第一章 「元おっさんと魔獣とチュートリアル」 第五話
「……っ」
行雄が意識を失うのと交差するように白馬の息は整い、目を開けた。
自分の現状を確認するように周りを見る白馬の目にハウンドが映る。
「……」
唸り声を上げてはいないが睨んでいる様に白馬には見えた、襲ってはこないだろうが何かに怒っている様にも見えて何だろうと思っていると自分の体の上に何かが乗っかっている事に気付く。
「?」
首から頭を動かすと自分の背中に人間がぐったりした様子で乗っかっていた、
「……何だ?」
思えばこの時初めて声を発した、馬なのにである。それを確認して顔を動かすと睨むハウンドがその人間を見て、その上で自分を睨んでいる様に思えた。
「……助けてくれた?」
「……そうだ」
かすかな状況証拠から察して白馬はそう言うとこれも初めてハウンドが声を発した。人間でもそう聞こえるであろう声である。
「………」
そう言われて視線を改めてその人間へ…だが白馬の心境は「信じられない」の一言だった。
現にさっきまで自分を追いかけていたのは人間だったのだから。
「そのままではそいつが死ぬがどうする?」
そんな疑問を巡らそうとする白馬を遮って促すようにハウンドはそう言った。
「………」
「そいつからは悪意も殺意も感じられない。それ所か俺の言葉が解らないはずなのに言葉が解る様に応対した。そいつには何かがあると思うぞ?」
白馬としては人間の命に価値を感じられずにいた。自分を追いかけて、捕まえて、殺そうとさえする人間の一人でしかないそいつ…それはハウンドも同じのはずだがそういう姿と様子からこう言ってるように思えた…「助けられるなら助けた方が良い」と。
「……」
しかしさっきの今の出来事であの人間達と今自分に倒れ込んでいる人間が違うとは思えなかった。
(助けないの?)
そんな白馬の頭の中に声が聞こえる…神きゅんの声だった。
(え?)
(ハウンドが言ってる事は間違って無いよ?それにこの世界に彼を連れて来たのはボクだから)
(神…それは…)
(うん。まだ信じたわけじゃ無いけど彼は合格だよ)
そう、確かに少し前に神きゅんは「合格」と言ったがそれが何を意味するのかを察して白馬の彼に対しての印象が変わっていく。
(どうすればいいか…解るよね?)
そう言うとそれ以上声が聞こえてはこなかった。
「……」
少しの沈黙と思考なのか動かなかった白馬は人間をゆっくり地面に倒すように体を動かしながら立ち上がる。
「………」
顔を近づける白馬、息はしていないように思えた。それでも生きているのかさえ解らないが気持ちは固まったからなのか白馬がその人間…行雄にキスするように口を近づけると…
「……」
ハウンドの目の前でいきなり白馬の体が光に包まれて…それが収まった後そこにあったのは……
『行雄を抱きかかえてキスをしている…輝くような金髪に白い肌、透き通る青い目をした美男子』だった。
「…ん…んう…」
少しの沈黙がそこにあり、それを破ったのは息を吹き返してなのかうめき声のような声を上げる行雄…意識を取り戻してなのか目を開けると…
「んん!?」
(え…え?男?いやそれよりもこれって…キスぅ!?)
いきなりすぎる事にまだ頭がボーっとしている中で混乱する行雄に思考することが出来なかった。
「……はあ」
それに気付いてか口を離す白馬?人?男?まあ確認する事さえ今の行雄には不可能でその目に相手の顔が映った時に思った…
(……美人やなあ)
ただどこまでもその一言が全てだった。そして思った事が口から出る…
「天国…か?…ここ」
それを聞いてなのか少し目を細めた後顔を緩めて彼は言った。
「いいえ、貴方はまだ生きていますよ?」
「……そっか」
それを確認するには体を動かす事も出来ない位重くて目には相手の顔しか見えていないのだから仕方ない…そんな中でも少しづつ落ち着きを取り戻していく中で…
「白馬は…」
「え?」
「あの白馬は…無事やったんかな?」
そういう行雄を前にして改めて彼が自分を助けようとしていた事を確信する。あの状況でも完全に信じきっていなかった彼が信じきる瞬間だった。
「大丈夫ですよ?」
「そうなんかな?」
「はい…」
そう言うとゆっくり行雄を地面に寝かせるとその視界に入る様に動いて直後、彼の体が光り、それが収まるとあの白馬になっていた。
「………」
「ありがとう。あなたが助けてくれなかったら私は生きて無かったかもしれません」
「……そっか…よかった」
体が動かせるようになった中で行雄は口元だけを動かして笑った。
「驚いて無いようですね?」
そんな行雄を不思議がって彼がそう言うと…
「まあ……異世界やし……」
「…異世界?」
そう行雄が言って疑問に思った彼に行雄は取れていく疲れと相談しながらここに来る切っ掛けと神きゅんの話をする。
「神きゅん?」
「うん、そう言って良いって言われたから」
「…そうですか」
「知ってるん?」
「はい、先ほど声が聞こえましたし…」
そこまで言って体を人間に戻して行雄の側に座って彼はこう言った。
「私は……聖獣ですから」と。
続
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