第二章 「最初の村とブ男気質と俺の職」 第二話

 強く自分の手を引っ張るユキオの手が痛い…でも今はそれに縋るように手を振りほどく事が出来ないハクトがそこに居た。

 あの時突然女性達に囲まれた時、ハクトの中にあったのは恐怖だけだった。

『美男に色めき集まる女性たちの集団』

 が彼のはそのまま

『獲物に群がる獣たちの群れ』

 にしか思えなかったからだった。

 人の姿をしていれば再び襲われる事は無い…そう思っていた、思っていたのに起きてしまった事に戸惑い、恐怖し、委縮する気持ち止めることが出来ない中でユキオが発した一言がその空気を変えたが…ハクトには一重に思えた…

『獣たちを挑発して意識を自分に向けた』と。

 実際とは違うが現実はその通りで…しかしその直後からのユキオの様子に別の戦慄を感じたハクトはユキオにされるままに手を引っ張られてその場を離れた。遠吠えの様にあれこれ叫ぶ事こそあれ追いかける事はしなかった女性達。それを見て少しだけ安心する彼がそこに居た。

 ハクトは…今もユキオから発する空気を感じて思っていた…


『もし追いかけてくる人が居たら…本当に顔面を殴り飛ばすだろう…一切の躊躇いも無く』


 そんな空気がある程度進んでいく中で消えていくのを感じ始めた時。

「…大丈夫やったか?」

 不意に足を止めて振り返るユキオがそこに居た。そこに居たのはさっきの空気も雰囲気を残さない、その直前の自分の事を心配する様子のユキオだった。

「……」

 ハクトは測りかねていた。さっきの彼と今の彼のあまりにもかけ離れた雰囲気に混乱さえ感じていた。「どっちが本当のユキオなのか?」そんな言葉が頭の中を漂う。

「…やっぱり町に入らん方が良かったか?」

 そんなハクトに気付く事は無くさっきの事の心配とここに来てからの心配を改めてぶつけるように問いかけるユキオがそこに居て。

「それは…」

 それをすぐには否定できないハクトがそこに居た。

「野宿はもう慣れたし、ハクトがそっちの方が安心やって言うならそれで…」

「それは!」

 言葉が出てこない。一言だけで意思表示するのが精一杯だった。ハクトはユキオの使命の邪魔をしたくなかった、寧ろ助ける為に同行するつもりだった、でもいきなりのこの状態に言葉が見つからない。正直今もここに居続ける事に怯える自分が否定できないのだから。

「……そもそもやけどさ」

「……」

「お金…持ってなかったよな?俺等」

「あ……」

 そんな気持ちを落ち着かせる一言だったのか驚くハクトが居た。


 食事代、宿屋代、関所の通行費等々…先立つ物がどれだけ必要か解らないがお金は間違いなく必要な訳だが実際そうだった。

『無一文どころか武具も道具も無し』

 それが今の二人の現状なのだから。

「……それは」

 しかしその問題はすぐに解決しそうだった。

「ん?」

「あの人がこれを…」

 そう言って…聖獣の力なのだろうかどこからか取り出したそれは…あのハウンドと同じ色つやの皮つきの毛皮だった。

「これは…」

「「先立つ物は必要だろう」って…」

「でもそれじゃあ仲間の死体を売り物にしろって…」

「その覚悟も含めてあの時に言ったんだと思いますよ?」

「……」


『狩る者である以上狩られる覚悟は誰もある。』


 そんな言葉が頭をよぎった。この毛皮は襲われてしまったのかそれとも別の理由なのか余命いくばくもない仲間の供養の為に残していたのかもしれない。

「……」

 ユキオはそれに両手を合わせて拝んでから手に取った。思ったより軽かった。

「…で、これを換金するわけやけど」

「…はい」

「…どこに行ったらええんやろね?」

「……そう…ですね…」

 町の場所は解った、でも街の中の建物の位置は解らないまま。それを聞こうとすればさっきと同じ、いやいたちごっこの繰り返しになる事は明白だろうと思って溜息しか出なかった。そこへ…

「…ん?」

 不意にユキオの視界に「手提げかごに草を山盛りに集めて歩く子供の女の子とそれに付き添う弟だろう子供」が見えた。

「ユキオ?」

 何かを目で追っている事に気付いたハクトがユキオに声を掛けるとそれを指さす。それを追う様に視線を向けると通りの向こうに消えていきそうだった。

「…追いかけるのですか?」

「ん。ひょっとしたら知ってるかもしれんからな」

「…そうですか」

「行こうか?」

「はい」

 二人は子供達の後をつけていく。その二人の方が目立ってやっぱり視線は痛いままだったがさっきの今の伝播が済んでいるのか声を掛けようと近づく女性の姿はなく代わりにあったのは不快な視線でヒソヒソ話をする光景がそこにはあった。


『二人は同性愛者』という風聞が町の中に拡がるのに大した時間はかかる事は無かった。


 つけていった先でどこかの建物に入って行った子供達を見つける、暫くしてその子供達が出て行くのがみえた。落胆している様子がありありと見えてかごの中の草は減った様子は無かった。

「…おい」

 そんな子供達に近づいて声を掛けると女の子は驚き男の子は警戒する。まあそうだろう、知らない大人にいきなり声を掛けられて警戒をしない訳は無いのだから。

「…なに?」

 そんな警戒を全開に姉であろう女の子とユキオの間に立つ弟だろう男の子…そこに。

「…大丈夫ですよ」

 声を掛けながら近づいて目線を合わせるようにしゃがむハクトが居た。

「……」

 雰囲気なのか?それとも子供にもこの美貌は有効なのかたじろぐ男の子がいて、警戒を解き始める女の子がいた。

「私達は場所を聞きたかっただけですから」

「……」

 聖獣ゆえなのか、彼本来の魅力からなのかその場の空気は一気に穏やかになっていく。

「……どこ?」

 警戒を少し残しながら男の子は聞いてきてユキオはさっきの毛皮を見せて換金できる場所を教えてもらった。

 それが今子供達の出てきた場所だという事を知って入ろうとする前に…

「それは薬草か何かか?」

 手提げかごに残っている草に目を向けてユキオは聞いた。

「……うん」

 ここに来て初めて女の子が声を掛けて来た。

「換金できんかったとか?」

「………うん」

 幾分戻っていた様子が戻っていくように落ち込む女の子を前にユキオはハクトに目を向けて、それを察してかハクトは女の子の側に近づいてしゃがんだ。

「…一緒に行きましょうか?」

「え?」

「子供相手だから話を聞いてくれなかったかもしれないのなら私達が付き添えば話は聞いてくれるかもしれないでしょう?」

「……いいの?」

「はい」

 さっきの女性達の囲まれた時とは打って変わって積極的と言える程声を掛けるハクトがそこに居てユキオは安心していた。

 その後子供達に付き添う形でその建物の中に入った。


 そこは『商業ギルド系列の買い取り所』だった。


 続

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