第四章「盗賊と因縁と初めての殺人」
第四章「盗賊と因縁と初めての殺人」第一話
あなたは覚えているだろうか?
「白馬だったハクトをおいかけていた人達の存在」を。
実際行雄が出会う事は無かった者達…彼らはその一件でその事を諦めただろうか?
「ったくよぉ~!あれさえ手に入りゃ当分は金の問題も無かったのに」
「どうしやす?」
「どうしやすもなにもねえだろ?代わりを探すしか」
「代わりってそう簡単に見つかるもんなんですかねぇ?」
「見つからねぇなら…その分奪えば良いだけの事だろ?」
「そうでやすね。でもそれだけじゃ無かったんでしょ?」
「ったりめ~よ!あれさえあったら今頃…」
「俺達の盗賊団ももっと大きくなっていましたよね?」
「それはついでだ!それよりも…」
「ああ…イイ女達を丸め込んで…」
「そうよ!「金と女」!それに勝るものがどこにあるってんだ?」
「そうでやすね…それでもしそれが手に入った後は…」
「後は…とりあえず用なしの白馬は適当に売り払って金にするな」
「あんな上玉めったにないでしょうからきっと高く売れたんでしょうね…」
「そうだな。後は…どうなっても知らん!野垂れ死のうと俺の知らねぇ事よ」
「まあそうでやすね。あんな馬をずっとそばに置いておくなんて事したら…」
「そういうこった、目立って仕方ねえ。ま…今はそれよりも…」
「そうでやすね…今は」
「……最近見つけた村から奪い取る!準備は出来てんだな?」
「はい!今夜にでも」
「おう!じゃあその手筈で進めろ!」
「がってん!」
全く諦めていなかった。いやそもそもそれもまた「選択肢の一つ」でしか無いのだろう。「何かを襲い、何かを奪い、金に換える」ただそれだけの為の選択肢の。
しかし彼らは知らなかった、その因縁がその村に居る事を…そしてそれは行雄にとっても一つの転機を告げる事になるのだった。
「夜盗だ~!」
それは村人の叫びと同時に起きた悲鳴と共に始まった。
「…何や?騒がしい」
今日も祝杯で晩酌を、ハクトはひかえていた中で食堂の外が騒がしいのを感じたユキオがそう言ってると。
「大変だ!夜盗の襲撃だ!」
宿屋の入口が開け放たれると同時に駆け込んで来た村人がそう言ってその場が騒然とする。
「っ!」
それを聞いてすぐに戦いのスイッチを入れるアルバート達の横で。
「……」
ユキオは少し固まっていた、ハクトは…怯えている様にも見えた。
「ユキオ、動けるか?」
準備を整えてアルバートはそう声を掛けて来た。
「俺は出来てる。でもハクトは…」
「……ソニヤ」
「任せて。ユキオはどうするの?」
「俺はあの家を確認してくる」
「あの家って…前に厄介になってたって家か?」
「うん」
「解った、でも俺達はついていけないぞ?こういう時はもっと優先して守るべき場所があるからな」
「解った、じゃ!」
言い終わるが早いかユキオは出て行った。
「ソニヤはハクトに付き添ってろ!俺達は村長の家周辺だ!」
気を見るに敏、あるいは経験則からなのかその一言が全員の総意と言わんばかりに静かに頷き合って動く。
村人は逃げ惑い、ギルドに登録された戦士は盗賊に対応し始めていた。
村だからなのか「自衛団」と言える存在は無く、代わりにギルドがあるような物だったがその数はその時の登録数頼みに為に実際は不安定極まりなかった。
それでも今回は優勢だったのか人の悲鳴や火の手は少ない様に見えた、そんな中……
「っ!」
この世界に来て初めて見る…「斬殺された人の姿」を前に行雄は不意に足を止めた。
「……」
何処か高を括っていた事を否定するつもりは無かったがそんな自分をこれでもかと言う程叩きつけてくるその光景に体が固まってしまった。
「……」
『狩る者である以上狩られる覚悟は誰もある。無いのは人間位な物だろう』
あのハウンドの言葉が頭をよぎる、そしてまだ覚悟が不十分だという事を改めて感じた行雄は…それを前にして静かに両手を合わせて目を閉じる…そして。
目を開ける中で改めて覚悟を決めた行雄はまた走り出した。
「っ!」
その家は村の中では外の方にあった為かすぐに盗賊の手が伸びていた。幸いだったのは盗賊が先に向かったのは「金目のありそうな所」でありそのせいでスルーされていた。さっき確認した火の手の少なさもそれが理由だったのだがそれが一段落と思ったら後はついでと言う名の少しでも奪い尽くす為の手当たり次第に襲い始める盗賊達がそこにあり、それがついにその家に及んでいた。
家の中ではエレナがリンを抱きしめて、入口にレイが全身を震えさせてでも少しでも守ろうと立っていた。
「おい、こんな家を襲ったって金無さそうだぞ?」
「そんなこと言って量が少なかったらどやされるだけだろ?忘れてねぇよなあ?」
「ああ…「鉄貨一枚は命よりも重い」…その為なら」
「だったら決まってるよな」
「…ああ」
醜悪で極悪な笑みを浮かべる二人の盗賊が家の外でそんな会話をしていた。
それが一段落していよいよと思ったその時。
ビュッ!
「った!誰だ!」
そこへ石が一つ飛んで行き入口に近い方の盗賊の顔に当たった。
「っ!」
怒りと不快をぶつける様に飛んできた方を向くと、棒を構えて突っ込んでくるユキオの姿があった。
「何もn!」
「ちぃっ!」
完全なる不意打ちだったのか入り口近くの盗賊への突きが成功して大きく吹き飛ばす事が出来たユキオはそこで止まってもう一人の方へ構えた。
「こんな家を守ったって何の価値が!」
「御託はええやろうが!」
お互いその言葉が啖呵となったのか動き始める二人、そしてそれは…
『望月行雄、この世界での初めての殺人劇』の始まりを意味していた。
(我!これより修羅に入る!)
その言葉だけが今は頭の中で響いて体を動かす。そんなユキオだけがただそこにはあった。
続
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