第53話 プロポーズ大作戦!!

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


53 プロポーズ大作戦!!


「さぁ少し急ぎましょうか。」

馬車が宮廷に到着し、リーナが案内をしてくれている。

それよりも、今日のリーナの表情が微妙に変だ。

何時もに増して無表情で、口数も少ない。

エリンシアもリーナの様子の変化に気が付いている様だが、あえて口にしない。

淑女とは、そうあるべきなのだろうか?私もエリンシアを見習って、口に出さずにいた。


リーナの案内に従い足を進めて行くと、見覚えのある温室の前まで来ていた。王族の許可無くしては入室出来ない、王妃管轄の温室園だ。


何の躊躇いもなくリーナはその扉を開いた。

事前に許可を得ていたのだろう。


何が何だか訳の分からないまま、エリンシアと慎重に足を踏み入れる。


「エリンシア様は、あちらの方向へ。ルキノ様は、向こうへとお進み下さい。」

リーナが手を向ける方向は、エリンシアとは反対の道だ。

怪訝に思いながらも、リーナの言う通りに進む。


リーナは2人の間の道を真っ直ぐに進んだ。

リーナの行く先には、少し高めの脚立が用意してあった。

普段庭師が使っているものを、ちょっと拝借したのだ。


脚立を数段上がっって、オペラグラスを取り出して左右を確認する。シグルド殿下サイドも、セルネオ様サイドもバッチリと見渡せる。当然だ。セッティングは私がしたのだから。


シグルド殿下はエリンシアに片膝を付いて、手の甲に口付けた。エリンシア様は、顔を真っ赤に染められている様だ。

(まだまだ初々しいな。)

何時も強気のエリンシア様も、今日はタジタジだ。

何やら良い雰囲気で、シグルド殿下が愛を語っている様だ。

こちらの成果はまずまず。


リーナは首をぐるりと回した。

セルネオ様は、後ろ手に待っていた花束をルキノ様に渡した。

驚いた顔をしたルキノ様だったが、直ぐに笑顔を取り戻し花束を受け取っている。

(ルキノ様は鈍い所があるからなぁ。セルネオ様も大変だ。)


セルネオ様は恥ずかしさからか、ルキノ様から顔を背けてらっしゃる。ルキノ様は、不思議顔だ。

(セルネオ様、ハッキリ申し上げませんとルキノ様には通用しませんよ。)

リーナは声の届かない場所からエールを送った。


するとリーナの声が届いたかの様に、セルネオ様が覚悟を決めた様だ。気不味そうな雰囲気の中、プレゼントであろうネックレスをルキノ様の首に掛けてあげているご様子だ。ルキノ様も漸く理解され始めた。

何事にも無頓着なルキノ様も、流石に恥ずかしそうにしている。セルネオ様は、ルキノ様以上で耳まで赤く染まっている。


こうしてシグルドとセルネオの決死のプロポーズは、リーナの見守る中、無事にやり遂げる事が出来た。


 ◇◆◇ ◇◆◇



3日前、王宮庭園での事。

王妃様とシグルド、ベルンの両殿下、セルネオ様がお茶を楽しんでいらした。

「プロポーズの言葉は?」

と言う王妃様のいきなりの疑問に、シグルド殿下は目を逸らした。


「まっ、まさか・・・。セルネオ様は?」

2人に聞いておきながら、王妃様は私の方を見た。

私は静かに首を横に振った。


「なんて事・・・。意思表示もして貰えずに嫁いで来なくてはならないなんて。エリンシア様とルキノ様が不憫でなりません。」

王妃様は、私に向かって真面目な表情で言った。


「婚約、白紙に戻しましょうか?」


私は王妃様の演技に付き合う事になった様だ。

「はい、そうですね。私もあの2人には幸せになって頂きたいと思っております。」

神妙な顔で答えた。


「母上、プロポーズとは何をするのですか?」

ベルンは、無邪気な様子で王妃に聞いた。


「好きな女性に愛を語るのですよ。そして婚姻の約束を頂くのです。」


「成程、それは重要な事ですね。自分の意思を伝え、相手の意思を尊重すると言う事ですか。」


「まぁ、ベルンの方がシグルドより分かってますね。」


「はい。ルキノ嬢とエリンシア嬢に色々と教わりましたから。」


「ベルンは好きな女性を幸せに出来るタイプですね。」

王妃とベルンが笑い合っている。


「待って下さい、母上。何故そんな話に?私がエリンシア嬢を幸せに出来ないとでも・・・?」


「プロポーズも出来ない男に嫁ぐのは、エリンシア様が気の毒だわ。」

リーナは王妃様の横で、深く頷く。


「プロポーズしますよ。」

セルネオが会話に加わった。


「シグルド殿下と内密に相談していました。プロポーズはしますが、どういう感じにすれば良いのか思案中です。」

セルネオはシグルドを意味深な顔で見た。


「セルネオの言う通りです。母上、もう少し様子を見て頂けませんか?」

シグルドもセルネオの時間稼ぎの嘘に合わせた。


「まぁシグルドもセルネオも、考えがあっての事だったのね。見直しました。では暫くは静観していましょう。」

王妃は満足そうな微笑みを2人に返した。


お茶会の後、シグルドはリーナを呼び出した。

勿論プロポーズについての相談だ。

母上にああ言った手前、何もしない訳にはいかない。


シグルドとセルネオの2人ががりで、リーナを作戦に巻き込んだ。その結果が、冒頭のリーナの行動に繋がる。

リーナは只、面白いイベントの場面を内緒で見学する事が目的であったのだが、それは自分だけの秘密にしてある。


リーナは2組のプロポーズ大作戦を成功させて、ほくそ笑んだ。






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