第36話 感謝祭 1

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=



36  感謝祭 1



紙吹雪と花弁が一斉に空を舞い、賑やかな音楽と共に感謝祭の幕が開かれた。


開催の演説


「アザルトル領内の皆様、次期領主となりますエリンシアと申します。」

集まった領民達から拍手が巻き起こる。


「私が領主になった暁には、大幅に税を上げる事を約束致します。」


野次にはならいが、ザワザワと不審に騒ついた声が鳴りだす。


「税を沢山徴収するためには、領民の皆様に沢山儲けて頂かなくてはなりません。農民、商人、職人他、それぞれの皆様、沢山儲けて豊かな生活を送って下さい。そして、税を一杯納めて下さい。」


一瞬シーンとなった聴衆の中、1人の男が笑い出した。


「確かに!税が倍になっても、収入が倍あれば生活が楽になる。エリンシア様、頑張って稼ぐからな。任せてくれ!」


「成程、エリンシア様、稼ぐ方法教えて下さーい!」


領民はエリンシアの捻くれた演説の意味が分かった様で、次々と声を上げた。


「今日の感謝祭でも、いっぱい儲けて下さい。そして更に来年、感謝祭をもっと盛大に開きましょう。」


大きな歓声の中で感謝祭は幕を開けた。

先ずは午前の部、フリーマーケットが噴水公園で開かれた。

子供服のお下がりや、家で使わなくなった家具、子供達が野原で摘んできた花飾り等が豊富に売られていた。


「この花冠は、幾らかしら?」

エリンシアが可愛らしい女の子に聞いた。


「はい、30リルです。」


「ダメよ。あなたの労働をそんなに安売りしちゃ。今日みたいな日は稼がなくっちゃ。そうね・・・300リルにしなさい。」


「えっ?パンが3つも買えちゃう。」

驚いたような表情で少女が言った。


「2つ頂戴。はい、600リルね。」


エリンシアは自分とルキノの頭に花冠を乗せて、他の出店を見回る。刺繍の施したハンカチやリメイクされた服、色々な物がある。

少しすると、ベルン殿下とセルネオ様が顔を出してくれた。


「お久しぶりで御座います。ベルン殿下、セルネオ様。」

エリンシアとルキノが淑女の礼をとる。


「お嬢ちゃん、花冠をもう2つ頂戴。600リルだったわね。」

ルキノが少女にお金を手渡してから、花冠をベルンとセルネオの頭に乗せた。


「ベルン殿下、セルネオ様、今日は沢山お買い物して下さいね。」

ルキノが屈託なく笑った。ルキノがこんな笑顔を2人に見せるのは初めての事だった。


街の中央通りを歩くと、出店が所狭しと並んでいる。

冷たい飲み物、串に刺した焼き鳥、フルーツの盛籠、領民達が列を作って買っていた。

4人で一周を終え時間も丁度正午になろうとしていた。


「そろそろ、フリーマーケットも終わる時間ね。次の催しの準備をしなくては。」


「ええ、噴水公園に戻りましょう。」


4人が噴水公園近くまで到着すると、先ほどの花冠の女の子が泣いていた。

辺りは騒然としていて、その中心から女性の怒り混じりの声が響いていた。アリベルの声だった。


「服が汚れてしまったじゃない。こんな所にゴミを並べて。貴女に弁償出来るの?」


花を入れていたバケツの水が少しかかった様で、バケツが倒れて花も散乱していた。


「申し訳ありません。」

女の子は震えながら謝った。


「自分で足を引っかけたくせに・・・。」

隣で出店していた、ふくよかな夫人が小さな声で言った。


エリンシアは急いで女の子の側まで歩いて行った。

「アリベル様、申し訳ありません。主催者の私の責任でございます。」


ルキノはエリンシアが場を治めている間に、女の子と夫人を後ろに下がらせた。


「エリンシア様、領民にどう言う躾をしていらっしゃるの?平民が貴族に無礼を働いて良いとでも?」

アリベルは鬼の首を捕ったかの様に、エリンシアを睨み付けた。


「お洋服は私共で弁償させて頂きます。今日は感謝祭で無礼講となっております。アリベル様もお楽しみ頂ければ幸いに御座います。」


エリンシアが深々と頭を下げた事に、気を良くしたアリベルは

「お気を付けなさいませ。」

と、上から目線で言ってから、この場を去って行った。


「エリンシア様、ゴメンナサイ。」

女の子が涙も乾かない状態で、恐縮して謝ってきた。


「貴女が謝る事は、何一つもないわ。さぁ、午後からはゲーム大会があるのよ。気持ちを切り替えましょう。」

ハンカチで女の子の頬を拭い、エリンシアが笑顔で皆に言った。


がたいの良い男達が荷車を次々に運び込んできた。

準備された景品の多さに領民達が目を丸める。


「先ずは靴飛ばしを始めます。7歳以下のお子様が参加可能です。どうぞ前にお並び下さい。」

ルキノが大きな声で先程までの不穏な空気を吹き飛ばした。


おずおずと何人かの子供達が前に出た来た。何をするのか分っていない様子の子供達にルールの説明をした。そしてルキノがラインの上に立って思いっきり靴を飛ばして見せた。


「さぁ、一番遠くに靴を飛ばした者の勝ちですよ。」

子供達がラインに一斉に並んで靴を飛ばした。審判はルキノだ。


「この靴は誰のですか~!!」


「僕の靴です。」


「名前は?」


「リックです。」


「靴飛ばしは、リック君の優勝です。参加した子供はリンゴを貰って下さい。リック君には商品として、新しい靴をプレゼント致します。」


ルキノの仕切りに、見学をしていた領民がザワザワと声を上げた。

「負けた者もリンゴを貰っているぞ。」


「先ずは努力が大事です。そして才能。結果として成果に結びつきます。子供達は靴を遠くに飛ばす努力をしました。その努力に少しの報いがあっても良いでしょう?」


領民達から拍手が巻き起こった。

「リック、凄いぞ。他の子達もよく頑張ったな。」


「エレナ、惜しかったね。また次も頑張りましょう。」


親達大人が、子供を称えるべく大きな声で声援を送った。


「次は、尻相撲です。7才から16才までの人達、前に出てきて下さい。」

ルキノが大きな声で告げると、参加者が沢山現れた。」


「腕を組んで円の中でお尻で戦います。ベルン殿下、こちらへ。」

ルキノはベルン殿下を呼んだ。思いもよらなかった指名にベルンは驚きながらルキノの側に行き説明を受けた。


「武器はお尻だけですよ。円から出てしまった者、地面に手を着いた者が負けです。」

そう言いながらルキノはベルンをお尻で突き飛ばして円の外に出した。


ベルンは頬を掻きながら、「負けちゃった。」と言って民衆の笑いを誘った。




補足情報

*** 1リルが1円換算。

***平民4人家族、12万程で生活しています。



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