第一章 「元おっさんと魔獣とチュートリアル」 第四話

 白馬に対して初めての献血?輸血?をする行雄。効果は思ったよりも早く出て頭の中に浮かんだ「氾濫した川のイメージ」が「どこからか流れて来たもので決壊した部分が塞がっていくイメージ」に変わっていくのを確認して一安心するも目を開けて様子を見るとまだ荒い息をしていた。

 幾分おさまったようには見える、だが一安心と思うにはまだまだと言える状態に疑問を感じて出続けているウインドウを見比べ行雄。

「血小板が…流れた?」

 自分と相手の数値を見比べてそんな感想が浮かぶ。自分のBPの血小板が2/3に減り、その分相手の数値が上がっている様に見えた。しかし…

「思ったよりも増えて無いなこれ」

 誰ともなく完全な独り言の行雄。彼にとって独り言は癖の様なものだった。

「………っ」

 その直後、不意に頭がボーっとし始める。危険を感じて気合を入れ直すもそれで治りそうもなく酷くなる一方の様に感じて数値を見ると…

「……80」

 この時点で行雄のBPが80まで減っていた。対して相手のBPは幾分増えた程度だった。

「もっと輸血を…でもそれしたら…」

 戦慄がよぎる。これ以上となると、いや今の時点でこの程度しか回復していないという現実を前にあとどれくらい必要なのか?という疑問にたじろぐ気持ちを抑えられなかった。

「………」

 白馬はまだ荒い息をしている…このまま経過を確認しながら…という考えが悪化の一途をたどるボーっとした頭の中では浮かばなくなっていた。

(……死ぬか?俺)

 この一言が急激に膨らんでいく。始まったばかりの異世界人生早くも二度目の死の危機……しかし。

「……それもええ…かもな」

 不思議と、あるいはおかしくなったのかポツリそういう行雄は相手に触れる範囲を増やすべく上に倒れ込み可能な限り腕の全体を相手の体につけた。

「…神きゅん…ごめんな」

 体勢を確認してから行雄はポツリそう言って目を閉じた。気が遠くなっていくのを感じる、意識が無くなっていくのか解らないが相手に触れた腕から相手に流れ込む感覚を確認して安心したのか体から抜けていく力の中でかろうじて笑みを浮かべる行雄。

(……でも……ありがとう)

 こんな事で良いのか?何でそんな事を思ったのか?それは彼しか分からない。

 最早誰も見なくなり消えたウインドウ。行雄の意識が無くなった時BPは60を切り、減少速度が緩やかになってはいるがまだ止まりそうもなかった。


 かくして…彼の異世界人生はかくも早く終わろうとしていた………それが決定する直前。

「………っ!」

 白馬の荒い息が完全に収まり目を開けた。どれだけの血が流れたのだろう?しかし行雄の願いが叶った瞬間だった。


 それを彼方で見つめていた神きゅん。その顔は…意外にも笑顔だった。

 人が死んだのに?自分が送り出した相手なのに?と誰かが言いそうだがその直後神きゅんが言った言葉は…


「……合格♪」


 だった。


 続

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