第39話 婚約者候補の内定


=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


39 婚約者候補の内定


エリンシアの卒業まで、あと3ヶ月を切った。

私とエリンシアは、学園生活と週末の領地への往復生活にも大分慣れてきていた。忙しいのは仕方がないとして、目に見えて領地が発展している光景は疲れを吹き飛ばす。


月に一度は専門家を呼び、夫人達は簡単な怪我の応急処置、男性は格闘や災害に備えての心得など、意欲的に吸収していった。講習会のある日は、簡単な食事が振る舞われる。

家計の足しになるし、貧困層は寧ろそれを目当てとしていた。

残ったパンや果物を持参したバスケットに詰めて帰る。

多分子供達の分だろう。


色々な人が集まると、自ずとリーダー的存在が現れる。

適任と思われる者は名目を付けリーダーに抜擢した。


領地改革とは別に私とエリンシアには、高位貴族の教育が待っていた。過程は全て終了していたが、より高見を目指して日々精進している。


エリンシアは語学を得意とし、ルキノは少数民族や異文化、経済に興味がある。得意はそれぞれではあるけれど、2人合わせたら鬼に金棒かも知れない。

充実した日々をしていたある日、学園でアリベルに捕まった。


「エリンシア様、ご機嫌様。今日はルキノ様はご一緒ではないのですか?」


アリベルも挨拶が出来るのだとふいに思った。いつも嫌味ばかりだったので、意外に思ってエリンシアは足を止めてしまった。


「ご機嫌アリベル様。ルキノは研究棟に行っております。」


「何時もご一緒ではないのですね。」


「ルキノは研究が忙しいので。」


「では今日はご一緒しても宜しいでしょうか?お話がありますの。」


「昼食はルキノと約束がありますので、それまででしたら。」


「ルキノ様と?では、昼食をご一緒しましょう。その時にお話致します。ルキノ様にも聞いて欲しいので。」


「分かりました。」


「では後程。」

言うなりアリベルは走って退散した。


ルキノになら怒る所ではあるが、アリベル様は今日挨拶を覚えたばかりの人だ。言っても仕方ない事だ。

エリンシアは溜息を付いて歩き出した。



◇◇◇ ◇◇◇



「本当ですか?」


ルキノは興奮気味にベルンに近づいた。


「あぁ・・・。」


ベルンは怖気付いた様に返事を返す。


「今日にでも王室から公式に発表があるだろう。」


シグルド殿下の妃候補の内定があったのだ。

候補者は3人。エリンシアとシルヴィアと魔導士高位長の令嬢

マリエッタ様だ。


「学園の卒業パーティー後に婚約者が決まるそうだ。私としては、エリンシア嬢が選ばれて欲しいのだが・・・。」


「何故ですか?」

ルキノもエリンシアが選ばれる事を望んではいるが、何故ベルンもそう思うのかが気になった。


「シグルドの妃は、私の義妹になるからな。」

ベルンは顔を綻ばせながら言った。


私達の計画も終盤に差し掛かった。

エリンシアが無事にシグルド殿下の婚約者になり、侯爵を継げば計画は大成功だ。断罪を避ける事だけを考えてきた私にとっても、これ以上の成果は他に無い。


「そうですね。私もエリンシアが選ばれる事を望んでいます。」

ルキノは言葉少なくベルンの意見に賛成した。


そんな世間話をしている中、セルネオが部屋に入って来た。

「ベルン殿下、王室からの発表まで機密ですよ。」


ベルンは少し首を引っ込めて、笑った。

「もう数時間で発表だろ?」

だから良いじゃないかと言いたいらしい。


「数時間でも駄目なものは駄目です。」

セルネオは少し睨んだ様な顔をする。

だがベルンは王族だ。これ以上は突っ込んで行かない。


「ところでルキノ嬢、もしエリンシア嬢が王妃に選ばれたとしたら、その後君はどうするんだ?」


「どうしましょうかねぇ。」


ルキノの返事に2人は目を見開いた。

卒業まで、僅かな時間しか残されていないというのに、その後の事を決めていないのか?


「いざとなったらエリンシアの侍女で王宮で雇って貰える様に交渉します。」

ルキノが微笑みながら言った。

(卒業後・・・の事は考えていなかったなぁ。まず生き残る事だけを考えて来たから。無事卒業したら何しよう?)

ルキノの笑みがワクワクに変わって来ている。


「卒業したら高位貴族の淑女教育が始まるぞ。」

セルネオは焦った口調で言った。

このまま放っておいたら、婚約は冗談でした。なんて事を言い出さないか心配になったからである。


「淑女教育?」


「あぁ当然だろう。エリンシア嬢は王族に相応しい、ルキノ嬢には公爵家に相応しい教育課程を経て結婚するんだ。」


「えっ?私達の婚約ってまだ有効なんですか?」


「あっ当たり前だろう。そんなにコロコロと変わる予定ではない。」


「ふーん、そうなんですね。」


セルネオは、随分と他人事のように言うルキノの発言に不安になった。


「公爵家の淑女教育って、何するんですか?」


「高位貴族のマナーとか、他国の言葉の勉強だ。」


「そうですね。私まだ3カ国語しか勉強出来てなくて。」


「え?ルキノ嬢は3カ国の他国語マスターしてるのか?」


「マスターとまでは・・・。他国のマナーとか歴史って面白いですけど、エリンシアの様にはいきません。」


「エリンシア嬢も?3カ国語マスターしてるのか?」


「いえいえ、とんでもない。」


セルネオは安堵の溜息を吐いたと同時に焦った。自分も3カ国語しか勉強できていない。

(明日からはもっと勉強しなくては)


「あら、もうすぐお昼ですね。エリンシアと約束があるので学園に行きますね。」

ルキノは荷物を持って歩き出した。


「午後からは真面目に研究します。行って来ます。」


ルキノが出て行って残されたセルネオとベルンは、顔を見合わせた。


「ルキノ嬢、淑女教育課程、やる事無いんじゃないかな?」

ベルンは素朴な疑問を言葉に出してしまった。





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