえいえ、あなたの存在で助かった命は間違いなくあったのですからあなたのおかげですよ」

「…そうですか」

 正直そこまでの事をしたとは今も思っていないユキオがそこに居た。悪い話ではあるが「練習用の実験台」とさえ心のどこかで思っていた部分を否定できなかったのも理由の一つなのだが本当に喜んでいる相手にそれを言ったり、言わずとも謙遜が過ぎると取られる事をすれば気持ちに水を差してしまうだろうと思いそれ以上は流す事にした。

「あの後気を失ってしまわれたと聞きましたが大丈夫なのですか?」

「ええ、おかげさまでと言うと何ですけど体調は大丈夫です。そうじゃ無ければここにもこれませんでしたし」

「それもそうですね…ユキオ様はこの後…」

「様は大袈裟です。他の方にも言っておられるならともかく」

「そうですか?では…ユキオさんはこの後はどうなされるおつもりなのですか?」

「あと数日したらこの村を出ようとは思っています」

「そうですか…寂しいとは思いますが冒険者ギルドに登録されておられると伺っております。そうなればこの時は避けられませんから」

「そうですね…ただ…」

「…何か問題でも?」

「恥ずかしい話なのですが「現在地」と言える場所が解らない上に「目的地」も解らないというお恥ずかしい体たらくで…」

「おやおやそれはお困りでしょう。地図はお持ちでないのですか?」

「はい。何分今までが野宿で集落や人の集まる場所はここが初めてだったので」

「そうだったのですね。地図はギルドに申し込めば貰う事は出来るでしょう、今何処に居るのかもその時に解ると思います。目的地は…」

「それはこちらで何とかします。どうしてもの時はせめての手がかりだけでも探して…」

「そうですか。もしわからない事がおありでしたら聞きに来てくだされば解る範囲でお答えいたしましょう」

「ありがとうございます」

 かくして村長とのやり取りは終わり家を出たユキオはギルドへ…

ギルドではユキオ達を見てざわつく人が居た。それはここに初めて来た時の「見知らぬ奴がやってきた」と言う感じの何処か排他的とさえ思えるような空気とは違って歓迎…人によっては尊敬の念を感じられるようにも取られる空気がそこにあり。

それはそのまま前回では「ハクト一点集中」だった視線と興味が「6:4でユキオ重視」位に変わっているように感じた。

「いらっしゃい、何か御用ですか?」

カウンター行くと受付の人が声を掛けて来た。

「あの…地図を貰えると聞いたんですけど…」

「地図ですか?ありますよ。と言うより持ってなかったんですか?」

「ええ、お恥ずかしい限りで」

「大丈夫ですよ。ギルド登録しない人で地図を持っていない人は珍しくありませんから」

「…そうですか」

「それよりも確認したいんですが…」

「何でしょうか?」

「…ギルドカードの使い方ってちゃんと教えましたでしょうか?」

「え?…」

今更過ぎる答えが返って来て言葉に詰まるユキオがそこに居た。

「教わったつもりなんですけど…」

「でしたら地図を改めて貰わなくても大丈夫ですよ?」

「…は?」

その時に教えてもらったのを忘れたのかそれとも教わっていなかったのかそれはともかくとして実はギルドカードの機能として「登録したギルドと八方位的に一番近いギルドまでの地図と現在地を確認出来る効果」という物がある事を改めて教わり、ユキオは改めて固まった。

「…教わって無かったような気が…」

「そうなのですか?でしたら申し訳ございません、あの時は特別な職業の方に気が回ってしまって」

「まあそれはお互い様ですし。あの時は必要ではありませんでしたから」

「そう言っていただけるとありがたいです…では…」

ギルドカードの地図機能の確認と現在地の確認を済ませた後ユキオは奥にある聖堂に向かった。

「おや?ユキオ様…どのような御用で?」

「様はちょっと…」

「何をおっしゃられます。神に選ばれ使命を託された者に様をつけないのはユキオ様にとって失礼では無いとしても神に対して失礼に当たります」

「…そうですか」

「それで御用は…」

「ああ、あの…」

「……神きゅん…ですな?」

「司祭様もそう言われるので?」

「あの後「そう呼んでもよい」と言われましたので…それで」

「そうですね…目的地のより正確な場所を知りたいと思いまして」

「そうですか…ではここで呼び掛ければ答えてくださりますよ?」

「そうですか…では…」

司祭にそう言われて心の中で神きゅんを呼ぶユキオ…すると。

「ボクに聞きたい事って?」

聖堂の、今回は神の像だろう所が輝いたと思うとそこに神きゅんは現れた。

「ああその…より正確な目的地って解ったりする?」

「目的地?それは前にイメージで…」

「あれで何処って解らんって!」

「…それもそうだね。でも目的地を教えると遠回りになっちゃうよ?」

「え?それってどういう…」

神きゅんの言葉に現状の解らない事ばかりな事も拍車をかけて頭も体も固まってしまうユキオ。それを前に神きゅんは…ユキオがこの世界の現状と来た理由、そしてその使命を伝えた時と同じ位の真剣な顔をしたのを確認してユキオは姿勢を正した。

「…ユキオには…「闇の聖域」へ向かって欲しいんだ」


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