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「やっほ!」


「わっ!?リースさん、お、お久しぶりです。」


 ひょっこりと顔を出したリースに一瞬ビクッと驚きながらも挨拶を返すメイ。その横でバリーはリースに向かって深く頭を下げた。


「お疲れ様です姉さん。」


「うんうんバリーもお疲れ、エリー達のことありがと~。」


「あ、あのエリーは……。」


「あぁ大丈夫大丈夫、ケガとかはさせてないし、ピンピンしてるよ。」


「そ、そうですか。」


 ホッと安堵のため息を吐き出したメイに意地悪な笑みを浮かべながらリースが問いかける。


「う~ん?メイちゃんは私の心配はしてくれなかったのかなぁ~。銃も三発撃たれたしぃ……ナイフも刀身がとんでもないスピードで飛んできたんだよ?」


「あ、いや!!そ、そんなことはなくて……。」


 あわてて否定していたメイのもとにエリーがやってくると、リースの服の襟をつかんで軽々と片手で持ち上げた。


「お袋、あんまメイにいじわるすんじゃねぇよ。」


「あはは!ごめんごめん、久しぶりだったからエリーやメイちゃんがあんまりにもかわいく見えちゃってさ。」


「ったく、ガキじゃあねぇんだぞ?」


「体はまだまだ子供よ?」


「体な。歳はアタシ達よりもはるかに上だろうが。」


「それは言わない約束でしょエリー?」


 じろりと視線を向けられたエリーはそれ以上口を出すのをやめた。その様子に再びにこりとリースは笑うと二人のことを施設の中へと招き入れる。


「さてと、まぁ二人が帰ってきた理由はわかってるよ。中で話そう。バリーは警備よろしくね。」


「承知しました姉さん。」


 そしてリースは二人を連れて施設の中へと入ると、二人を自分のオフィスへと連れていく。高級そうなソファーに三人は向かい合うと、エリー達の前にリースはクリップで留められた書類を差し出した。


 その書類に目を向けたエリーとメイは二人そろって驚いた表情を浮かべた。


「こいつは……。」


「吸血鬼事件の概要さ。二人はこれの犯人を捕まえるために戻ってきたんでしょ?」


 飄々と言ったリースにメイが問いかける。


「あの、これってこの国の機密情報……ですよね?」


「うん、国の上層部の方ではそうなってるみたいだね。」


 リースは二人の前でパソコンを広げると、カタカタと手早いタイピングでなにかを入力し始めた。そしてタンッ!とエンターキーを押すと、パソコンの画面をエリー達へと見せる。そのパソコンに移っていた画面を見てメイがまたしても驚愕し目を丸くした。


「こ、これ……国の機密情報のファイル!?い、今の一瞬でハッキングしたんですか!?」


「あはは、これぐらいのセキュリティーならメイちゃんでも簡単に突破できるよ。国家機密って言ったってアメリカのペンタゴンほど強固じゃないからね。」


 リースはファイルの中にあった『吸血鬼捕獲計画』と名称がつけられたものを開く。


「ここにはキミ達が聞かせれているであろう内容が記載されているよ。それとこの計画を実行するにあたって、あらかじめキミたちがこの任につくことも決めてあったみたいだね。政府にとってキミたちはある意味では最適な人材だったってわけだ。仮にこの依頼で死んでしまったとしてもすでに死亡している扱いだから何の問題もない。それでいて高い戦闘能力と豊富な戦闘経験も兼ね備えてると来た。まぁ白羽の矢が立つのも無理ないって感じだね。」


 エリー達は機内では聞かされなかったなぜ自分たちがこの任に抜擢されたのかを、リースの口から聞くことになった。


「チッ、勝手に死んだことにしやがって。こっちはこの通りピンピンしてるっつーの!!」


「でも、まぁそういう扱いにしてくれたおかげで私たちまたこんな風に日本に戻ってこれたし?依頼のお金もいっぱいもらってるし?案外悪いことばかりじゃないわ。」


「お前は金にしか目がねぇのかよメイ……。」


 相方の思想にすっかり呆れたエリーは俯くと頭を抱えた。盛り上がっている二人にリースは問いかける。


「さて、これから二人はどうするつもり?」


「どうするも何も、探してみるしかねぇだろうなぁ。」


「証拠が依然この監視カメラの映像しかないのに?」


「うっ、そんなこと言われてもよぉ。」


 言葉が詰まる二人にリースはやれやれと苦笑いを浮かべると、パソコンの画面でまた新たなファイルを開いた。


「この吸血鬼事件のことは実はこっちでも少し調べていてね、もう監視カメラに映ってた女の子の名前まで調べ上げてるんだ。」


 そしてリースは個人情報が記されたデータを二人に見せる。


「監視カメラに映ってた女の子の名前は芦澤あいざわカナ。孤児院生まれで両親は不明、現在は都内のタワーマンションに住んでるみたいだよ。」


 ぺらぺらと監視カメラに映っていた吸血鬼の女性について話し始めるリースに、エリーとメイの二人は驚きが隠せずにいた。


「なんでもうそんなことまで掴んでるんだよ。まだアタシたちに依頼した奴らでさえも知らないだろその情報。」


「ま、お母さん天才ですから♪」


「天才で片付く次元を超えているような……。でもリースさんだし……ね。」


 リースのトンデモ才能にすっかり呆れるしかないエリーとメイだった。

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