第二章 「最初の村とブ男気質と俺の職」 第三話
室内はそれなりに賑やかで商人、戦士、魔導士等々いかにもないで立ちの人がそこかしこで立ち話なり商品を選ぶためなのか目を通している様子だった。
そんな中にユキオ達が入って来た時に一瞬その場は静寂に包まれた。そしてハクトはさっきよりもより強い視線を感じて…自分よりも小さい体なので全部は無理だが避けて防ぐ為にユキオの後ろに回った。
「…いらっしゃい」
カウンターには男性が居て。その空気を意に介さず声を掛けてきてユキオ達は近づいた。
「これを換金したいんですけど…出来ますか?」
ハクトに向けた他人行儀でも女性達に向けた怒り口調でも無い丁寧と取られる口調でユキオは話して毛皮をカウンターに置いた。
「………」
男性はそれを手に取り、見定める為なのか一見して…
「ギルドカードは?」
買い取ってくれる算段に至ったのかそう言ってきた。
「…持ってないと買ってくれなかったりしますか?」
「……」
ユキオがそう言うと一瞬目を細めた。その通りなら子供達の薬草を換金してくれない理由にもなるかもしれない。もっともギルドカードの存在に今気づいたのだが。
「……ちょっと待ってろ」
少し思案して男性は奥の方に向かう為かカウンターとは反対にある扉に入って行った。
「そういやあ…職業ってどうなるんやろな?」
男性が去ってから今更のようにユキオはつぶやいた。
武器は使った覚えは無い、元の世界では興味本位で買った六尺棒を動画の見よう見まねで触って振ってはいたがそれだけを以て「戦士」と名乗るのは不十分が過ぎるだろう。じゃあ魔法はと言われて「魔法って何?」と即答できる位に心当たりも扱い方も知らない、適正はあるが気付いて無いだけかもしれないが現状ではそうだった。
ハクトだってそうだ元の姿は白馬だが「職業:白馬」って…と思い、改めてユキオは思った。
『俺の職って……なに?』と。
暫くして扉が開いた、男性が奥に来るように言ってきたので促される様にそちらへ向かう事になった四人。
その先には応接間だろうか?それとも責任者の部屋だろうか?それなりに豪勢な部屋があり。子供達は物珍しさと委縮が半々と言った様子だった。
「あなたがこの毛皮を持ってきた方でよろしいでしょうか?」
奥の机に座る男性からそう言われて「そうだ」と答えるユキオ。それを聞いて男性は立ち上がるとその前のテーブルを挟んでおいてある椅子の片方に座り、座る様に促されたのでユキオ達は反対側に座った。
「…この毛皮を売りたいそうですがギルドカードはお持ちでないと伺いましたが?」
「はい。実の所お金も持っておりませんし、その価値と数え方も解らないもので…」
そう言うユキオの少し驚いて子供達がユキオに顔を向ける。
「そうなのですか?」
「何分貨幣経済とは無縁の世界で野宿の生活をしておりましたのでそう言う事にはとんと…先立つ路銀を求めてここに来た次第なのですが…」
実際は半分正解だ。元の世界の貨幣感覚とは間違いなく違うだろうし、ここに来てからはずっと野宿だったのだから。
「そうですか…買い取りをお願いされるのでしたらお受けできますが…」
「出来るのですか?」
「はい、ただギルドカードをお持ちでないとその分の手数料を買い取り価格から引かせていただく事になりますがそれでもよろしいでしょうか?」
「…それは、この子達の分もなのでしょうか」
男性の問いかけに何かを感じたのかユキオは視線を子供達にむけた後、こう問いかけた。
「…それは薬草の様ですね。ギルドカードは?」
「…ない…です」
威圧的、高圧的な態度は一切無いが場所が場所で相手が相手なのか委縮してそう答えるのが精一杯の女の子がそこに居た。
「…そうですか。もし買い取り金額が手数料を下回る事がありましたら買い取りは出来ませんね」
「………」
そう言われて落ち込む女の子がいた。
「勿論、だまして安く買い取るなんて事はしません。そんな事をしたら権利の縮小、最悪剥奪になってしまいますし。そうなってしまえば買い取ってもそれを換金する事が出来なくなってしまいますので」
ギルドにはギルドのお金の流れがあるのだろう。買い取って払ったお金をその分もらえなければ商売は出来ないだろう。商品として出して客に買ってもらうという事もあるだろうがそれだけではという話なのかもしれない。
「…話を戻してよろしいでしょうか?」
「…どうぞ」
「手数料を引いても買い取ってもらえるならこれを買ってもらう事は出来ますでしょうか?」
「…それで納得いただけるのなら」
閑話休題とユキオが問いかけて男性はそう答えた。今出した毛皮の価値も正直解らない、二束三文かもしれない、だが何もないよりはと思ったユキオは…
「お願いします」
そう言った。それを聞いて男性は少し嬉しそうな顔をした後。別部屋に向かい、程なく帰ってくると…テーブルに「銀貨三枚」がおかれた。
「このお値段でよろしければこちらで買い取らさせていただきます」
男性は座り直してそう言った。それがどれだけの価値があるのか解らない。だが子供達が驚いている様子からそれなりに高価なのだろうと思ったユキオはそれでお願いした。
「……一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
銀貨を貰って席を立とうとした時に男性が声を掛けて来た。
「…何でしょうか?」
「この毛皮はどこで?」
「…親友が餞別にと」
「…そうですか」
その会話が最後となりユキオ達は部屋を出て行った。
「…親友の餞別」
その言葉の意味と重さを自分の中で推し測りながら改めて買い取った毛皮を見つめる男性がそこに居た。
ユキオは、ハクトも知らなかったかもしれない…その毛皮は「ハウンドの毛皮」では無かった。
本当にそうなら「一枚で銅貨一枚あるかどうか」程度の価値しかない。しかしその毛皮は…ハウンド達の中でも上位種あたる……
『シャドーハウンドの毛皮』だった。
その希少価値は高く、「庶民であれば一枚あれば最低でも一年は遊んで暮らせる」程度の価値を持っている。
しかしその分入手条件は非常に高く、それこそ「魔王城に乗り込める程度」位の力を持っていなければまず手に入れえる事は出来ないであろう程の代物だった。
そんな物を「親友の餞別」と言って持ってきた彼の存在に儲け話の匂いを感じながらも不穏な空気も同時に感じてそれを推し測る様に動かなかった男性がそこに居た。
続
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