第47話 反撃開始 1

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


47 反撃開始 1


宰相がニヤリと笑いエリンシアの方を見た。

お堅い事で有名なガザルディア公爵に、こんな悪戯心があったとは。


「アザルトル侯爵、アートゥンヌ伯爵の意見を否定できる材料があれば、申し開きして下さい。」


「はい。」

エリンシアは正面の王族の方に身体を向け一礼した。


「私が言いたい事は1つだけです。この国の王族、第一王子であらせられるベルン殿下との会話を盗み聞いた事。それを軽々に口にし噂を流した者。その方々に貴族としての品格を問いたいと思います。」


一同がアートゥンヌ伯爵側に付いている貴族に目を向けた。


「確かに私とルキノは、ベルン殿下に懇意にして頂いておりました。ルキノの研究をベルン殿下に支援して頂いたお陰で、沢山の成果を残せています。そのベルン殿下の陰口を叩くとは、言語道断で御座います。」


アートゥンヌ伯爵側の人間は、ここに来て初めて重大な事に気が付いた。ベルン殿下の御名を出したと言う事は、不敬罪が適用される可能性がある。そしてエリンシアも格上の家の人間だ。


ベルン殿下が手を挙げて言った。

「宰相、宜しいでしょうか?」


「ベルン殿下は、当事者です。どうぞ意見を述べて下さい。」


「私はルキノ嬢とアザルトル侯爵の息抜きの時間に、百物語という遊びに入れて頂いた事があります。その時に王族に逆らった者の末路が如何に恐ろしい目にあうかと言う作り話をした事があります。あくまでも作り話ですが。その時の会話を盗み聞いたのではないでしょうか?」


ベルンは盗み聞いたと言う言葉を強調した。


「父・・・宰相、私も宜しいでしょうか?」

エリンシア側に座っているセルネオが手を挙げる。


宰相は頷くだけに留めた。息子であるセルネオの肩を持っていると思われない為だ。


「私も百物語の詳細を、後日ではありますが婚約者のルキノ嬢から聞いております。ルキノ嬢には、あまり殿下を悪い遊びに誘わない様にとお願いをし、事の次第を王陛下には伝えております。」


「つまり・・・この噂はデマだったと言う事か?」

宰相は勿体ぶって、思案顔で周りを見渡した。


アートゥンヌ伯爵側の証言をした貴族の顔色が、みるみる生気を失って行く。当然だ。根拠なく王子殿下を侮辱する発言をしていたのだから。


「アートゥンヌ伯爵、説明して頂けるかな?」

宰相の視線がアートゥンヌ伯爵を捉えて離さない。


「その件に関しましては、私共も噂を聞いただけでして・・・。良い噂では無かったので、今日の事柄とは関係御座いませんが・・・一言王家にお伝えすべきだと思いまして・・・。」


アートゥンヌ伯爵は、しどろもどろになりながら何とか言い繕った。


「では、噂を流した貴族は罰した方が良いと?」

宰相は鋭い目でアートゥンヌ伯爵を見た。


「私が口出す事では御座いません。」

アートゥンヌ伯爵が言った途端


『アートゥンヌ伯爵、裏切る気か?』

『まて、私も知らなかったんだ。』

証人達は慌てふためき、各々勝手に発言をし出した。


「審問は後でする。別室にお連れしろ。」

宰相は騎士を呼び、証人達は拘束されて連れて行かれた。


「さて、邪魔者はいなくなったな。次はシルヴィア嬢が虐められていたとか?」


「宰相様、発言をお許し願います。」

ルキノが手を挙げた。


「宜しい。」


「エリンシアは学園でシルヴィア様に魔法攻撃を使ってはいません。」


シルヴィアが立ち上がった。

「何を言っているの?アリベルも見たでしょう?指先から私の手に・・・。」


「はい。確かに見ました。バチっという音と共に、シルヴィア様は苦痛に顔を歪めておりました。」

アリベルは淡々と答えた。


「それは魔法攻撃ではなく、静電気です。」


「静電気とは・・・聞き慣れぬ言葉だが?」

宰相がルキノに説明を促す。


「静電気とは、魔力を持たない者でも起こせます。魔法の属性とは関係なく、人は皆身体に電気を蓄えているのです。体質や天気にも左右されますが、エリンシアとシルヴィア嬢は相性が悪かったのでしょう。」


「それは実験の類で証明する事が出来ますか?」


「はい。それなりの準備は必要ですが。」


「あっ!・・・失礼致しました。」

シグルドが何か思い当たった様に、急に声を出したので一斉に注目が集まった。


「シグルド殿下、何か心当たりがお有りでしたら発言なさって下さい。」


宰相から指名されたシグルドが立ち上がった。

「エリンシア嬢・・・アザルトル侯爵と学園の四阿で休憩をしていた時の事ですが、突然シルビア嬢が近付いて来て侯爵に言った言葉『今日は意地悪してこないのですね』と。」


「その通りです、シグルド様。いつも意地悪をされていたので、シグルド様に助けて頂きたくて。」

シルヴィアは顔を紅潮させている。


「でも確かその時に侯爵は、『今後私に近づかないで欲しい』と言う意味の事を言ってました。」


「そうです。エリンシアがいくら帯電体質とはいえ、不意に近付き勝手に体に触れない限り、静電気は発生しません。エリンシアは、その事を言っていたのだと思います。」


ルキノの説明に一同納得の顔をしていた。

今までの状況はアートゥンヌ伯爵にとって不利になっていったが、まだ切り札がある。


アートゥンヌ伯爵とシルヴィアは、顔を見合わせて笑みを浮かべた。



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