第三章「初依頼 初戦闘 初仲間」第三話
がざっ…
アルバート達の依頼完了を確認して一安心した一同、その時近くの草が揺れて…
「っ!」
全員が身構えるとそこに現れたのは…一匹のハウンドだった。
「何だハウンドか…ユキオ、早速…」
相手を確認して楽勝ムードと思って油断しながらユキオに声を掛けようとしたアルバートに…
「待て!あれは違う!」
出会ってから初めてかもしれない位に大きな声でエイが叫んだ。
「何だ?いきなり」
「全員相手のステータスをよく見ろ」
「相手?そんなのただのハウンドn…」
誰もがそう思った、そう思っていた、他ならぬエイもそう思っていた。誰よりも早く確認してそれに気付いただけに過ぎなかった。
「っ!」
「…そんな!」
「……嘘だろ…おい」
確認したミルは一番の殺意を発しているように感じた、ソニヤは動揺し、アルバートは戦慄した。
「…あれは」
そんな中で確認をしていなかったユキオとハクト…だがユキオには既視感が先にあった。
「っ!おい!」
小走りでそれに近づくユキオに驚いて声を掛けるアルバート。普通なら追いかけるだろう、しかし相手を確認した以上それが出来なかった。それは一重に自分の中の「仲間の命と自分の命の天秤」が激しく自分の方に揺れて動かす事ができなかったからだった。
「……」
「あっ!」
それを見てハクトも追いかける、それを見てソニヤは声を掛けるのが精一杯だった。
たかがハウンド一匹…本当にそうなら数匹の群れ相手でも自分達一人で対処できるだろう…しかし…そこに居たのは……『シャドーハウンド』だった。
それはそのまま「自分達の力では相手にもならず蹂躙と言う名の全滅」か「逃げられるかもわからない中での全力離脱」の二択しか無い事を示していた。
そんな彼らの前で起きた事は…彼らにとって生涯忘れる事は無いという…
「……」
「……」
「……」
二人と一匹が近づく。お互いに攻撃が出来て逃げる事も出来ないだろう位の近い距離に。
一瞬の沈黙があり…ハクトが側に来た事に気付いてユキオはアイコンタクトをするとハクトは意味を察して静かに頷いた。
『もし…もしもや。次出会った時、戦う相手で倒さなければならない相手として向き合う事になったその時は俺はどうしたらええ?』
『……その時は。俺を越える存在になっているか見せて見ろ』
『……』
『そして。そんなに心配するな、狩る者である以上狩られる覚悟は誰もある。無いのは人間位な物だろう』
『そっか…解った』
あの時交わした言葉を思い出す…そして…それが構える事を促すように感じてユキオは…遅れてハクトも構えた。
それを見てハウンドが少し笑った気がしたが次の瞬間吠えて襲い掛かって来た。
『レベル一桁二人vsラストダンジョンで遭遇する敵』
そんな話にもならない光景がそこにあり、勝負は一瞬で決まる…はずだった。
「……」
そこにある光景と開いているウインドウを見比べながらアルバート達は言葉を失っていた。
『シャドーハウンド(手加減)』…そう『(手加減)』がユキオ達が戦い始めた時から点灯していた。
(魔物が…手加減…だと?)
あるのかもしれないがまず聞かない。そしてそこにあった光景は「命のやり取り」と言うよりは「弟子を鍛錬する師匠」の構図にどこか似ているように思えて。
「はあ…はあ…はあ…」
「………」
疲労困憊で大きく息をして、棒を杖の様にして体を支えるユキオとその横で大きく息をしているハクト。
体に傷はある、だがそのどれもが致命傷と言うにはほど遠いがその位置は的確でもし本来の力で攻撃していたら一撃でやられているだろう場所ばかりだった。
「………」
そんな二人を静かに見つめるハウンド……少しの静寂がそこにあって…突然後ろへ振り向いて静かに去って行った。
ユキオ達は静かにその姿が草の中に消えていくのを見ているだけで。
「…認められたって事かな?」
「…そうだと思います」
それを確認してから二人は顔を見合わせてそう言い合って、疲れすぎのせいでちゃんとは出来ないが笑いあった。
「……」
アルバート達はまだ戦慄と緊張の中で動く事も出来ないままだったが…
「…何か来る」
一早く緊張を緩めていたミルが何かに気付いて声を上げた。
その直後ハウンドが去って行った草が広く大きく揺れたと思った次の瞬間…
「ウオォォォ!」
数匹の…今度は本当にこの辺りで出現する「ハウンド」が出現した。それを確認したアルバート達はまだ動けないユキオ達を守る為に飛び出して結果的にアルバート達だけでそれを撃退した。
「なんかごめん」
「それ位いいぜ…それよりも…」
全てが終わり、自分達が倒して無いからと遠慮しようとしたハウンドを結局はユキオ達がギルドで貰った球体を当てていきユキオの依頼はこれで終了した。
緊張は無くなり団欒ムード…しかしさっきの今の信じられない光景が気にならない訳じゃ無く。質問攻めを受ける事になってユキオは改めてここに来る前の(転生してきたという事は伏せて)事を話した。
「野宿仲間だった…って言われて普通信じられねえって」
アルバート言った言葉に誰も反論できないのか他の三人は頷くだけだった。
(シャドーハウンドと野宿仲間の訳の分からない人間…ますます訳が分からねえ)
アルバートはそう思ったが考えても解らないので止める事にした、こういう切り替えの早さを買われてのパーティーのリーダーだったりする。
「でもそうなら良かったのか?仲間と敵になったって事になるよな?」
「それは旅立つ時に確認し合った事やから」
「そうか…ま、とりあえず一安心で任務も完了したから帰ろうぜ」
「せやね」
そう言ってその場を後にして村へ帰るユキオ達…それを遠くから見つめるあのハウンドが居て。
「……フッ」
その瞳越しにユキオ達を戦いのときから見つめていたあの時別れたハウンドが誰とも知れず軽く微笑んでいた。
続
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