第二章 「最初の村とブ男気質と俺の職」 最終話

 ギルドを出てユキオが向かったのは市場だった。

 時間帯によって品揃えを変えたり、閉店した店と開店した店があったりとはあるが賑やかさは思った以上に変わる事は無いように見えた、夜の市場は知らないが。

「……」

 そんな中を吟味するように見ながら進むユキオにハクトが寄り添う形で進む。先日の出来事のおかげ?なのか女性が集まって来る事は無いが逆に遠くで何か話し合ってる光景が見えた。

「何を探しているのですか?」

 それが何を意味してるかよりも不安や恐怖を感じられない事の安堵感が強いのかここに来てから一番緊張が解けた様子でハクトが問いかけてくる。

「何か言うか…鉄分言うて解る?」

「テツブン?」

「まあそうよな。これからの事を考えると何時までもあの家にご厄介という訳にもいかんやろ?」

「そうですね…何時までもここに居続けるわけにもいきませんから」

「やろ?だから言うてそのままさよならでは何の解決にもならんからせめて何かって…」

「それが「テツブン」ですか?」

「それで解決できるかは解らんよ?俺は医者や無いし」

「そうですね、私もその知識はありませんし。でも心当たりがある分はしておこうと?」

「そんな所や。その上で…」

 歩いてる間でもユキオの視界に入るのは…肉、川魚だろうか?小ぶりの魚、牛乳、鶏肉と卵…色々あるが…

(あの家族が安定して買い続けるとしたら高くないか?)

 と思える程の値段ばかりだった。まあ仕方ない部分もあるが…そんな中。

(…ん?)

 一つの店の前で足を止める、その店は他の店よりは客が少ないように見えた。そこに並んでいたのは…大豆を主にした豆類だった。

(値段は…良さそうやけど聞いてみるか)

 そう思ってユキオは店に近づいた。

「あの…」

「……」

 ユキオの問いかけに店の人は不愛想に見えた。これも客が少ない理由かもしれないがそれは置いておくとして。

「買いたいんやけど、値段は?」

「……一杯鉄貨一枚」

 そう言いながらそれぞれの豆の入ったかごにささったスコップだろう物を指していった。

「袋は貰えたりするん?」

「……」

 言われて用意した袋を見せる、それなりに大きい。五杯くらいなら入りそうだった。

「…下さい」

「…どれにする?」

 買うと決めてそう言って袋を貰うユキオに店の人はそう言ったので、とりあえずと言うか大豆だろう豆を三杯貰った。

「鉄貨三枚」

「はい」

 支払いを済ませて店と市場を離れて家に向かうユキオ達。結論を言うと買った物は大豆で間違いなかった。


「リン。今すぐコンロに火をつけられる?」

「え?…うん」

 家に帰り入って一番ユキオはそう言う。雰囲気が変わったユキオに一瞬驚くもそう言って用意を初めて火加減を確認するとユキオはフライパンを借りて…作ったのは「炒り豆」だった。

