第三章「初依頼 初戦闘 初仲間」第二話
戦いが始まる…それはそのまま「殺し合いが始まる」と言える。
相手は人間じゃ無い、だが命なのは間違いない。今から自分は目の前の命と『命のやり取りをする』…
この一点において普通なら動揺し、戦慄し、恐怖し…頭も体も動かなくなっても仕方ないだろう…ましてこれが初めての事なら…
「……」
しかし…意外な事にユキオの中でその揺らぎはなかった。寧ろ段々静かになって…
「ウオォー!!」
一匹のワーボアが今自分に襲い掛かろうとした時には脱力と言える程緊張感も無かった。
「でえやぁ!」
その直前最初に襲い掛かって来たワーボアに切りかかるアルバート。その体格、その剣の大きさ、そして経験から来るその一撃の下に相手はあっけなく倒される。
「っ!」
その直後その少し後ろを追いかけて来た二匹目のワーボアがユキオを標的に襲い掛かるのを確認する。斬撃と反動の余韻で動けない中その目に映ったのは。
「っ!」
「ガァ!」
「やぁ!」
「グアッ!」
「やあぁぁ!!」
「がああぁ!」
相手の振り下ろした拳を避けると同時に棒で弾くと同時に距離を置き。それで動きを止めて振り向こうとする相手に向かって上で棒を回して勢いをつけて振り下ろすと相手の人間で言う鎖骨辺りに当たり、十分な威力だったのか痛そうな声を上げて後ろによろめく相手の人間で言う鳩尾辺りに一度引いた棒を今度は突き立てる。相手はより痛そうな声を上げて勢いよく後ろに飛んだ。
「……」
その一瞬の動きにアルバートは驚きを隠せなかった。一言言葉を上げるならこうだっただろう…「これがレベル1の動きかよ?」と。
その後ろでは別動隊だろうワーボアの相手をするハクトとソニヤが居て、エイは他に敵がいないか気配を探りつつも援護。ミルは前中衛の四人の届かない所の敵に対応するように矢を放っていた。
「はあっ!」
ハクトの動きは先に言った「ムエタイっぽい」動きを基軸としながらもその実は円を…円舞を見ているようだと迫る敵に魔法を放ちながら周囲に気を配っていたソニヤは思ったという。特に…これは不可抗力の事故なのだがソニヤがハクトを援護する為に放った魔法の直線状にハクトとワーボアが居るという状態になった時にそれに気付いたハクトが舞う様に華麗にそれをかわしてワーボアに当てるという事もあった。
「大丈夫?」
経験はあるとはいえこんな事もある、しかししてしまった事を気にして声を掛けるソニヤに
「大丈夫です、続けましょう」
まったく気にしてない様子でハクトはそう答えた。
中衛の戦いはまさに「ソニヤを中心に円舞するハクトの図」そのもので時に近く、時に遠く位置を変えながらもソニヤの動きの邪魔にならない様に徹底した体捌きの中で撃退していく姿に「見とれてしまいそう…こんなの勿体無いわねえ」と思いながら苦笑いしたという。
戦いは後半に入り残るは一体だけ。ユキオがその相手をしていたその時…
「っ!」
「グァウ!」
ユキオの棒をワーボアが掴んで止めた。
「ユキオ!」
危ないと思って近づこうとしたアルバート、しかし…
「グアッ!」
ユキオは動きを止める事は無かった。左手で棒をつたいながら右足を大きく踏み込んで距離を詰め、握った右拳…その親指の爪に中指の爪を当てる事で簡易的に尖った形にした拳で相手の鳩尾に一撃。弱い相手とは言え人間基準では屈強な体と言えるその体に放つ拳からは跳ね返るような痛みを感じるがそれでも動きを止めず左足を引き寄せながら少し屈むとそこから「喉仏の上、顎の下」あたり目掛けて全身の力をその一点にぶつける様に飛び上がらんばかりに突き上げる。
アッパーカットと言うよりは力強く踏みしめる足の力をそのまま上に突き上げるような動きで放つ突きはもっと拳を痛くする。
「ガハッ!」
しかし効果は十分だったのか苦しそうな声を上げて大きくのけ反るワーボア。その効果で棒を掴む力が緩んだのを確認すると勢いよく相手の手から引き抜きながら距離を置く為に相手を蹴り飛ばし…
「はあああぁ!!!」
相手から見て棒の一番手前の所を両手で持ち、開いた距離のおかげで一番反動と勢いのつく棒の反対側を相手の脳天に打ち付ける様に全力で振り下ろした。
「グ…ア…」
大きな衝撃を両手に感じる、それがどれほどの手応えなのか解らないが決定打だったのか相手は白目をむいて倒れた。
「……はあーっ」
全てが終わった事を確認してユキオは棒を振り下ろした体制のまま静かに深呼吸をして姿勢を戻した。
かくしてユキオとハクトの最初の戦いは終わった。結果的にユキオは三体、ハクトは五体倒した、それだけでも援護があったとは言え「レベル1」の、それも「今回が初めての戦い」と言うものにしては異様さを感じさせるものだった。
「……」
そんなユキオを見たアルバートが、ハクトを見たソニヤが、戦いの中で警戒をしながらもどうしても気になって覗いた二人のステータス…そこには。
「レベル1には間違いなく不釣り合いな能力」が記されていた。
だがそれは二人の本当の力を知る事にはならなかったのだがそれだけでも驚き、納得してしまうしかなかったのだった。
「お疲れ」
気にはなるがそれは後でと思ってアルバートはユキオに声を掛けた。
「…はい」
「すげえなお前」
「せやろか、実際はそんなに出来んかったと思うけど」
「そんなわけねえよ!初めての戦いであんなに動ける奴は見た事ねえし、それに…」
そう言いながらアルバートはステータスウインドウを出した、それがユキオの物だと気付いたがアルバートはその中の一点を指す。
「こんなスキル俺は知らねえよ」
そう言いながら彼はやれやれと思いながらも興味深々と言った様子だった。
その一点、そこに書かれていたのは…「スキル:棒術レベル5、武術の心得」だった。
それと同じタイミングでソニヤとハクトの間でも同じ問答がありそこで示されたのは…「スキル:ムエタイ?レベル5、舞踏レベル5、???レベル5」だった。
「これは…見た事無いな」
「そうなのか?お前のステータスだろ?見てないなんて事ねえんじゃねえか?」
「そうなんかね?」
「まあ今まで興味が無い所のステータスだったってんなら解らなくもねえけどよ」
「その可能性しか無いな…でも知らないって」
「俺は知らないね、見た事もねえ。説明は…お前がウインドウ開いたら見れるんじゃねえか?」
「……」
そう言われて自分でウインドウを開けて能力を確認するユキオ、程なくハクトにもその説明をして確認する中で周囲に敵は居ない事を確認して倒したワーボアの回収を始めるエイとミル。
不思議な事だがその時にエイが取り出した球体を相手に当てるとそれに吸い込まれる様に消えて、それが一定量に達すると色が変わった。ギルドから依頼を任された時に渡されるもので標的の死体や採取した野草の回収の為の装置だそうで依頼量を達成するとそれを示すように色が変わるという。
つまりこれをもってアルバート達の依頼は完了した事になった。
続
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