第51話 ルキノとユイナ

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


51 ルキノとユイナ



「ルキノ様、貴女はユイナ様ですね。」


王妃が不意に突いた核心にルキノとエリンシアは、狼狽える。

どう言い訳すれば良い?いや下手な言い訳ならしない方がやいのではないか?思案する2人に王妃が微笑む。


「大丈夫ですよ。この事に付いて処罰は有りません。落ち着いて話を聞かせて貰えますか?」


全てバレている。そう悟った2人は、嘘を交えずに語り始めた。




◇◆◇◆ ◇◆◇◆


逆行前の人生で処刑された事。

エリンシアの逆行のタイミングと同じ時に、ルキノが転生して来た事。

2人で協力して、処刑を回避しようとして来た事。

ルキノが転生前にいた世界の事など、思い出せる限り詳細に説明した。


「エリンシア様とルキノ様が、ベルンをお茶会に招待して下さったでしょう?その時にあなた方に興味を持ちました。そしてその後、王家の歴史書に異変がある事に気付きました。本が僅かに光を浴びていたのです。本を開いてみると物語が半分程記されていて、ユイナ様のメッセージが足されていました。」


ルキノは深い溜息を吐いた。

喉の奥に刺さっていた小さな魚の骨が、とれたような気分だ。

本物のルキノの事が気に掛かっていた。私が転生した事で、ルキノの魂が消滅してしまったのではないかと。


ルキノの魂は私の体の中に入って、幸せに過ごしている。

私の幸せを願う程に。


「本当に良かった。」

ルキノは自分でも知らず内に、声に出していた。


「ルキノ・・・。」

エリンシアも安堵している様子だ。



「エリンシア様、転生前は処刑・・・怖かったでしょう?ごめんなさいね。王家の力量不足だったわ。貴女の本質はきっと、転生前と今何も変わって無いのでしょう。」

王妃が頭を下げた。


「おやめ下さい。私も努力が不足していたのでしょう。」

エリンシアが慌てて言った。


「私はエリンシア様こそが次の王妃になるに相応しいと確信しています。この先、王家の手伝いをして頂けますか?」


「はい。」


こうして女性陣営はわだかまりを解き、『真実の愛は永遠に』を封印する事にした。



時を同じく別室では、王陛下、王子、宰相、辺境伯。

国の重要人物達が、アートゥンヌ伯爵とシルヴィアを囲んで睨み合っていた。


「一度は温情を与えて、罰金刑にした。それでも満足せずに、暗殺を企むとは・・・。」

宰相のガザルディア公爵は、吐き捨てる様に言った。


「罰金刑では、生温かったですね。」

辺境伯も同様の感情を吐露した。


「誤解でございます。」

アートゥンヌ伯爵が必死の形相で、首を振っている。


誤解も何もあったものでは無い。証拠はこれでもかと言う程に揃っていた。


「シルヴィア嬢、何か言いたい事は有りますか?」

ベルンが涼やかな顔でシルヴィアの顔を覗き込んだ。


「あんな女が王子妃に成るべきではありません。あんな性悪の女に国を任せれば、国が滅びます。私はこの国を憂いて、何とか止めようと行動してきました。」


セルネオが険しい顔で首を振っている。


「では誰なら相応しいと?」


「この私です。光属性の私こそが、国母に相応しく・・・。」


「あなたが?何一つエリンシア嬢より秀でたものの無く、自分を磨く事をせずに、エリンシア嬢を陥れようとしたあなたが?」

シグルドは表情を変えずに、言葉で攻め立てた。


「エリンシア嬢は私の義妹になるお人だ。あの女呼ばわりは、止めて頂こう。あの2人は、私の初めての友人で・・・。」

ベルンは涙を堪えて、声が出せなくなった。


王子兄弟の2人を見守りながら、王陛下が宰相に視線で合図を送った。

宰相は小さく頷き咳払いをして、注目を集めた。

「アートゥンヌ伯爵、貴方は王家の温情を無下にし心改める事なく次期王妃の暗殺を目論んだ。よって極刑を言い渡す。」


アートゥンヌ伯爵が頭を垂れたその時、会議室の扉が勢いよく開かれた。


「待って下さい。」

そこに立っていたのはエリンシアだった。

後を追いかける様にして、王妃、ルキノ、リーナもエリンシアの背後に立っている。


「極刑はやめて下さい。」

エリンシアが頭を下げて懇願している。


「何故ですか?アートゥンヌ伯爵は、貴女様を暗殺しようとしたのですぞ。」


「ですが・・・。」


言い難そうなエリンシアに変わってルキノが続きを口にした。

「アートゥンヌ伯爵が極刑になれば、私達は寝覚めが悪いです。」


2人の気持ちを汲んで王妃が後押しをした。

「対外的にはエリンシア様は、まだ王族では有りません。王族殺害未遂を適用しなくても良いのでは?」


宰相は少し困った顔で王陛下の方を見た。

王陛下が小さな頷いた。


「アートゥンヌ伯爵、貴族籍を剥奪の上労働役を枷す。妻子は平民に、シルヴィアは修道院送りとする。」


エリンシアとルキノは顔を見合わせて、ホッと溜息をこぼした。一度は処刑を経験したエリンシアだからこそ、その無念が痛い程に理解出来る。


何より今度はシルヴィアに逆行でもされたら、また一からやり直しになってしまう。ルキノは心の中で、そう思った。



「国民達にこれ以上待って貰う訳にはいきません。さぁ」

王妃はエリンシアを促した。

シグルドがエリンシアの手を取り、今一度テラスへと向かった。何があったのかと騒めく人達に、婚約は成立したのだと知って貰うために。


テラスに出て来た2人を、皆が暖かい拍手と喝采で迎えた。




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