第一章 「元おっさんと魔獣とチュートリアル」 第二話

 よく見た事のある森。木々はそれほど生い茂ってはいないが周りを見れば所々で木漏れ日が差していると思える光を見る事が出来る。


 ここがそれだけ開けているだけなのかもしれないそんな所に彼は、行雄は降り立った。


(え~と…どっち?)


 目を開けて周りを見て最初に思ったのはそうだった。「人気のない所」なのだから近くに村か町があるのかもしれない、しかしそれがどっちにどれくらいの距離であるのかを確認する術がなかった。方位も知らなければ地図も無い、どうしたものか?と考え始めたその時だった。


「っ!?」


 突如こっちに向かってくる何かを見つける行雄。正確には何かが走る音が大きくなってそれが馬の走る音だと解った直後…


「うわっ!?」


 行雄はそれを見つけて咄嗟に避けた。それが行雄には光が駆け抜けたように思えたが実際は違った、それは…


『全身が輝く程綺麗な白馬』だった。


 それに一瞬見惚れて、でもいきなりの事での戸惑いの方が大きかった彼の中ではっきりとした記憶として残る事は無くそれは駆け抜けていった。


「……」


 何だったんだろう?あれはと思ったそれを追いかけようとしたその直後視界に黒い何かが入って来て。


「うわっ!?」


 それに襲われて仰向けに倒れる行雄に覆いかぶさるそれが黒い色の犬型の魔物だと気付く。


(ハウンドか?って言ってる場合や無い!)


 相手の方が力が強いのか押し負ける行雄に唸り声を上げるハウンド?は何時でも噛みつきそうな威嚇と殺意を感じさせ続けた。避ける事も逃げる事も出来ない事は確実だと思った行雄は…


「っ!?」


 噛みつく為に開いた相手の口に自分の左腕をねじ込んだ。ここで拳を喉の奥に入れるように突っ込んでいれば違ったかもしれないが咄嗟でそれが出来なかった結果…


「があああああぁ…」


 ねじ込んだ左腕に噛みつくハウンド?。相手の牙が腕に入って行くのが目に見えてそれに合わせるように左腕に激痛が走る。元の世界でも感じた事も無いだろう激痛が腕から走り声が抑えられなかった。


「グルルル……」


 噛みつき、牙に力を入れてさらに食い込ませる為なのか唸り声を上げるハウンド?そこから血が流れて服に滴り落ちて赤く染める。それを確認したその時。


「っ?えっ?」


 その時、不思議な事が起こった。


 相手に噛みつかれたそこから吸い込まれる感覚を覚える行雄。相手に腕から血を吸われているからそうなのかもしれないがそれとは違う吸い込まれる感覚に戸惑いしか浮かばない行雄…しかし。


「…?…?」


 それは相手もだったのか唸りを上げていた声が収まり力を入れた牙も次第に弱くなり、程なく牙を抜いた。そのせいでそこから血が飛び出す、反対の手でおさえるが血は止まりそうもない。


 痛い!逃げたい!でも逃げられそうもない!そんな焦りと恐怖に痛みも合わさって増幅されて行感情に圧されたのかおかしくなったのか…行雄は地面に仰向けで大の字に倒れた。


「…っふ…はははははは…」


 大声では無いが笑みがこぼれて笑いが追いかけて出てくる。声が大きくなる事も無いが笑いが止まらなかった。


(物語やったら瞬殺で終わるな)


 そんなふと思う事もおかしく思ったのか声が出なくなっても笑いが止まる事が無かった…その時。


「……ん?」


 地面に倒れて抑える事も諦めていた左腕に何かを感じて顔を上げると相手が自分の傷口を舐めているのを確認した。その時になって初めて相手が傷ついている事に気付く行雄。自分の服を染めた血には相手のもあったのかもしれないと思いながらも自分程では無いが今も流れ続ける相手の体からの血が止まっていくのを見つけてそれが止まると相手が舐めるのを止めて顔を覗き込んで来た、その顔から殺意や敵意は感じられなかった。


 自分の血を浴びる危険性もあったが左腕を上げると痛みはまだまだ残っていたが血は止まっていた。


「……治してくれたんか?」


 そう言っても言葉は伝わらないだろう。だが自分に起こった事が解らない事なのか頭をかしげるように動かす事がありながら耳を少し下げるハウンド?


(今…俺の状態って)


 そう思って解らない行雄は上体を起こした後。目を閉じて…


(神様?)


(なあに?)


 聞きたい事があるので呼びかけるように心で叫ぶとすぐ近くに居るかのようにすぐに声が返ってきた。


(今の状態って解ったりするんですか?)


(出来るよ?それよりもかしこまらなくて良いって言ったけど?)


(それはそれって…)


(だったら止めようかなあ~?)


(ちょ!それって!)


(嫌だったら…さん!はい!)


(…解った!解ったから!)


 声が聞こえてから目を閉じてる間は目の前に神様が見えているのだが「○○きゅん」って言われそうな美少年が無邪気にそう言ってるとしか見えない現状に行雄は折れるしかなかった。


(それでどうやったら?)


(そういえば言ってなかったね。心で念じるだけで出てくるよ?目を開けても出てくるし)


 そう言われて念じると見た事があるようなステータス画面が出てきておあつらえ向きに解る字で書かれていた。それを一つ一つ確認していくと…


(……BP?)


 一つだけ解らない「BP95/100」という要素と数値に疑問を覚えていると。


(それは今の体の中の血液量だよ?)


(という事は「ブラッドポイント」?)


(そうだよ?後その数値が増える事は無いよ。どれだけ残っているか解るだけ)


(そうなんやね)


 そんなこんなを神と会話して確認しながら既に大人しくなった、しかし離れようとしないハウンド?を横にしながらステータス画面を扱う為の練習をする為にあれこれ触り続ける時間が過ぎていった……


 続

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