第四章「盗賊と因縁と初めての殺人」第五話
「おい!そんな事をして大丈夫だったのかよ?」
気絶したユキオを運ぶハクトに付き添っていたアルバート達。ユキオがこうなった理由がどうしても気になって問いかけ、返ってきた言葉に驚きながらアルバートはそう言った。
「これ以上は無理ですけど今ならまだ…」
全員が駆け足でハクトはユキオを所謂「お姫様抱っこ」して先頭を走っていた。
これが女性なら「恋愛物の名シーンの一つ」として数えらえるだろうがそれが「相対的ブ男」である以上、その違和感は拭えない…と通り過ぎる集団を見た女性の誰かは思ったかもしれない。
程なく部屋に到着してベッドに寝かせたハクト、そして…
「っ!」
何か力を発するように手をかざすとそこから光が溢れてユキオの体を包み込んだ。
「…これで」
「これは魔法か?回復魔法ならソニヤが…」
「いいえ、これは魔法じゃ無いわ」
ハクトが示した力にそう思ったアルバートの言葉をソニヤが遮り、それが間違いでは無い事を示すようにミルが頷いた。
「魔法じゃねえって…じゃあこれは」
「…法力…ね…簡単に言うなら」
「法力?それって僧侶や司祭が主に使う力だよな?」
「ええ。この力が強い程回復魔法はより多彩に、より強力になる。でもこの力は…」
そこまで言ってユキオ達と出会ってからでは一番かもしれない程の真剣な顔をしてソニヤがハクトに近づいた。
「あなたは誰なの?こんな力を使えるって…」
「おい、ソニヤ」
「待てアルバート、別にここで戦う訳じゃないから」
「……」
止めようとするのをエイに遮られアルバートは心配を残しつつも見守る事にした。
「……説明は出来ません。それを許してはくれないのですか?」
ハクトは一瞬悩む素振りを見せたがそう言った。
「全部はね。せめて今ユキオに何をしたのかくらいは教えてもらわないと」
空気が固まるのを感じて真剣な顔をするハクト。それに対してソニヤは言葉を促す為なのか少しだけ表情を緩めてそう言った。
「……今、ユキオは衰弱しています。このままだと死んでしまう位に」
「っな!おい!じゃあこんな事してる場合じゃ」
「そうならない様に処置はしました。私と初めて出会った時と同じように…」
「出会った時?」
そこからハクトは自分の正体は隠したままあの時の記憶を手繰り寄せつつ説明をした。
ユキオがハクトに自分の血を分け与えて回復させたこと…
そのせいでユキオの命が危険だった事…
そしてそれを助ける為に…
「今はそんな事しなかったけど良かったの?」
「もう少し酷ければ…でもそこまででは無いので」
『命を救う為とは言え……二人はキスをした』
その現実とその光景を想像する四人がそこに居て、その反応は様々だったが茶化したり気持ち悪がったりする事は出来なかった。逆に感じたのは……
「そんな思いまでしてなんでユキオはこんな事を…」
「それは…ユキオがしたいからです。献血士として…」
「献血士として…」
その一言の重さを前にアルバートは何も言えなかった。相手を助ける為に自分が危険を晒す事は冒険者じゃ無くてもある事だろう、しかしユキオのした事はもっと直接的でもっと危険な事。それを「したい事」だと…そしてそれが「献血士」と言う彼が名乗る職業の務めだという事に。
「…助かるんだよな」
「え?」
「俺は…こんな事したくねえし、正直解らねえけどユキオがしたくてしたんなら俺は何も言わねえ。でもそれはそれとして助かるんだよな?」
「…はい。明日にでも目を覚ますでしょう」
「ソニヤよりも回復魔法が使えるなら何で…」
「私は回復魔法を使えませんよ?」
「え…じゃあ今のは…」
「私が出来る事は「衰弱による死」を一時的に防いだだけです。後は相手の回復に賭ける事しか私には出来ませんから」
「…心配が無くなるまで回復できると解っているからって事で良いんだよな?」
「はい…それと…」
「それ以上は何となく解るからいいぜ。それだけの物が無いならしても無駄、それがあの時の…だろ?」
「……はい」
「じゃあ俺達と同じ様なもんじゃねえか?それを救えたのは俺達の中じゃユキオしかいなかったからそれをした。それだけだろ?」
「そうですね…」
「じゃ!この話はここまでにして…とりあえず飯食おうぜ。せめて俺達だけでも先に疲れを取っておく必要はあるだろう?」
「アルバートさん…」
「アルバートで良いって言ったぜ?俺は」
「…はい」
そこでようやく空気が和んだのか笑みを浮かべるハクトがそこに居た。
その後部屋を出ていくアルバート達…そんな時。
「…どうした?」
「ちょっと先に行っててくれ、後で追いつくから」
部屋を出て何かを見つけたのか進行方向と反対側に視線を向けたエイにアルバートが声をかけるとそう返してきた。
「…早く来いよ?」
「ああ」
お互いに何かを察してそれ以上何も言わずに別れ、エイはユキオ達の部屋から少し離れた場所に歩いて行くとそこで足を止めて……静かに踵を返してアルバート達を追いかけて行った。
何を感じたのか?そこに何が、誰が居たのか?それを確認する事は結局無いままに…だがそれがはっきりしたと言えるような事が起きたのは動ける様になったユキオが部屋を出ようとしたその時だった。
「っ!」
「ユキオ!」
突然走って来る人影、それに気付くも向き直るので精いっぱいだったユキオをかばう様にハクトがその間に立ち遮った。
「邪魔しないで!」
そう叫び、だが足を止めた相手は…刃物を持った女性だった…そしてそれは…
「…あの時の」
この村にやってきた時にハクト達に群がって来た女性達、その中でユキオに悪態をついて手を叩かれた女性だった。
続
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