第四章「盗賊と因縁と初めての殺人」第四話
「血は魔力の根源である」そんな考えがあると言う。
実際はもっといろんな物が源となっている事だろうが有名な説の一つとして存在しているという。
ではこの世界においてはどうなのだろうか?
魔力特性と呼ばれるものは魔術師であれ僧侶であれそれを名乗る為の適性検査が行われその中で個人差を事前に測るのだという。
そしてその中には「生まれながらに適性の無い者」も存在するそう言ったものは別の職業を志すかそもそも冒険者になる事を諦める者も少なくないという。
……と言う話を後で聞いた行雄。しかし今はそれ所では無かった。
(…全員に輸血は無理や。優先順位を…)
怪我人達の治療が続く現場を前にしてそう思ったユキオは目をこらす…そこには。
(…よし)
全員の上に現BP値を示すウインドウが表示された。それを見てユキオは順番を決めていく。
所謂トリアージと言う物を決めて深刻な相手の順に近づいていく。
「ちょっとええ?」
一番深刻そうな相手に近づいてその家族だろう人に声をかけた。
「あんた一体…」
恐怖と動揺ばかりしか感じられない様子の人が突然近づいて声を掛けて来たユキオに出来た反応はその程度だった。
その先には苦しそうだがそれさえも力尽きて静かな、いや消えそうな息をしている人が寝ていた。
「救いたいなら任せて欲しい」
「え?」
言うが早いかユキオは寝ている相手に近づいて手首と額に手を当てた。
「何を…」
「急いでるから黙って」
「……」
いきなり解らない事をし始めてそれに対しての理由も解らず、だが万策尽きて打つ手なし沈み切った状態の男はユキオの言葉に圧される形で従うしかなかった。
(……出血は収まってる、血液は…減ってる様子は無いが少ない…なら)
自分の目の前に自分と相手のBP値が解る様に出した行雄は…
(…献血…400ml)
心でそう念じて自分から流れて行く感覚を感じながら数値の変化を確認する。
献血前の相手のBPは60…致死量にはなっていないが回復する為には間違いなく少ない程度の血液…それを献血、いや輸血する事で増やして治癒能力を高める事を期待する。ユキオが出来る事はその程度だった。
結局400では足らずに1000mlの輸血でBPを70以上に増やす事は出来た、しかしそれはそのまま…
「ぐっ!」
急激なめまいと脱力を感じて立ち上がる事が出来なくなるユキオがそこに居て…
「ユキオ!」
そんな彼を見つけてハクトがその後からアルバート達が追いかけて来た。
「…やっぱりきつい」
「一体どうなって…」
訳の分からない事が起きて突然体をふらつかせる相手に問いかけようとしたその時だった。
「…はー…」
さっきまで消え入りそうだった息を吹き返すように急に大きな息をし始める相手がそこに居て。
「っ!おい!しっかりしろ!」
回復したのかを確認したくてそれ所ではないと言わんばかりに声をかけた。
「大丈夫?」
「さすがにいきなり1000mlはきつい…ほら」
そう言いながらふらふらして少し重く感じる体を動かしてウインドウを出すとBPは90を切っていた。
「回復しようか?薬で良いならそれでも」
その様子を見ていたソニヤがそう言ってくる。
「出来るなら、でもそれよりもそっちを先に」
そう言って息を吹き返した相手を指さすユキオ。
「あっちを?でも回復は…」
「減った血が増えたならあるいは…」
「血が増えた?それって…」
「ええから速く」
「…うん」
解らない事を言っている、そして心配はユキオの方が上だったが今出来る強い口調でそういうユキオに促されてソニヤが近づいて回復魔法を当てる。
正直魔術師を基本とする自分が出来る回復魔法はたかが知れていた、出来ていたなら自分が率先して救護に当たっていただろう。今もあちこち走り回る薬師だろう人や僧侶だろう人達の様に。
「…ん」
だがそれで十分だったのか呼吸を整えると同時に目を開ける相手がそこに居た。
「おお!無事か?」
「…うん」
嬉し泣きで抱き着く人がそこに居て。それを横目に少し動けるようになったのか立ち上がって去ろうとするユキオに。
「…ん?」
ミルが近づいて静かに薬瓶を出してきた。
「回復薬?」
「うん」
「…ありがと」
貰った回復薬を一飲み、正直美味しくは無いが体が少し良くなった事を感じて。
「よし、次は…」
そう言って次の相手を探して動こうとする。
「私も付き合います」
「ありがとう。それよりも動けなくなった時の事を」
「…うん」
二人の間で気持ちと行動が決まったのか動き出す二人に。
「おい、今何をした?」
アルバートが声をかけるとユキオは答えた。
「献血や」と。
回復薬の効果は想定外な所でユキオを助けた、実は一時的ではあるが血液の回復量を増やしたのである。これにより本来なら無理であろう以上の献血が可能になった。とはいえそれでも限度があり「あと一人増やせるか?」程度でしか結局は無かったのだが。それでも一人二人とそう言う事をしていく中でユキオの存在感がその場で大きくなっていき、最後には最初から処置にあたっていた人達の助けもあって結果的には本来なら救えなかったであろう程の傷を受けた者、出血が多すぎた者を助ける事が出来た。
しかし全員を助ける事は出来なかった。ユキオが来た時にはもう手遅れの者もいた、献血のかいも無く助けられなかった命もあった。だがそれでも助かった事を喜び、その立役者になっていった相手に感謝の言葉を…だがその言葉がユキオの耳に届く事は無かった。
「宿に運びましょう、早く休ませないと」
その時には献血した量の多さから気絶していたユキオがそこにいて。それを気遣ってハクトがそう言って運ぼうとしていたのだから。
かくして「献血士」としての初めての仕事は終わりを迎えて夜が明ける。
朝日を感じて目を開けるユキオ。体はまだ少し重く、BPを確認したら80だった。
(ちゃんと出来たやろか?)
そうは思っても記憶がどこからか飛んでいるのか思いだせない、気絶したのかもしれない、ハクトを助けた時のあの時の様に。
「おはよう」
それを見つけて部屋に入って来ていたハクトが声を掛けて来た。
「…おはよう」
「まだ体は…」
「せやね…あの時と同じやな」
「あの時…」
「ハクトを助けたあの時や…」
「ユキオ…」
まだ本調子では無い事を確認してハクトは気遣ってそのまま寝かせる事にした。食事はハクトが持ってきた分をいつもよりもゆっくりした速度で食べる。
宿の外は騒がしく感じた、事後処理でもしているのだろう。
そんな事を確認してユキオは食事を終えてもうひと眠りするのだった。
続
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