第二章 「最初の村とブ男気質と俺の職」 第四話

 換金した分を案内とは言えいきなり声を掛けて連れ回したとも言える状態にした相手である子供二人への案内兼迷惑料として、最初は「銀貨十枚硬貨一枚」を渡そうとしたユキオだったがそれを前に恐怖を感じているが如く拒んだので妥協点を探る意味とこれからの売り買いで使いやすくする為に両替をしてもらい、その後「銅貨一枚」を渡す事で収まった。

 その後、家に帰る途中での子供達の買い物に使いながら世界の金銭感覚を少しでも理解しようとする中で子供たちの反応が間違いでは無い事がよく解った。

 先の出来事以降数日間はこの町に居続ける事になったがその中で解った事は…


『普通かちょっと貧しい程度の家庭にとって銅貨一枚だけでも結構な買い物ができる額』


 という事が解り。普通に生活する範囲では銀貨どころか銅貨に触れる事も少ないだろう事が特におかしな事では無い事を理解していった。

 手伝いながら歩く中で子供達と話す中で母親との三人家族で生活しており、母親は最近体調を崩しがちだった事もあって自分達が少しでも家計を助ける為と思っての行動だと解る。その事が少し気になった事、そして宿を案内してもらうとしてもその先でまたという不安が消えなかったユキオはその家に厄介になる事をお願いする。

「ベッド無いよ?」

 という少女の答えに。

「家の中で壁にもたれかかって座って寝れたらそれでええから」

 とユキオは返し、ハクトもそれに乗っかった。

 結果的にとは言え良くして貰った相手にそんな事はと躊躇う少女に対して野宿に慣れきっていた二人からすれば雨風をしのげればそれで充分と思っていたので気持ちは受け止めつつも押し通す形になった。

 そんな子供達の案内で家へ…

「…ただいま」

 扉を開けて少女が家の中に声を掛けるとそれに応えるように足音が聞こえて。

「おかえりなさい…その人達は?」

 少しゆっくり…いや、気持ちふらふらしている様にも見える女性がやって来た。

「この人達は…」

「初めまして。この町に来たばかりの中で少し案内をお願いした者です」

 返答に困る少女に助け舟と思ってユキオはそう言った。

「案内…ですか」

 いきなり大人二人、それも知らない人…不安と警戒が無いわけでは無いが。それが体に負担をかけるのか体のふらつきが強くなったように見えた。

「…お母さん、大丈夫?」

 流石に心配なのか近づいて声を掛ける少女、弟の方は母に対してバツが悪いのか顔を背けていた。

「少しは…でも…」

「あの、いきなりやって来て差し出がましくはありますがまずは安静にして貰えれば」

「ですが…」

「恩人に迷惑はかけたくありませんので」

「……解りました」

 母親の方が理解して折れてくれたのか近くのテーブルの椅子に座った。


「体調の方は良くなさそうですね」

「ええ…本当は私が出て働かないといけないのに…」

 子供への申し訳なさと自分の不甲斐なさからなのか促されて他の椅子に座った時に改めて確認した顔色の悪さに追い打ちをかけるように気が沈んだ様に頭を下げる母親。

「薬とかはあるのですか?子供達は薬草を集めていたようですが」

「それは…草のままでは効果が薄いですので。でも薬を買うお金が…」

 その一言から全てを察するには十分だった。子供達の行動も母親に迷惑をかけたくは無いがやむにやまれぬからだったのだろう。

「……」

 不意にユキオはハクトに視線を送った。

「…どうしました?」

 それを察してハクトは答える。

「俺は医者や無いからよく解らんけど…ハクトから見てどう思う?」

「どう…ですか?」

「うん。治せると思う?」

「……」

 そう言われて視線を母親の方に、それを見て少し慌てる様子の母親。「絶世の美男子」…こんな体じゃ無かったらそれこそさっきの色めく女性達と同じ様にしていたかもしれない、しかし今の自分には体調のせいで萎えた気持ちをさらに削られる気がして困るしかなった。

「私も医者ではありませんからはっきりとは言えませんが…」

 そこまで言うとハクトは立ち上がって母親に近づくと…

「…失礼しますね?」

 そう言って片手は母親の額に当て、反対は手首に当てた。

「…熱はなさそうですね。というよりもこれは…」

「…何?」

「人としては冷たい位ですね」

「え…」

 そう聞いて反射的に立ち上がるユキオがそこに居た。

「ユキオ?」

「いやすまん、何かわかった訳や無いんや。でもそれやと病気以前の話かもしれんって思ってな」

「病気以前?」

「…解らんけど。ちょっと変わって」

「はい」

 ユキオに言われてハクトは交代する為に離れた。

「あの…なにを?」

「医者や無くても、薬が無くても治せるかもしれんって話です」

「え…」

「期待は多くはさせられませんけど、やらせてくれませんか?」

 何をしようとしているのかは解らない、でも彼から感じるのは間違いなく「何とかしたい」という気持ちだという事を察して母親は受け入れた。


「……」

(思いだせ、あの時を)

 ユキオはハクトに対してした事を思い出しながら意識を集中していく…その中で見えたのは…


『あの時よりも薄い色の赤い川』だった。


 その原因を探る様にさらに集中していく中で彼女のだろうか?ステータスウインドウが浮かび、「BP」の所に注意を示す表示がされていて、それを開けると主要数値が全部基準以下になっている事と…能力のおかげなのだろうかそこにはっきりとその結果から発生した症状が書かれていた。


『貧血』と。


「貧血…やね」

「貧血?」

「まあ早い話ほってはおけないけど薬までは要らんって話です」

「そうなのですか?」

「はい…そして今、少しだけ治せます」

「え?」

「チクッと来たらすいません。良いですか?」

「…はい」

 いきなりすぎる事、知らない言葉、しかし彼からはより「何とかできる」という気持ちが強く出てきている様に感じた母親は委ねた。

「……」

(これがこの世界での初めての献血になるんかな?)

 そう思ってユキオは額に当てた手から自分の血液を相手に流し込むように、反対の手首をつかんだところからその分で増えた血液から薄い川をこちらに流し入れるように意識して…

(…献血…400ml)

 そう心に念じると、あの時と同じ感覚を手から感じ。それが10分強程度続いてそこで量が満たされたのか流れが弱くなって消えたのを感じて手を離した。

(……よし)

 離した両手からは血が流れる事は無く、相手の体からも流れる事は無かった事を確認して安堵する。


 かくして、この世界において彼の人間に対する最初の献血は終わった。


 続

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