第45話 絶体絶命?
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
45 絶対絶命?
会場の誰もが一歩も動く事が出来ない。
それ程までに空気が凍りついていた。シルヴィアを除いて・・・。
「エリンシア様、両陛下の御前ですよ。いくら私が気に入らないからといって・・・。それとも早くも王子殿下の妃の権力を盾にと横暴を振いますか?」
シルヴィアは今がチャンスと、エリンシアを責めた。
「いつもの虐めは見逃してきましたが、今日は許しません。」
会場の凍りついた空気が溶け出し、皆が我に返る。
(いつも虐めを行なっていたのか?)
(エリンシア嬢が将来王妃殿下に?)
(いや、無理であろう。こんな横暴な人では不安だ。)
(シルヴィア様こそが相応しいお人ではないか?)
祝福ムードが一瞬にして懐疑的なムードに色を染めた。
シルヴィア一派の貴族達は、ここぞとばかりにヒソヒソと噂話をしている。
(初めからエリンシア様には無理だと思った。)
(シルヴィア様の様に癒しの魔法を使える訳でもないし)
(王家の決定に逆らう訳ではないが・・・。これでは・・・。)
ルキノがセルネオの手を離し、エリンシアの肩を抱く。
「エリンシア、大丈夫?」
ルキノの声が聞こえてエリンシアは我に返った。
「わっ・・・私、やってしまったのね・・・。」
「大丈夫よ、エリンシア。」
ルキノは小刻みに震えているエリンシアの肩を一層強く抱いた。
「ルキノ様、エリンシア様を退場させて下さい。エリンシア様、今日のところは下がって王家の沙汰を待ちなさい。」
そう言ってシルヴィアは口角を少し上げて、エリンシアを見た。
そしてエリンシアの耳元で勝ち誇った様な小さな声で言った。
「ふふふ、残念でした。」
シルヴィアは大袈裟なモーションで振り向いて、王陛下、王妃殿下の方を見た。
「良くやりました。」
王妃殿下が立ち上がり、微笑みを向けた。
シルヴィアは王座の方へ歩いて行く。
「エリンシア様、いえアザルトル侯爵、見事です。」
王妃の言葉に会場にいる一同がポカン顔だ。
「何をしているシグルド、アザルトル侯爵をこちらへ案内して。」
「はっはい、王妃殿下。」
シグルドがエリンシアの手をとって王妃の元へ連れて行く。
「シルヴィア様、大変な事をやらかしてくれましたね。この王宮に、晴れの舞台にGを持ち込むとは・・・。あぁ身の毛が逆立つ。」
「シルヴィア嬢は、前から礼儀がなってないとは思っていたが、まさか王妃をここまで追い詰めるとは・・・。はぁ・・・。」
王陛下が溜息を溢した。
「待って下さい。エリンシアは両陛下の前で攻撃魔法を使ったのですよ。それに・・・私は癒し魔法の使い手です。」
「確かにアザルトル侯爵は攻撃魔法を使ったが、それは王妃の為を思っての事だ。忠誠心から起きた事ゆえ、不問にする。だがシルヴィア嬢、王宮にGを持ち込んだ事は不問には出来んぞ。」
王陛下のいつに無く厳しいお言葉に、貴族達はシルヴィアより一歩離れた。巻き込まれたくは無いからだ。
「さぁ王妃よ。Gは退治された。気を取り直して皆の卒業を祝おうではないか。」
「はい、陛下。」
「皆の者、引き続きパーティーを楽しんでくれ。」
両陛下が微笑みを取り戻され安堵した貴族達は、気不味い雰囲気を醸しだすシルヴィアを避ける様にパーティーを楽しんだ。
(何が起こったの?何かがおかしい・・・何かが・・・。)
シルヴィアは今の状況が把握出来ない。
アートゥンヌ伯爵がシルヴィアの元へ駆け寄る。
「いったいどう言う事だ?」
シルヴィアの両腕を掴み問いただそうとするが、シルヴィアは気の抜けた顔をしている。
でもそれは、一時の事ですぐに我を取り戻す。
「ア、アリベルは何処?」
周囲を見渡してアリベルを視界にとらえたシルヴィアは、怒りに満ちた表情でアリベルのところへ行き、その手を掴んだ。
その瞬間、ベルンと騎士達がアリベルを掴んだ手を払い除ける。
「今日は卒業生の晴れの舞台です。騒ぎになる様な事はお控え下さい。」
「ですがベルン殿下・・・。」
「言いたい事もあるでしょうが、5日後に貴族院大会議を行います。その時にどうぞ。アートゥンヌ伯爵の言い分もお聞きします。連れて行きなさい。」
ベルンは騎士に命令を下し、アートゥンヌ伯爵とシルヴィアに退出を促した。
王宮にある別室の控えの間に案内されたアートゥンヌ伯爵とシルヴィアは、卒業パーティーが終わるまで待機する様にと伝えられた。軽い軟禁状態だ。室内からは怒号が飛び交う。
「シルヴィア、一体何が起こっているというのだ。」
アートゥンヌ伯爵は、冷静を保っていられない状態になっていた。
「私にもわかりませんが、両陛下が何か勘違いされている様に思います。それか・・・アザルトル家が私達以上に大枚をばらいたか。」
「シルヴィア、お前が王妃になれなければ、アートゥンヌ家は没落するぞ。そこまでお前のいう通りに金貨を使ったからな。叔母上や実家からまで借金している状態だ。」
「そんな事分かっているわ!!」
シルヴィアが淑女らしからぬ声でアートゥンヌ伯爵と言い争いをしていた時、王家の侍従者が説明にきた。
「5日後、貴族院大会議が行われる。その時にシグルド殿下とエリンシア嬢の婚約に異議を申し立てる事が出来るが、どう致しますか?」
「出席するわ。異議申し立てするに決まっているじゃない。」
「ではアートゥンヌ伯爵家に味方の貴族を10家までなら招待して構いません。アザルトル家は、5家招かれる事になっております。」
「分かりました。」
「では、今日のところはお引き取り頂き結構です。」
侍従長は頭を下げて、部屋から出て行った。
「お父様、まだ勝負は終わってないわ。逆転の道が残されているのよ。エリンシアにあるのは地位と財力だけ。貴族院大会議で全てをひっくり返すのよ。」
エリンシアは不敵の笑みを浮かべた。
「王妃に相応しいのは、シルビア・・・この私よ。」
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