第40話 アリベルの提案

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


40 アリベルの提案


「お待たせ、エリンシア。」

いつもの四阿に急いで行くと、エリンシアの他に招かれざる客が座っていた。怪訝な顔でエリンシアを見る。


「今日はアリベル様がルキノと私にお話があるそうです。」

エリンシアが冷静な表情を崩さずに、ルキノに説明をした。


「ご機嫌様、アリベル様。早速では御座いますが、お話しと言うのは?」

ルキノは小説『真実の愛は永遠に』を頭の中で反芻した。


「いえ、お話しと言うよりエリンシア様やルキノ様と仲良くしたいと思いまして・・・。」


2人の表情が曇る。アリベルが何を言っているのか理解できない。勿論言葉の意味は理解出来るが、昨日までシルヴィアを聖女と呼びエリンシアに絡んできた人が言うのは、理解に苦しむと言う意味でだ。


「シルヴィア様に何か頼まれたのですか?」

ルキノがアリベルに聞いた。


「いえ、私の一存です。」


「アリベル様王室主催の祭典の日、私の跡を付けてましたよね。アザルトル領地で開催される感謝祭の事を探る為に。

そして、わざと騒動を起しましたね。それなのに仲良くなりたいとは?ハッキリ言って意味が分かりません。」


確かにアリベルは、『真実の愛は永遠に』の登場人物だ。

だが、モブの中のモブ。シルヴィアの周りを賑やかせる為だけに存在する様な人物だった。

エリンシアの逆行前と、心境が変わったという事だろう。


その原因を突き止めるまでは、簡単に行動を移す訳にはいかない。ルキノはじっとアリベルを見た。


少し膠着した雰囲気の中、リーナがお茶の用意をしてくれた。

エリンシアは、テーブルの下でルキノの手をそっと触った。


「そうですね。アリベル様のお話は分かりました。では、今度お茶会に招待致しますわ。それでどうかしら?」


「分かりました。今日はこれで失礼します。」

アリベルは丁寧なお辞儀をして去って行った。


「エリンシア、アリベルをそう簡単に信用するのは・・・。」

ルキノは言い難い部分を最後まで言わなかった。


「大丈夫よ。もうすぐ卒業だから、引っ張れるだけ引っ張るつもり。シルヴィア様の情報も入るかも知れないし、ご褒美にお茶くらいは良いんじゃない?」

抜け目ない顔で微笑むエリンシアに、ルキノも頷いた。


ルキノはエリンシアを前にしたら口を閉じておくのが難しいと思ったが、話題を逸らすには丁度良い。

「アリベルの事なんだけど・・・。」


言い始めて直ぐにリーナが来た。

「失礼します。これを。」

エリンシアに渡したのは、号外新聞である。

王室から正式にシグルド殿下の妃候補が発表されたのだ。


ルキノはふぅーと長い息を吐いた。

「やっと発表があったわ。おめでとう、エリンシア。」


「知ってたわね、ルキノ。気が早いわ、まだ候補というだけよ。」


「候補が決まればお妃教育があるわ。エリンシアの成績だったら、ダントツで一番じゃない?決まったも同然でしょ?」


「甘いわねルキノ。今から本格的に妨害が始まるわよ。特にシルヴィアには気を付けないと・・・。前回の断罪処刑も、シルヴィアが関係していると思うわ。」


それはそうだ。そもそも王族の前でシルヴィアに魔法攻撃をした事が引き金になり、エリンシアの悪事が挙げ連なれた。

そしてシルヴィアは、シグルド殿下の横に並んで立ってエリンシアの処刑を見届けたのだから。


「アリベルがシルヴィアの弱点でも報告してくれないかしら?」


「そう都合良くいかないでしょ。」

エリンシアはアリベルに何の期待もしていない様だった。



その日の夕刻、王宮から正式にシグルド殿下婚約者候補内定の通知が届いた。候補者は来週から王宮に通わなくてならない。

侍女1人だけ連れる事を許され、後は全て王宮のルールに従って3ヶ月程を過ごさなくてはならない。

そして卒業後に婚約者が決定するのだ。


侍女1人・・・ルキノにするか、リーナにするか。


王宮に通い出せば、領地へ通う事が出来ない。

改革も半ば過ぎの今、思考と行動が一致しない状態に置かれる。侍女をルキノにすれば、ルキノと政策を考えリーナに実行してもらう形になる。


逆にリーナを侍女にすれば、ルキノに領地を任せながら報告を受ける形になる。

例え王妃に選ばれたとしても、アザルトル侯爵の爵位を返上する気はない。

(どうするのが一番良いのかしら・・・?) 


エリンシアは1人で考えても埒があかないと思い、明日の朝ルキノとリーナを交えて相談する事にした。

研究が忙しいのか、ルキノはまだ屋敷に戻って来ていない。

色々な事柄が頭を悩ませる中、エリンシアは何時しか眠りに付いていた。


一方研究棟でのルキノも、エリンシアと同じ様な思考を巡らせていた。ベルン殿下の協力で、卒業のレポートは出来上がっているし、魔法の研究は卒業後でも手伝える。

今急いで考えるべきは、エリンシアの事。


セルネオ様やベルン殿下に協力を求めても良いのだろうか?

シルヴィアやアリベルにどう対応すれば良いのか?

断罪処刑を回避するには・・・?


珍しく眉間に皺を寄せて考え込んでいるルキノを、セルネオはマジマジと見つめた。

「ルキノ嬢はシグルド殿下の婚約について、どう考えている?」


セルネオのいきなりの質問に、ルキノは頭の中を整理した。

今までエリンシアが断罪された原因は、全て排除してきたつもりだったが・・・。全ては卒業パーティーにかかっている。


ルキノはセルネオの質問には答えず、眉間の皺を一層深めた。


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