第四章「盗賊と因縁と初めての殺人」第三話
ユキオ達の一方で盗賊達の主力だろう集団はアルバートの読み通りに村長の家近くまで迫り、ギルドメンバーが応戦している状態だった。
「村の中で一番金目のある物が多そうな場所は?」
と言う問いかけにすぐに浮かぶのは「ギルド」か「村長の家」だろう。
しかしこの世界においてギルドに対しては暗黙の了解があった。
『もしギルドを襲撃した場合、その集団全員に賞金首がかかり。生死を問わず全員を処罰か当人が死ぬまで消える事は無い』
というルールが徹底され、それはどのギルドであろうと手法の違いこそあれ先の文言においては統一されていた。
この状態に陥ると「奪った金目の物を換金する方法がほぼ壊滅する」という状態に陥る上に「対象者発見と言う理由だけで即逮捕即処罰が可能」と言う状態に全ての都市町村がなってしまう為結論「奪っても無駄、逆に邪魔」と言う状態になってしまう。
と言う事はの逆説として「ギルドに換金する為に持ち込まれた物が盗品だった」と言う場合でも「とりあえずは受ける」と言う事も徹底されていてそれは「美術品、貴重品の保護」と言う意味合いからも徹底されていた。
そんな盗賊から見ても「極上のお得意様」の気分を損ねる訳には行かないのでその結果がこの状態になっている。
「うおらっ!」
戦いはギルド側の優勢に傾いていた。ギルドを襲撃する事は駄目でもギルドメンバーと戦う事に問題は無く、自警団(自衛部隊)として展開する相手である以上は攻撃する。この一点においての制限は無かった。
「……」
そんな中ハクトはアルバート達とはぐれる事は無かったがまだ震えていた…それどころか。
「あ…あ…」
その頭目らしい存在を見つけた時に絞り出すようにそんな声を上げてより震えが強くなった。
先に触れた通り「ハクト(白馬状態)を襲撃した存在」は間違いなく彼等であり、ハクトはあの時戦う事も出来ず逃げる事しか出来ずそれも叶わないかもしれないと思える程の絶望の中に居た。それがフラッシュバックして今の状態にある、戦う力が無いわけじゃ無い、参戦すればそれなりに戦力になる事も出来るだろうがそれ以前に「戦意喪失」でしかないハクトはソニヤに半分抱き着いている状態だった。
その様子を察して動きの邪魔になってはいるが言えないと思いその範囲で援護の為に魔法を放つ。火球、風刃…絵に描いた様なファンタジーの魔法…しかしそれを。
「っ!…へへっ」
頭目は「剣で切り払った」…加えて言えば「ただの剣で魔法を切り払って無効化した」のだった。
「…魔法斬り」
「そんな程度の魔法じゃ攻撃にもなんねえよ!」
そう言いながら逆に自分の存在を教えてしまった形になりソニヤに向かう頭目。
「っ!」
それを見つけてミルが弓を引こうとするも…
「っ!?」
横から飛んできた投げナイフに動きを止められる。
「おっと!アニキの邪魔はさせねえですぜ?」
飛んできた方をを見ると次の投げナイフを用意しながら不快感を感じさせる笑みを浮かべて言う男が居た。
その一瞬で間合いを詰める頭目の刃がソニヤに…だが。
「…見えてない訳じゃないだろう?」
代わりに阻止に走ったエイがその刃を受け止めて間に立つ。
「へっ!盗賊が剣士に勝てるかよぉ!」
「どっちも盗賊で良くそれが言えるな」
「邪魔するなぁ!」
『職業:盗賊』と『実務:盗賊』の戦いがそこにはあった。だがその結果はエイが優勢になっていった。
「こいつっ!」
「魔法斬りを仕える位だから用心はしたが…それだけか」
「ほざけぇ!」
一旦距離を置いた頃には他の盗賊達は殺されたか捕まるか逃げるかの三択の中にあり、戦いはこの瞬間には終わったような物だった。
「っ!」
そう感じて引き際と思った頭目はもう一人の男と一緒に逃げ始める。
「…っ!ユキオ!」
その先にユキオと家族連れの姿があるのをハクトが見つけた。
「どけぇ!」
逃げる先に目に付いた相手に切りかかろうとする頭目の刃にユキオは
「っ!ぐあっ!」
剣の横を棒で叩く様にしていなすとその勢いで反対側で相手のこめかみ辺りを打ち付けて自分達と距離が離れる様に吹き飛ばした。
「アニキ!っ!」
それを見て怒りから攻撃しようとしたもう一人が構えようとしたその手に一本の矢。さっきの意趣返しなのかその矢はミルの矢だった。
ハクトの声に反応するように駆けつけていたギルドメンバーによって二人は捕縛、ここに一つの盗賊団は壊滅した。
「ユキオ!無事k…」
一段落してアルバート達がユキオに近づいてきてアルバートが声を書けようとした時に彼の返り血に染まり切った顔と服に言葉がつまった。
「……大丈夫だったか?」
怪我はしてない様だったが彼からの雰囲気から察するにその一言だけが全てだと思いアルバートが声をかけた。
「大丈夫…皆は?」
「怪我人が少しな。逃げ遅れて切られた奴もいるし」
「…何処や?」
「え?何処って」
「助けられるんなら行かんと」
「でもお前回復魔法何て使えたか?」
「使えなくても助ける方法はある、やから」
「…解った、こっちだ」
まず自分の心配をと言いたくなるその風貌のユキオが何かを急ぐように言ってきたのでアルバートは素直にその場所を案内する事にした。
「…ユキオ」
その時になってやっとソニヤから離れたハクトが近づいてきて声を掛けて来た。
「ハクトも無事やったか?」
「うん…でも…」
「無事ならええ。今は先に…な?」
「…うん」
恐怖はまだ引きずっている、しかしそれ以上にユキオの姿に恐怖を感じてしまう自分に戸惑う自分が差し替わる様にやって来ていたハクトは落ち込んだ様子のまま従うしかなかった。
向かった先には簡易的な救護施設とでも言おうか手当を受ける者、静かに寝てる者、そして間に合わず亡くなってしまったのだろうか家族らしい人が寄り添って泣いている様子も散見した。
被害は少なかったと言っても良いかもしれないがそれでもユキオにとっては……そう。
『ある都会の歩行者天国で起きた連続通り魔事件後の光景』
をテレビ等で少し見ていた程度だがあの時の光景と同じ様に思える光景がそこにはあった。
「…よし!」
そして、それを前にして気合を入れる様にユキオはそう言ってその場所に入って行く。
「献血士としての最初の仕事」として。
続
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