第54話 最終話

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


54 最終話


エリンシアが王宮に移り住みだしてから、半年が過ぎた。

ルキノはエリンシアより一足早く、結婚式を挙げて公爵夫人になっている。


ルキノはセルネオのサポートをしながら、アザルトルの領地を管理している。勿論エリンシアに報告と相談をしながら、エリンシアの意向に沿ってであるが。


「まだ貧困層が全ていなくなった訳ではないわ。」

ルキノは王宮でエリンシアに報告していた。


「そうね。感謝祭のシーズンも近い事だし・・・。」


「えっ、今年もやるの?感謝祭。」


「当たり前じゃない。領民と約束したもの。次の感謝祭は前のものよりも良くするって。」


「じゃあ今からでも計画。始めなくっちゃね。」


「失礼します。」

2人の会話を割って、リーナとアリベルが入ってきた。

紅茶のセットと焼き菓子を乗せたワゴンを押しながら。


何故アリベルも一緒かと言うと、大貴族会でエリンシアの婚約を不当だとアートゥンヌ伯爵が訴えた件。

リーナに買収されて、エリンシアに味方したと思われていた。

だがアリベルは買収された訳ではない。アザルトル侯爵に会いに行った時、弱点の虫の話しを教えてくれたリーナの意味深な笑みに強く憧れたのだ。あれ以来弟子にしてくれと、付き纏われていた。


しかし、リーナはエリンシアの専用侍女でありエリンシアが住む宮殿の侍女頭である。

おいそれとアリベルを宮殿に上げる訳にはいかない。

そこでルキノの侍女として、修行をしているのである。


「今年の感謝祭、アリベルに準備委員の参加をさせてみては?」

エリンシアもとんでもない事を思いつくものだ。


「去年の感謝祭で、領民の女の子を泣かせたのに?」


「だからこそよ。どれだけ成長したか見ものね。」

2人は顔を合わせて笑った。


アリベルは真っ赤な顔をして、恥ずかしそうにお茶を入れている。


「今日の話し合いは、リーナとアリベルも参加して頂戴。」


「感謝祭の予定を立てましょう。」


アリベルとリーナもテーブルに着き、一緒に話し始めた。

花の香りが程よい庭園の中、横道に逸れながらも楽しそうに話し合う姿を、シグルドとセルネオは眺めていた。


「感謝祭のお話ですか?私も入れて下さい。」

どこからか突然ベルンが現れて、自分の椅子とお茶を用意して貰っている。


「去年の感謝祭も参加しましたから、私の意見も貴重ですよ。」ベルンが微笑みながら言った。


「では、ベルン殿下からも目玉商品を出して貰いましょうか。」ルキノがラッキーとばかりに言ったので、一同が笑いに包まれた。


シグルドとセルネオは、自分たちが入っていけなかった輪に、さらりと入っていったベルンを羨ましそうに見ていた。

「兄上にこんな才能があったなんて・・・。」


「前からですよ。やたら2人とは仲が良いです。」

仲間に入って行けないセルネオも、少し不満気な顔だ。



◆◇◆ ◆◇◆


2ヶ月後シグルドとエリンシアの結婚式が行われた。

同時にシグルドは王太子になり、王太子の結婚式は華やかに、そしてパレードまで行った。


王都の民衆は大歓声を上げて、2人を祝福した。

(王太子、万歳!)

(王太子妃殿下、万歳!)

花吹雪を降らせたメインロードを、手を振りながら笑顔を振りまいた。


無事結婚式を終えた2人は、新婚ホヤホヤだったはずが・・・。

エリンシアは来週には領地で感謝祭を催すと言う。

準備にバタバタしていて、会えない日が続いていた。



◆◇◆ ◆◇◆


感謝祭当日。

エリンシアは花嫁衣装をそのままに開催の挨拶をした。


「領民の皆様、ご存じの通り私は王太子妃となりましたが、お約束した去年よりも立派な感謝祭を開催するために戻って参りました。今年は第一王子、ベルン殿下も景品を提供して下さいました。」


隣にベルンが並び立つ。

「我が義妹の愛する領民の皆様。感謝祭にお招き頂き有難うございます。今年も楽しませて頂きます。」


「皆様、今年もどんどん稼いで、たくさん楽しんで、そして税金をいっぱい払って下さい。感謝祭を開会します。」


早速ルキノとアリベルは、中央公園のフリーマーケットを見に行った。去年と同じく、女の子が花冠を売っていた。

今年はブーケ等も作っていて、成長した姿を見せてくれた。


「昨年はごめんなさい。花冠を頂けるかしら?」

アリベルは、前回泣かせてしまった女の子に名誉挽回をしに行った。


「有難うございます。1200リルです。」


「あら?去年は300リルじゃなかった?」


「お姉さんは、特別価格です。ブーケもお付け致しますよ?」


「うーん。・・・分かったわ。はい、1200リル。」


「有難うございます。」


「こんにちわ。私も花冠とブーケのセットをお願い。」


「はい。600リルになります。」


アリベルはルキノを横目で睨んだ。

ルキノは苦笑しながら、アリベルを嗜めた。

こんな小さな少女が、成長したものだ。アリベルの罪悪感をお金に変えて、遺恨を解消したのだから。 


「アザルトル領民はみんな、逞しいわね。」


「はい。これからも段々と発展していくと思います。」


「エリンシアとベルン殿下の元に、急ぎましょう。」




感謝祭は大盛況で幕を閉じた。

ルキノは王家の歴史書が封印される時に書いたメッセージを思い出していた。

ルキノ様に届くと良いのだけれど。




=ルキノ様へ=

 

貴女が幸せでとても嬉しいです。

勿論私も幸せに過ごしています。

ルキノ様も新しい家族と愛のある生活を送って下さい。


ユイナより





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました。』 七西 誠 @macott

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