第50話 式典・・・式典・・・式典

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


50 式典・・・式典・・・式典


「ただいま。」

ルキノが領地から帰ってきた。


「ギリギリで御座いますよ。」

エリンシアのドレスアップを終えたばかりのリーナは、ルキノを睨みながら言った。


「まぁまぁ、収穫もあったし。」

ルキノは笑顔で誤魔化しながら、エリンシアを見る。


「エリンシア、とっても綺麗よ。」

エリンシアは溜息が出る程に、美しく仕上がっていた。


「次はルキノ様です。」

リーナは慌ただしくルキノを鏡の前に座らせて、ルキノのドレスアップに取り掛かった。


今日は朝から、魔力保持者の従列一位の発表。

それと同時に、侯爵家の叙任式。

その後王宮で着替えて、婚約発表。

リーナは馬車にドレスやメイク道具などを積み込んで、晴れの舞台を完璧に熟せる様に準備をしていた。


「ルキノ、もう少し派手なドレスにしたら?」

エリンシアがルキノの格好を見て言った。


「今日の主役はエリンシアよ。私は添え物だから。」

ルキノが妙に納得した顔をしているので、エリンシアはそれ以上何も言わなかった。




王宮に到着し広間に登場すると、拍手で迎えられた。

正式に魔力保持者の一位と侯爵の叙任が、高位貴族達の前で発表される。


エリンシアは堂々としていて、立派だった。

一際美しい容姿と凛とした姿勢に、貴族達は納得をした。

さすが王子殿下の伴侶として相応しい態度だと。


叙任式を終え控えの間に戻ると、リーナが慌ただしく声を出す。

「早くドレスを持ってきて。あっ、貴女はアクセサリーを。」

婚約お披露目の用意をしなくてはならない。

いつも出来る女であるリーナが、今日は一段とテキパキと準備の指示を出している。


「ルキノ様も着替えの準備を。」

リーナがルキノに向かって言う。


「私はこのままで良いわ。」

エリンシアがルキノをチラリと見たが、放っておきなさいと言わんばかりにリーナに手を振った。


準備が終わり人心地ついたと思ったら、控えの間の扉がノックされた。

護衛騎士に案内されバルコニーに出る。そこには正装したシグルドが待っていた。

シグルドはエリンシアの手を取り、バルコニーの手摺り近くまで進む。ルキノとリーナは、エリンシアの直ぐ後ろに控えていた。護衛騎士達はシグルドの後ろだ。


シグルドが手を上げる。

「今日は私とアザルトル侯爵の婚約を祝ってくれて、心より感謝する。」


シグルドが貴族達に手を振って歓声に応えた。

そしてエリンシアを自分の方へ引き寄せ、小声で言った。

「君も手を振って。」


エリンシアも笑顔を絶やさずに、手を振った。

歓声が大きく人の声が掻き消される。その時、シグルドがエリンシアの腕を引っ張り、思いっきり引き倒した。シグルドも同様に騎士に引っ張られたが素早くエリンシアの背後で身体を受け止める。


ルキノは一歩も動けずにいた。何があったのかすら理解できない状況だった。カチカチに固まった首をギギギと無理やり動かし、エリンシアの方を見た。


シグルドに肩を支えられてエリンシアが座り込んでいた。


少し身体を捻ると、リーナは片足をバルコニーの手摺りに登らせ、手を見ると矢を掴んでいた。



「暗殺者です。あちらの方向に王宮騎士を向かわせて下さい。」

リーナは叫ぶと同時に矢を確認した。


「毒が塗られています。掠っただけでも危なかった。大丈夫ですか?」


エリンシアはコクコクと頷いていた。




婚約お披露目は一旦中止になり、王宮へ要人が集まっていた。

その中に、拘束されたアートゥンヌ伯爵とシルヴィアの姿がいた。


時を同じく王宮の王族専用の控えの間に、エリンシアとルキノは案内された。王妃殿下が迎えてくれた。

その後から、リーナも入室してきた。

ルキノが疑問に思って、顔を少し歪めた。


「何故リーナが?」


リーナは深々と頭を下げている。


「私が呼びました。全て説明します。」

王妃が一旦立ち上がり、護衛を扉の外に下がらせて話し始めた。


「リーナ、こちらへ。」

リーナは王妃殿下の横に行き、頭を下げた。


「リーナはアザルトル侯爵の侍女でありますが、王家の影でもあります。」


エリンシアとルキノは目を見張った。


王妃の話を要約すると、王家の影は至る所に潜んでいる。

主要貴族の使用人や侍女、商売の相手や一領民として。

そして、不穏分子を見張り報告をする役目を負っているのだ。


アザルトル侯爵家は勿論のこと、アートゥンヌ伯爵家や他の貴族の側にも関わっているらしい。


「ある日、王家の歴史書に異変がありました。」

王家の歴史書とは、小説の『真実の愛は永遠に』の事だ。


「王家の歴史書は、代々王妃の管轄です。この国にはごく稀に転生者、逆行者なる者が現れます。真実の程は分かりませんが、歴史書に記されているのです。本来なら物語が終わると魔法の力で自動的に歴史書に記されるものなのですが、今回は途中で異変が起こりました。」


王妃がエリンシアとルキノを見た。

2人は顔が青ざめていた。


「ルキノ様、この書に見覚えは?」


王妃は、歴史書の最後のページを開いて見せた。




"ユイナさんへ"

ルキノは、あなたの世界で幸せに暮らしています。

どうか貴女もお幸せに。

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