第41話 王宮へ
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
41 王宮へ
「明日から王宮へ通わなければなりません。リーナに侍女として付いてもらいます。この選択がルキノを忙しい目に合わせる事は、重々承知していますが・・・。」
「うん。私もそれが良いと思う。」
エリンシアが最後まで言い終わる前にルキノが返した。
「ルキノ・・・今、貴女と離れる事は不安よ。でもこれが私にとって最善なの。ごめんなさい、自分の事ばかりで。」
エリンシアは珍しく表情を少し歪めた。
普段から気持ちを顔に出さないエリンシアの苦悩が伺える。
「私にもこれが最善よ。学園でも会えるし、領地の事は任せて。」
笑顔で答えてくれるルキノの顔を見て、エリンシアは心が痛んだ。もう直ぐルキノと交わした魔法契約が切れるという事実が不安だったからだ。
(契約が切れたら、ルキノはどうするのかしら?)
アザルトル領地の事を任せたのは、ルキノを信用しているからだ。私がルキノを思う程、ルキノは私に興味が無いかもしれない。
(魔法契約が終わってもルキノは一緒にいてくれるかしら?)
でも強制は出来ない。したくない。
ルキノがそう思ってくれると嬉しいというだけだ。
エリンシアは軽く頭を振って、思考を元に戻した。
いざ王宮に通い出すと、何事も順調に進んでいった。
学園と王宮の生活は大変ではあったが、思っていたよりも窮屈では無かった。
最初の授業に王陛下と王妃殿下の激励のお茶会があり、励ましの言葉を頂いた。次の日からは、毎日授業が行われた。
エリンシアは、領地で終えたばかりなので復習の意味でも楽しい事ばかりであった。
今日は授業の後セルネオと会う約束をしている。久しぶりにルキノの声を聞く事ができる。
「エリンシア、妃教育の調子はどう?」
「候補教育よ。まぁ概ね順調に進んでいるわ。楽しいわよ。今は古語を勉強しているの。」
「あなた、何ヶ国語制覇すれば気が済むの。」
ルキノは半ば呆れた様な声を出す。
「だって覚えれば覚える程に楽しいんですもの。」
語学の勉強は、本当にエリンシアにあっている様だ。
「じゃあ今日の報告は以上よ。」
何事も無かった事を確認出来たルキノは、少し早めに切り上げようと話を切った。
エリンシアの近くにはセルネオ様が居る。
通信魔法は水晶を通じて、風属性の魔法同士でしか出来ない。
当然水晶に魔力を注いでいるのはセルネオ様だ。
私とエリンシアの話は、セルネオ様に筒抜けになると言う事だ。当たり障りのない報告は聞かれても構わないが、肝心の部分、エリンシアの断罪回避に動いている事は悟られてはいけない。
だがセルネオは別の事で頭がいっぱいになっていた。
(ルキノ嬢は3カ国語を勉強したと言った。その時にエリンシア嬢も?と聞いたら『とんでもない』と言っていた。私は『とんでもない』という意味を勘違いしていた様だ。
それは…3カ国ではなく5カ国の言語をマスターしていたという意味だったとは。)
最近忙しさを言い訳に勉学を怠っていた。勿論研究やシグルド殿下の補佐、やらなければならない事は沢山あっのだが・・・。
条件はエリンシア嬢もルキノ嬢も同じだった筈だ。
明日シグルド殿下に相談してみよう。セルネオは目を閉じて考え込んでしまった。
◇◆◇ ◇◆◇
婚約者候補には、南離宮に部屋が用意されてある。
行動範囲に制限はあるが、快適に過ごせている。
ただ同じフロアの両隣部屋に、シルヴィアとマリエッタが居る事を除いての話だが。
エリンシア達は南離宮から学園に通い、宮に戻れば王妃候補教育を受ける。週一回、学園の休みの日はタウンハウスに帰れるが夕方には宮に戻り王妃候補教育を受ける。
そんな日々が1ヶ月程続いたある日、急に予定変更の通知が届いた。王宮で予定していた3ヶ月を1ヶ月に。残りの2ヶ月は領地での自習とする旨が記されていた。
王陛下が王族と筆頭公爵家であり宰相のガザルディア公爵を呼び出し話し合いの場がもたれた。王妃候補教育でのエリンシアの成績は、どの分野においても圧倒していた。ハッキリ言えば比べ物にならない。エリンシアは王室で用意した教育人達をも凌駕する程の知識を身に付けていたからだ。
それに比べて後の2人は、高位貴族の一般知識すらギリギリのレベル。教育人が少し厳しくすると泣き出すか逆ギレする有り様であった。
「私はエリンシア嬢を推します。」
普段は大人しく主義主張をしない王妃が一番に手を上げ発言した。
次に手を上げたのはベルン殿下。
「私も王妃殿下、いえ母上の意見に賛同します。」
その様子に驚いた宰相、ガザルディア公爵が咳払いをして聞いた。
「私もエリンシア嬢が宜しいかと。しかし無礼を承知でお尋ねします。ベルン殿下、何故今になって王妃殿下を母上とお呼びになるのか?」
宰相の言葉に王陛下はコクコクと頷きベルンに続きを促した。
皆が私に秘密にしていてくれている事を、実は私も知っていたと告白するには勇気がいる。だが、言うなら今しかない。
「私が5歳の頃・・・侍女達の噂を耳にしたのです。私は王妃殿下の本当のお子ではないと。だから身体も弱く出来も悪いのだと。ですが、王妃殿下はシグルドと分け隔てなく私を育てて下さいました。その御恩に報いる事ができない私が母上と呼ぶのは烏滸がましいと思っておりました。」
ベルンの話を聴きながら、王陛下と王妃殿下の顔色がみるみる変わっていった。血の気が引き青くなり更に白くなっている。
「しかしエリンシア嬢と王家の縁を繋いだのは・・・偶然では御座いますが、このベルンです。初めて王家の役に立てたと思いました。ですから・・・はっ母上と読んでも宜しいでしょうか?」
ベルンの声が少しづつ小さくなっていく。
王妃殿下は拳をふるふると震わせながらテーブルの上において立ち上がった。ふーっと息を吐き、思い切り吸った。そして血の気が引き白かった顔色を今度は赤く染めた。
「そのデタラメな噂を流した侍女を連れてきなさい!」
流石長年王妃を努めているだけあって、はしたなく大声で叫んだりはしなかったが、明らかに怒気を含んだ声色だった。
「ベルン、お前は正真正銘私と王妃の子。この国の第一王子だ。幼いお前が侍女達の噂のせいで心を痛めていたとは・・・。気付いてやれずにすまなかった。」
「ベルン、私達に心を開いてくれなかったのは噂のせいだったのね。私は貴方もシグルドも同じ様に愛しています。」
「えっ?・・・。」
ベルンは長い時をかけて噂を真実と思い込み心を閉ざしていた事にようやく気付いた。
「王子の妃候補がエリンシア嬢という事は決まった。卒業パーティーまで何事もなければ発表する。宰相、呼び出しといて悪いが今日はここまでで良いか?少し家族との時間を持ちたい。」
「分かりました王陛下。今日はごゆっくり過ごされて下さい。」
ニヤリと笑った宰相は立ち上がり一礼をして、その場を後にした。
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