第38話 アリベルの思惑
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
38 アリベルの思惑
エリンシアが研究棟に向かう途中、お約束の様にシルヴィアが現れた。勿論取り巻きもご一緒だ。
「ご機嫌様。先を急いでおりますので、失礼致します。」
エリンシアがいつもの様にスルーを決めようとすると、例の如く行手を阻まれた。
しかし、アリベルの様子だけが少し違っていた。
「エリンシア様、いつも注意させて頂いていますが研究棟は貴方が立ち入るべき場所ではありません。」
シルヴィアが諭す様に言った。
「シルヴィア様前にも言いましたが、私に近づくのをお止め下さい。」
エリンシアも負けずに言い返す。
ふとアリベルの方に目をやる。いつも取り巻きの最前列に位置をとっているアリベルが、隠れる様に立っていた。
「あら貴女、どうですか?ドレスは気に入って貰えたでしょうか?」
エリンシアが微笑みかける。
「はい。」
アリベルは顔を赤く染めて、言葉短く答えた
「それは良かったわ。マダムミスリーに頼んで仕立てて貰いましたの。では、失礼致します。」
シルヴィア達の目がアリベルに注目した隙を逃さず、エリンシアは立ち去った。
残されたアリベルはシルヴィア様にどう言う事なのかと、詰め寄られている。
「感謝祭の日のお詫びの品だと、エリンシア様から送られてきました。」
アリベルはオドオドと答えた。
「マダムミスリーって有名なマダムミスリーの事?」
「何故エリンシア様がアリベルに贈り物を?」
「アリベル様はいつの間にエリンシア様と仲良くなったの?」
外野がざわめきだす。
「別に仲良くなってはおりませんわ。」
ツンと顎を上げて誤魔化す。
シルヴィアも問い詰めたい所だが、成り行きを知っているだけに何も言えなかった。これ以上この会話が続けば、自分が不利になる証言が出るかもしれない。
シルヴィアはアリベルに微笑みかけた。
アリベルは、一瞬戸惑った。本当の事を言えばシルヴィア様の命令でエリンシア主催の感謝祭の邪魔をしたのだけれど、今言えば確実にシルヴィア様の不興を買うだろう。
(何で私がこんな言われ方をしなくちゃならないの?)
アリベルは、心の中で舌打ちをした。
「さぁ行きましょう。」
エリンシアに逃げられた事で、一同解散となった。
散り散りと歩いて行く中、アリベルは考え込んだ。
(シルヴィア様よりエリンシア様に寝返った方が得なのではないか?今はルキノを気に入っている様だが、私もルキノの様に。いや、それ以上に気に入られれば良いのだ。自信はある。
そうすればこの私も・・・高位貴族との婚姻が結べるかも。)
アリベルの邪な考えなど見抜いていたシルヴィアは、対策を練る必要があった。
「まぁこの程度の女なら、金に物言わせれば良いわ。」
◇◇◇ ◇◇◇
「それではエリンシア嬢、感謝祭について聞かせて貰える?」
シグルド殿下は、興味津々の様だ。
「シグルドも来れば良かったのに。最高だったよ。」
ベルンが興奮気味に言った。
「分かったよ。この間から兄上はずっとこの調子だ。」
シグルドは苦笑いをしながらエリンシアに話を促した。
「はい。シグルド殿下。私達は先の戦争でアレク卿の領地の村に滞在した時に衝撃を受けました。アレク卿の村をモデルケースにして、アザルトルの領地も活気のある街にしたいと思いました。」
エリンシアの微笑みにベルンがコクコクと頷く。
「それで祭を?」
「はい、ルキノの案です。労働と消費、連帯感などが生まれれば活気につながると。今後は住民区画と組合などを整備していくつもりです。」
「それで領民が参加出来るゲームや催しにしたのですね。」
ベルンが口を挟んでくる。
「エリンシア嬢、感謝祭の催しや予算の詳細なデーターを提出して頂けないでしょうか?強制では有りませんが・・・。」
「はい。それならば既にルキノが情報を纏めて作成も終わっております。計画の段階から、当日の様子。予算や今後改善すべき点など事細かに。今日写しを持ってきておりますが、王族意外に漏らさないと約束して下さいますか?」
「勿論約束しよう。」
「では、ルキノ・・・。」
ルキノは何枚もあるレポートをシグルド殿下に差し出した。
そのレポートをパラパラと巡り目を通しながら、シグルドは溜息を漏らした。
「ルキノ嬢は、事務官としても有能な人材となるな。」
シグルド殿下にそう思わせるほどに、レポートは詳細が分かりやすく、簡潔に仕上がっていた。
「どうだセルネオ、ルキノを宰相になる君の補佐官に付けては?」
「そうですね。いずれは公爵夫人になるのですから、それも良いかも知れませんね。」
「えっ?えっ?私達の婚約って偽装ですよね?」
ルキノは狼狽えた。
「???」
シグルド、セルネオはポカン顔だ。
「なんだ。そうなんですね。」
ベルンは少し嬉しそうに言った。
「ルキノの将来はまだ確定では有りません。私達の計画の邪魔はしないで下さい。」
エリンシアが怪訝な顔をした。
「計画って?」
シグルド殿下がさらりと聞いてくるものだから、エリンシアはつい口を滑らせてしまった。
「それは将来私が王妃になって・・・。」
「エリンシア・・・それ言って大丈夫なの?」
ルキノが途中で口を挟んだ。
エリンシアは顔を赤らめた。
「兎に角私達は今、勉強中なのです。」
「ルキノ嬢も勉強中?」
「そっそれは、エリンシアに付き合っただけで・・・勉強するのは好きですから。」
エリンシアとルキノが動揺しまくり、何だかぎこちない空気が漂う中、ベルンだけが笑っていた。
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