第三章「初依頼 初戦闘 初仲間」最終話

 飲み会も終了して手配した部屋に向かう中でやっぱり飲み過ぎだったのかふらつくハクトに足りない背で肩を貸しながらユキオと一緒に向かった。

 ベッドが二つ、所謂「ツインルーム」だった。片方にハクトを座らせてもう一つにユキオは座った。

「…大丈夫?」

「…すいません」

「ええよ。慣れて無いならこれから慣れればええし、それにもう後は寝るだけやから」

「…そうですね」

 幾分落ち着いたようには見える…しかしこの時の記憶が無い事を後で知るユキオ達…そんな中で何があったのか?今回はそんな話。

「…あの」

「ん?」

「……一緒に寝て良いですか?」

 酔いが醒めない紅潮した顔でそんな事を言い出すハクト。ユキオじゃ無かったら匂い立つ…震えさえ来そうな色気に圧倒されていただろう、それほどの物だった。

「ええけど…ベッド小さくない?」

 だからなのかユキオはそんな心配が先に立ち、問いかけた。

「それは…でも…」

 ベッド自体の大きさは身長2メートルでもない限りは足がはみ出てと言う事は無いが横幅的には大人一人が大の字で寝て一杯程度なので当然の心配だがそれでもと思った様子のハクトに…

「…狭いから寝れないとかやったら改めて…それでええな?」

「……はい」

 妥協案と思って言った事にハクトはすごく嬉しそうにしたので「やれやれ」と少し思うユキオがそこに居た。


 ベッドに二人…狭いから抱き合って…顔を向き合って…身長は明らかに違うのでどこか不格好だが嬉しそうなハクトの顔を見てユキオはこの選択で良かったと思った。

 立ってる時にはありえない「同じ目線で向き合う構図」がそこにあり、それを見てユキオはハクトと初めて出会った時…そして…

(あれは仕方なかったんやろうけど…)

 心肺蘇生法の人工呼吸の為の…と割り切ってはいたが改めて意識し始める自分を感じ始める。

(……キス……したんだよな)

 あれはノーカンと思ってはいるが意識はするのか視線がハクトの唇へ…

『間違いなく男?…だと思う。でも女だったら…でもそれやったら…』

 そう思うユキオ…「恋愛が解らない」とは言った、思ってもいる。でも興味が無いわけでは無い…でも同時に浮かぶのは「だったら俺やないな、相手は」という一言とそれにどこまでも納得する気持ちだった。

「スー…スー…」

 そんなユキオの気持ちを知らずにいつの間にか静かな寝息を立てて寝ていたハクト。その顔はとても安らかで、それを見てると安心する心と共に「こう考えるのも野暮やな」と思ってユキオは目を閉じた…眠りについたのは酒のせいもあってかすぐで次に目を開けた時は窓から差し込む光を感じてだった、何時かは分からないが夜が明けて朝にはなったのだろう。

「……」

 眠気を引き摺りながらも目を開けるとハクトはまだ寝ていた。安らかな顔が変っていない事を確認して何故か嬉しく思う自分を感じながらも…

「ハクト?朝やぞ?」

 いつまでもこのままというのはと思って声をかけた。

「……んう?」

 野宿した時からこういう事は無かったが基本寝起きが良くハクトが先に起きる、と言うよりは「ユキオが起きる時にはハクトは既に起きていた」と言う事がほとんどでこんな事はほぼ無かったと言っていい程だった。

 そんな数少ない出来事の中でハクトはゆっくり目を覚まして……

「…え?」

 眠気が幾分消えただろう時に不意に驚くハクトがそこに居た。

「よく寝れたか?」

「…ええ…でも…」

 ユキオに言われて応えるが驚いて戸惑ってる様にも、恥ずかしくて困っているようにも見えた。

「…何?」

「あの…この状況は…」

「ハクトが一緒に寝たいって言ってきたからやけど…覚えてない?」

「私が?……ええと……」

 自分が言ったという事にさらに驚いて記憶を手繰る様に目を動かすハクト……

「……覚えてないです」

 少しして帰って来たのはそんな答えだった。

「…やっぱり飲み過ぎやった?」

「……そう……ですね」

 改めてどこから記憶が無くなっているか確認してそう思ったのかハクトはそう返した。

「まだ酔いが残ってるとかは無い?」

「それは…はい」

「じゃ、もう少ししたら朝飯行くか」

「……はい」

 そこから「おずおずと」という言葉が似合いそうな様子でユキオに抱き着いていた手をほどいて離れるハクト。

「…あの」

 もう一つのベッドに腰かけて少ししてから落ち着いた様子でハクトが声を掛けて来た。

「ん?」

「…嫌じゃ無かったですか?」

「何が?」

「狭いベッドに寝ていたなら…」

「抱き合って寝ていた分の寝づらさはあったけど気にする程や無いし。俺はハクトの方が心配やけど?」

「私は…」

 ハクトはあの時どうしてそんな行動を取ったのだろう?と無い記憶に振り回されている今の自分にまだ少し戸惑いは残っていたが。

「…大丈夫です」

 結局こう答えるしかなかった。

「…そっか」

 ユキオとしてこれ以上聞くのも切りが無いと思っていたのでそう答えるだけだった。


 部屋を出て一階に向かう中で改めて恥ずかしく思っていたハクト。でも…一つだけはっきりしていたのは「よく眠れた。何時ぶりか解らない温もりに包まれて」という事だった。

 そんな二人に別の部屋から出てきて合流してきたアルバート達。そんな中ソニヤがハクトの様子を見て…

「ねえ?」

「何?」

「……ゆうべはお楽しみだったの?」

 ユキオにそう問いかけた。

「え?…」

 それが何を指しているか察して、でもどうしてそんな事をと思ってハクトを見て、その様子から察したユキオは。

「さあ…どうやろね」

 はぐらかすような、でもほのめかすようにも取れる様に答えた。

「…ふ~ん」

 それを受けてソニヤはそれ以上は野暮と思ったのかそれ以上聞こうとしなかった。

「なあ」

「なあに?」

 代わりにユキオは浮かんだ疑問をぶつける事にした。

「こういうのって…珍しかったりするん?」

 こういうの…つまりは「同性愛(性的含む)」的な事である。歴史を見れば珍しい事では無く、推奨さえしていた時代や世界もあったのだがここもそうなのだろうか?と思ったから浮かんだ疑問だった。

「私の知ってる限りじゃ珍しい事じゃ無いわね」

「…そっか」

 そこでソニヤとのやり取りは終わり。そこから察した事はアルバート達全員が個人差こそあれ同じような事だった。


 その時それが何を指しているのかを結局知らないままだったのはハクトだけだったという事だけを知るのはもう少し後の事だったのだが、ハクトがそれが何を指しているのかを気になって聞こうとしなかったという事もその理由の一つなのだが。


 全員で朝食を済ませて、新しい依頼を探して、ユキオ達にとっては二回目の依頼。前回の様なサプライズは起きなかったのもあって万事順調すぎる程の順調さで終わった。


 だがその中で迫って来てた事にまだこの時はユキオ達も、村民達も知らなかった。


 それが解ったのはその日の夜になってからだった。


 そして…それがユキオにとって一つの転機になるなる事も今はまだ知る事は無かった。


 第三章 完

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