「何を作ってるの?」

「ん~炒り豆?」

「イリマメ?」

「と言うか豆ってここやとよく食べられないの?」

「そうだね…」

「そっか…」

 そう話してると次第に香ばしい匂いが部屋に立ち込める。レイはせめての稼ぎと出かけているそうで、エレナは…奥の部屋で休んでいたのか匂いに釣られてかやって来た。

「…この匂いは」

「あ、休んでてええよ」

「ですが…」

「ええからええから!」

「…はい」

 雰囲気に加えて口調も変わったユキオに圧される形で部屋の中の椅子に座るエレナ。

 程なくそれなりに色がついたと思ったユキオは火を止めて別の皿へ、それで冷めるのを待ってから…一粒口に運んだ。

「…ん、よし」

 カリッと音がして口の中で砕ける炒り豆。硬さも問題無いと思ったユキオは…

「これ、食べてみてくれませんか?」

 エレナに進める。

「これを…ですか?」

「うん、ほんまはもっとちゃんとしたもんを料理してって話なんやろうけど俺にはこの程度位しか出来んけど」

「はあ…」

 言われてエレナは一粒口に運んだ。カリッと音がして飲み込む。

「…食べられそう?」

「はい…おいしいです」

「良かった~」

 本当に美味しいのか少し笑顔でそう言うエレナに安堵するユキオがそこに居た。

「……」

「リンも食ってみる?」

「…うん」

 リンも食べてみて…反応は良かった。

「でもこれを食べて何か…」

 そう言いながらも少しづつ、お菓子をつまむ様に食べるエレナが今更のようにそう言った。

「原因がそれかは解らんが貧血が治せるかもしれんって思ってな」

「貧血をですか?」

「うん、説明すると…」

 とは言っても相手にとっては解らない事の方が多かった為補足説明の方が多い位になったが相手が納得してくれた…その時。

「…ただいま」

 レイが帰ってきた。

「お帰りなさい」

「…それなに?」

「ユキオさんが作った「イリマメ」よ」

「イリマメ?」

「まあ一粒食ってみ?」

 テーブルに近づいてそう言うレイにユキオは進めて。雰囲気に変わったユキオに気圧される形で食べる。

「…え?…おいしい」

 驚いてレイはそう言ってテーブルに残った炒り豆に手を伸ばす。

「お母さんの「ヒンケツ」が治せるかもしれないって」

「え?」

「薬って訳や無いんやけど…」

 改めてかいつまんで説明するユキオがそこに居て。その後すり鉢か石臼があるか確認してすり鉢がある事が解ってきな粉の作り方もかいつまんで説明、解る限りで食べ方と作り方、管理方法を説明した後…

(…献血…400ml)

 この家では最後の献血を済ませる、やはりその後ふらつくが。それを補う様に説明の中で作っていた追加の炒り豆をつまみながら水に入れて混ぜた砕けきって無いきな粉を飲む。

「…ここまでしていただいて返せるものは」

 一部始終等を説明し終わった後エレナがそう言うと。

「いや、いい経験をさせて貰ったからええよ」

 そう言いながらユキオはさっき作ったギルドカードを見せた。

「……献血士」

「血を与えて、血を貰って、血を操って…言うと大げさやけどそんな感じや」

「………」

 確かに訳が解らないのかあっけに取られてるようだった。

「それをし続ければ治せるんかもしれんけど何時までもここに居続けるわけにもいかんし」

「…という事は」

「はい、今日にもここを出ようと思っています」

「…そうですか」

 そう聞いて驚く様に子供二人は目を向けた。

「…出て行っちゃうの?」

「そうやね。俺にはやらんとあかん事があるから」

「……」

「その前に心配を一つ消したかった。それだけです」

 そう言うとユキオはテーブルに銅貨一枚を置いた。

「…これは?」

「市場に豆だけ売ってる店があった、今日買ってきた量は鉄貨三枚やった。治って欲しいけどその間に買える分と…しばらくご厄介になった分」

「え?それは…ベッドも用意できませんでしたし一日だけで…」

「余った分は生活のあてにしたらええから。元気になったら働くんでしょ?」

「それは…そうですね」

「子供達に働かせてばかりは嫌なんでしょ?やったら…」

「…はい、解りました」


 一通りの残りの説明と案内を済ませて家を出る時が来た。

「じゃ、お元気で」

「…はい」

「二人も元気でな、薬や無いから皆で食べたらええから」

「…うん」

「…あの」

「ん?」

「…ありがとう、それとごめんなさい」

「ベッドも無く寝かせた事か?」

「…うん」

「それでも俺はありがたかったで?ハクトもそうやろ?」

「そうですね、ありがとうございました」

「……」

 そこで初めて子供達の笑顔を見たユキオ達がそこに居た。


 かくしてこの家から始まった「俺の職問題」は終わりを告げた…それはそのまま「二人の旅立ち」を告げるものだった。


 第二章 完

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