第四章「盗賊と因縁と初めての殺人」第二話

「くっ!こいつ!」

「野郎!」

 向かい合った相手とさっき吹っ飛ばした相手を前にして二対一の構図でユキオは…実は優勢だった。

 スキルこそこっちが上だがレベルでは二人とも相手が上で、それで押し通せるだけの物は十分あった。にもかかわらずと言う光景がそこにはあった。

 振り回され、近づけず、痺れを切らして襲い掛かればカウンター…そんな光景がある中でユキオは無傷で相手はもう何回棒で打ち据えられたか解らない程で目に見えて「激痛で動きが制限されている」ようにも見えていた。


 この状態の原因は一重に「棒術という戦闘方法が知られていない」と言う事があった。

 槍、長柄斧、ハルバード…色々ある長柄武器、それらだったらまだ対処できるだろう。しかし相手が持っているのは「刃の付いてない長いだけの棒」それを前に無知であるが故の怯みと先の長柄武器のイメージから来る「武器として使えなくなった物」としての油断が相手に「無意識の手加減」を与え、その間隙を突く様に防ぎ、かわし、いなし、打ち据える。

 しかしそんなアドバンテージも効果を発揮しなくなってきていた。


 相手は思い始めていた「相手はこっちを殺すつもりは無い」と。


 ユキオもそのつもりだったがそんな気持ちが相手から少しづつ生まれ始めている事を感じ始める中で心理的優位性は逆転し、それはそのままの形で…

(…仕方ないか)

 とはならなかった。戦いが始まってから今までユキオの中に無かった物、それは一重に「相手への恐怖」と「死の恐怖」だった。

 それこそ先のワーボア、そしてシャドーハウンドとの戦いのときの方がよっぽど感じられたその一切が今は全くと言っていいほど感じられなかった。


 いや…むしろ…敢えて言うなら「殺す事への躊躇」も無かった。

 事ここに至りユキオは決める。

「ぶっ殺してやる!」

 それを待っていたかのように切りかかって来る相手が上から振り下ろそうとする手と顔の間に棒を差し込む様に入れながら相手の胸に自分の背中を当てる様にぶつかり、そこから棒を使っての背負い投げの様な体勢を取りながら棒と手を使って所謂「腕を極める」様にする。

「ぐっ!」

 手首周辺に走る痛みに思わず剣を掴む手の力が緩くなる、それを確認してユキオはその剣を奪い取ると左手の逆手に持ち替えて…

「ぐ……」

 自分の背中…その先の相手の胸、鳩尾辺りに狙いをつけて突き立てた。

「っ!」

 それを見てもうひとりの様子も変わったがそれ所では無くユキオは向き直ると剣の柄に右手を添えて更に突き立てた。

「……」

 剣から血が滴り落ちている、相手はもう動けないのか死んだのか声も出していなかった、剣は…やはり使い慣れていないのか突き抜ける事は無かった。

「…この野郎!」

 発狂とでも言おうかそんな声を上げて切りかかるもう一人を確認するとユキオは剣を抜いて相手にぶつける様に蹴りを入れる。抜いた所から血が溢れて自分を染めていくのを感じる、顔に、服はわからないが浴びているだろう程の勢いを感じさせる吹き出す血…それは運が良かったというべきか襲い掛かる相手にも…

「っ!…ぐっ!」

 それが目の中に入ったのか急に動きを止めて目を抑える相手、それを前に一切の躊躇いなく。

「がはっ!」

 さっき突き立てた相手と同じ場所に同じ手の形で躊躇う事無く突き立てるユキオがそこに居た。


 …ガシャン


 全てが一瞬の出来事、それに対処できずに相手の体から力が抜けていき持っていた剣が落ちた。

 それを確認して剣を抜くユキオにまた血がかかる…

「……」

 生まれてこの方、当然だが転生する前から一度でも「人を殺した事」の無かったユキオ。しかし今この時その一切に躊躇いが無い事に…不思議と驚く事も怖くなる事も無かった。

 ただ…生まれて初めてかもしれない「自分以外の人間の血の匂い」そして顔にかかった分が伝ってきて口に入った事で感じる「自分以外の人間の血の味」をただただ感じて立ち尽くすユキオがそこに居た。

 剣にかかった血油を払う様に一度振ってから用心の為か最初に殺した相手の体についている剣の鞘を取って納めた後見よう見まねで自分につけて棒を拾った後家の戸を叩いた。

「っ!」

 レイの息遣いとも怯えともとれる声が聞こえた。騒がしかった家の外が静かになっていよいよ踏み込んでくるのかと思ったからかもしれない。

「全員無事か?」

「…え?」

 その声がユキオだった事に驚いてちょっとの沈黙の後に声が返ってきた。

「家の前に居た奴は…俺が殺した。今は誰もいないから大丈夫や」


「俺が倒した」とは言えなかった。よくある物語やヒーロー物なら「相手を倒した」で終わらせるだろう、相手を殺したとしても。でもユキオはそう思えなかった。

『どんなに綺麗事で包んでも事実は事実』

 と思うからだった。

 少しして入口が開く、その先には…返り血に染まったユキオがそこに居て。子供には刺激気強すぎて死ぬまでトラウマになるかもしれない程だった。

「っ!」

 それを示すようにリンが息を飲む、レイは言葉を失って固まっているようだった。

「…エレナさん。動けるなら今のうちに」

「え…ええ」

 そんな中で一番冷静であろうエレナに声をかけて避難するかどうか聞くと彼女もそれなりには驚いていたのか一瞬戸惑うも冷静になって子供達と避難する事になった。

 まだ貧血は続いている、速く動く事は出来ないだろう。そんな中もし他へ向かっていた盗賊がこっちに向かって来たら…そんな不安を感じながらも皆を守りながらアルバート達が居るであろう場所へ向かっていくユキオ達……


 その心配が一切無用だったという事に気付く事は結局は無かった…しかし。

「……へぇ」

 家から離れたユキオ達と入れ替わる様にそこにやってきた集団があった。

 その集団の後ろには…盗賊達の一部だろうか?しかし誰も皆殺されていた。

 その中の頭目らしき人…いや、女性がポツリそういう。彼女だけじゃない、集団全員が女性だったその集団。そしてその頭目は実はその家に襲い掛かろうとする盗賊を見つけて向かっていこうとした瞬間にそれより早く駆け付けたユキオと、その戦いの一切を遠くから見ていた。

 もしユキオが家に向かう事が無かったとしても彼女達の誰かが彼らを襲い、守ったかもしれない。


 だがそれも些末事と思える程その頭目の視線は離れて行くユキオ達…いや、ユキオを捉え。嬉しそうな顔だった。


 続

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