第46話 貴族院大会議
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
46 貴族院大会議
卒業パーティーから5日後、貴族院大会議が行われた。
通常の国の運営は王族と共に、宰相と5人の上位議員で行われる。そして半年に一度、下位議員の参加の会議が行われて領地問題や税収、不作や災害について決定が行われる。
貴族院大会議とは特別措置で、急なトラブルなどに対応する為の制度である。上位下位議員関係なく問題に適した関係貴族も集められる。
正面の高座にある立派な椅子には王家の一族が鎮座しており、
一段低い場所に、宰相、辺境伯、近衛騎士団長、神官長、魔法高位長の5人が並んで座っている。
正面から向かって右側がエリンシア達、左側にシルヴィア達が
向かい合って座り話し合いの場がもたれた。
「今日はアートゥンヌ伯爵家より、シグルドとエリンシア嬢の婚約に異議申し立てがあるそうだ。そうだな?」
王陛下はチラリとアートゥンヌ伯爵の方を見た。
「シルヴィアは学園生活において、いつもエリンシア嬢に虐められていました。悪い噂も多く耳にしております。はたしてそんな方が国母に相応しいのでしょうか?甚だ疑問に感じます。」
アートゥンヌ伯爵は息巻いて赤い顔で訴える。
「あい分かった。宰相、進行を頼む。」
「はい。」
宰相ガザルディア公爵が立ち上がり、一礼をした。
「先ずはアートゥンヌ伯爵とシルヴィア嬢の言い分を全て伺います。」
宰相は目線でアートゥンヌ伯爵に話を促した。
「はい、宰相様。エリンシア嬢は学園でいつもシルヴィアを虐めていました。これについては証人もおります。」
「そうですか。それ以外には?」
「エリンシア嬢の悪い噂の数々で御座います。権力を傘に他のシルヴィア以外の令息令嬢達に高圧的に接しております。」
「ふぅむ。」
宰相は小さく頷き先を促した。
「エリンシア嬢は、何やらきな臭い計画を企んでいるという噂も御座います。」
「例えば?」
「王族に対する反逆を、ベルン殿下と企てている様です。」
「しかしそれらは、只の噂であろう?」
宰相が少し眉を寄せて頭を傾けた。
「直接会話を聞いた者がおります。」
「ならばその者にも話を聞かなくてはならんな。」
「それだけではありません。エリンシア嬢は学園でもシルヴィアに魔法攻撃を行なっていたのです。そればかりか両陛下の御前で攻撃魔法を使うとは・・・。国母の資格があるとは、到底思えません。私は国を思うばかりに、忠臣の心で異議を唱えている事をお分かり下さい。」
「アートゥンヌ伯爵、エリンシア嬢の悪態については、それで全てか?他に申す事があれば、今言うが良いと思うが?」
「恐れ多くも申し上げます。シルヴィアは婚約者候補に選ばれた者です。癒しの魔力の使い手で、珍しい光属性を持っております。国の有事には、2回も参戦致しました。民からも聖女と崇められております。エリンシア嬢より余程国母に相応しいと自負しております。」
「ふぅむ、アートゥンヌ伯爵の言い分が真実だとして、では何故シルヴィア嬢は婚約者に選ばれなかったとお思いかな?」
「勿論、エリンシア嬢が権力を振り翳し財力を駆使してシルヴィアを蹴落としたのだと思っております。宰相様、何卒賢明なご判断をお願い致します。」
アートゥンヌ伯爵の言い分に、シルヴィアは満足そうな顔で頷いた。
「では各貴族の方々、アートゥンヌ伯爵の意見に賛同される方は挙手をお願いします。」
宰相の言葉に、シルヴィア側に座っていた殆どの貴族が手を挙げた。アリベル1人を除いて。
「挙手した者に意見を聞きます。アートゥンヌ伯爵の隣の方から順番にどうぞ。」
(私の娘の話では、エリンシア嬢の悪い噂は幾つも耳にしておりました様です。)
(私の息子も、エリンシア嬢がシルヴィア嬢に魔法攻撃をしたのを見たと言っておりました。)
(私の娘はベルン殿下との王家反逆の話を聞いたと・・・。)
(私の意見としましては・・・ ・・・)
(・・・ ・・・。)
シルヴィアを擁護する意見を並べ立てた貴族達は、達成感に浸っていた。アートゥンヌ伯爵に賄賂を貰った者。恩を売りたい者。シルヴィアの取り巻きで恩恵を受けたい者。
それぞれがシルヴィアの為、と言うよりは自分の為、家門の為の供述だった。
一頻り意見が出尽くしたのを見計らった宰相が、咳払いを一つした。
「皆様の言い分は理解しましたが、1つ大事な事を。意味もなく権力を傘に横暴を繰り返す様な事は咎められるべきですが、先ず私達貴族は身分によっての礼儀があります。今日皆様がエリンシア嬢とお呼びになっていた方は、アザルトル侯爵です。皆様が名前で呼んで良い様な爵位の方ではありません。自らのマナーの無さを自覚なさって頂きたいと思います。」
一睨み効かせた宰相が、最後に一瞥をくれた。
「アザルトル侯爵、この者達の言い分をお認めになりますか?」
「一切を否定致します。」
エリンシアは立ち上がり、凛とした態度で答えた。
(何と太々しい。)
(罪を認めぬ気か?)
小声でヤジを飛ばす貴族を無視して、宰相に笑顔を見せた。
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