第37話 感謝祭 2
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
37 感謝祭 2
感謝祭のゲームも好評に終わり、噴水広場は片付けられて音楽隊が音を奏でていた。
祭りの余韻を楽しむ様に、皆が踊っている。
「こんな祭りは初めてだよ。」
ベルンがまだ興奮冷めやらぬ様子で言った。
「私もです。ルキノの企画書を見た時には、大変驚きましたが成功して良かったです。」
「ルキノ嬢が考えたのか?」
セルネオも興味津々の様だった。
「エリンシアの協力があってこそです。私はゲームを提案しただけですから。」
「エリンシア嬢もこんな突飛な発案に良く協力したね。」
「ええルキノを信用していますし、何より勉強になりました。」
「それにしても、夫人達の野菜早剥き競争は面白かった。」
「ベルン殿下。ご老人達の輪投げも見物でしたよ。」
費用は思っていた程掛かっていない。大半の参加賞はリンゴであり、トマトやキュウリだった。
優勝賞品も、日用品が多く豪華な賞品は幾つも出してはいない。
それでも、こんなに楽しい祭りを開催する事が出来るなんて・・・。
平民にとっては、細やかな贅沢の時間だった。裕福でない家庭の子供はリンゴを親におねだり出来ない。
自分の参加で貰えるリンゴの味は格別だった。
少しのお金を稼ぎ、親に渡し孝行をする子供。親は子供にお礼を言って少し豪華な夕飯の準備をするべく買い物をした。
一汗流した青年達はビールで乾杯をして、来年の感謝祭の話しで盛り上がっている。
その様子を眺めていたエリンシアは微笑みながら言った。
「ルキノの作戦通り、区画の整備や組合の話しもスムーズに行えそうね。」
「ええ、思ったより団結力もあるし休日講習も開けそうだわ。」
「休日講習会?」
セルネオがルキノに説明を求める様に聞いた。
「はい。まず居住区域ごとの班を作ります。それとは別に職種ごとに組合を。そして月に二度ほど休日に講習会を開こうと思っております。女性には怪我や病気の応急処置、男性には格闘の練習をして貰います。優秀な方をスカウトして、お給料を払って領地の為に働いて貰おうかと思っております。」
「ルキノ嬢は、抜け目がないね。」セルネオは苦笑しながら言った。
祭の後の静けさ・・・とでも言うのか。
まだ気持ちが昂っている気持ちを抑揚するかの様に。
今日という楽しい1日が終わる事が残念な気持ちになりしんみりとした空気が漂う。
「エリンシア様、馬車の準備が整いました。」
そんな雰囲気をぶち壊すかの如く、リーナが参上。
「殿下とセルネオ様も、侍従がお呼びで御座います。」
現実に戻らされた4人は帰路についた。
エリンシアとルキノの忙しい日々は一旦落ち着いた。
明日からは学園生活が待っている。
エリンシアとルキノが馬車に揺られて王都へと帰る。時を同じくして、アリベルが自慢げに馬車の中でシルヴィアに言った。
「やってやりましたわ。平民やベルン殿下の前で、エリンシアに謝罪をさせました。きっと屈辱を味わったに違いありません。」
「ふふふ、良くやったわアリベル。私も屈辱に歪んだエリンシアの顔を見てみたかったわ。」
「ええ、本当に残念です。『主催者である私の責任です。』なんて言うから、『領民にどう言う躾をなさっているの?』って聞いてやりましたわ。」
アリベルは、興奮して喋る事を辞めない。
「最後に『お気をつけなさいませ。』と言ってやると、深々と頭を下げていたわ。」
アリベルは一気に喋り倒して、シルヴィアの顔色を伺った。
シルヴィアは微笑みながら満足そうな表情をしていた。
「今度はルキノを貶めてやるわ。」
アリベルが調子に乗って言った。しかし
「ルキノは出来ればエリンシアを裏切らせて、こちらに寝返らせる様にして頂戴。」
アリベルは思った。またルキノが邪魔をする。
シルヴィア様には私が付いているのだから、ルキノなんか放っておけば良いものを。
それともルキノがシルヴィア様に寝返ったら、私よりルキノが優遇されるのかしら?・・・そんなことがあってはならない。私の計画が水の泡ではないか。
エリンシアとルキノは祭を無事終えた達成感に浸っていた。今日までの嵐の様な忙しさが、嘘の様だ。
「ルキノ、疲れたでしょう。明日からは学園があるけれど、今週はゆっくりと過ごしましょう。来週からは、また頑張ってもらわなくてはならないから。」
しかしルキノは早く領地改革を着手したくて、ゆっくり出来るとは思っていなかった。
翌日、2人仲良く学園内を歩いていた。
「今日はシグルド殿下から呼び出しが有ります。エリンシアも放課後に研究棟に来て下さい。」
「何の用かしら?」
「多分感謝祭の報告ですよ。ベルン殿下が興奮気味にシグルド殿下に祭の話をしたらしいです。シグルド殿下も是非聞きたいとおっしゃって」
「まぁ、シグルド殿下も興味を持って頂いたのかしら?」
エリンシアが嬉しそうに言うと、少し頬を染めた。
「昨日のアリベルのドレスの弁償は、どうするの?」
「あら、もう新しいドレスを贈っておいたわよ。宝石を添えてね。」
「仕事が早いわね。」
「勿論。子爵家では手が出ない様な高価な物を用意したわ。」
「それは完全なる嫌味ですね。」
ルキノが苦笑する。
「それもあるけど、シルヴィアに付くより私の方がお得よ。って意味を込めてね。」
「アリベルを取り入れる気ですか?」
「まさか。でも、心を揺さぶられるには充分でしょう?」
「エリンシア、悪い顔になってますよ。」
「あら、気を付けなくっちゃ。」
エリンシアとルキノは、クスクスと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます