第35話 感謝祭前日
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
35 感謝祭前日
明日は皇室が主催の祭典が行われる。と言う事は領地での感謝祭まで1週間しかない。
エリンシアとルキノは、多忙な日々を送っていた。
「明日の祭典に参加したら、明後日の朝には領地に出発するわよ。ちゃんと準備しておいてね。」
エリンシアはお嬢様の癖にタフマンだった。
ルキノは連日の計画と準備に疲労困憊ガールだと言うのに。
「ルキノも明日くらいはゆっくりと楽しみなさいよ。」
エリンシアの優しい気遣いが嬉しい。
「明後日からは馬車馬の様に働かなくてはならないのだからね。」
エリンシアが悪い顔をして笑う。
さっきの優しいと思った気持ちは、取り消させて貰う。
取り敢えずは、明日の祭典を思いっ切り楽しむ事にした。
楽しむとは言うものの、エリンシアとは別行動で視察と予行演習だ。
平民がどんな催しを喜んで楽しんでいるか。不備はないか。
そんな人間ウォッチをしていると、ベルン殿下とセルネオ様が声をかけてきた。
「やっほ!」
「あっベルン殿下。楽しんでいますか。」
「ところでエリンシア嬢は?今日は1人?」
「それがですね・・・。最近何者かに尾行されていまして、取り敢えず二手に別れて成り行きを見ている状態です。まぁ、エリンシアにはリーナを付けてますし、絶対に人の少ない場所には行かない様に言ってあるので、大丈夫でしょう。」
「尾行?それでルキノ嬢は?」
「私は1人でも平気なので。所謂囮です。」
「それは、危険な行為だ。私も同行する。」
「ダメですよ、ベルン殿下。今からパレードの準備があるでしょう。それに囮の意味がなくなります。あっそうだ!来週は領地で感謝祭を催す予定です。ベルン殿下も来て下さいね。私、馬車馬の様に働きますから。」
「通信石は持っているな。」
「はい。大丈夫です。」
「では、私達はこれで失礼する。祭典を楽しんでくれ。」
「有難うございます。」
ベルン殿下は気掛かりの様だったが、セルネオに促されて去っていった。
陰から覗く様に見ていたアリベルはタイミングを失っていた。
ベルン殿下とセルネオ様が一緒にいらしたのに、ルキノに話し掛ければ良かった。友達の振りをして、殿下とお近づきになれたかもしれないのに。
しかし行ってしまったものは、仕方がない。
引き続きルキノを見張って、チャンスを伺う。
(ルキノ達が何かを画策している様だわ。アリベル、見張って何をしているか探ってちょうだい。ひょっとすると、殿下達と会えるかもしれないわよ。)
シルヴィア様にそう言われて、何日か前からずっと様子を見ているのだが、初めて殿下と接触した場面に遭遇した。にも関わらず出ていけなかったのだ。
(聞き取れたのは、来週、感謝祭、馬車馬という単語だけ。)
「意味がわからないわ。」
アリベルは、誰にも聞かれない様に独り言を呟いた。もう少し調べてアリベル様に今夜中には、報告を入れておかなくては。焦る気持ちも合わさって尾行が随分と強引になり、ルキノには直ぐにばれていた事をアリベルは知らない。
「急がなくては、王族のパレードが始まるわ。」
ルキノはエリンシアに怒られない程度の早歩きで、中央街にあるパレードを見物に行った。
パレードに使われるオープン馬車には王陛下、王妃殿下、シグルド殿下、ベルン殿下と全員が揃い踏みで、民衆達が熱狂的に声援を送っていた。
少し控えたところにセルネオ様が見えた。
ルキノは平民に混ざって、殿下とセルネオ様に小さく手を振った。
(中央政権では良いけど、エリンシアにパレードは必要ないわね。)
ルキノはベルン殿下に微笑みながら手を振ったが、頭の事は領地の感謝祭の事で頭が一杯だった。
独り言の様にブツブツと呟く。
(領民の税を大幅に上げる事を目標・・・。)
エリンシアが感謝祭の時にする演説スピーチの原稿を仕上げなければならない。
どの様なパフォーマンスが好感的であるか。
ルキノが独り言を言いながら歩いている後ろでは、アリベルが聞き耳を立てて着いて来ていた。
(パレードも見たし、そろそろエリンシアと合流する時間だわ)
ルキノは待ち合わせの場所へと急いだ。
そこには扇子で顔を覆い退屈そうに待ち侘びているエリンシアが、何処かの貴族令息にお茶でもどうかと誘われていた。
「お待たせ、エリンシア。」
ルキノはエリンシアに近づいて令息をチラリと見た。
「エリンシア、用事でも出来たの?」
「いいえ、行きましょう。それではご機嫌様。」
エリンシアはツンと澄ました顔で令息に言った。
「大丈夫だった?」
「ええ、私は大丈夫よ。ルキノはどうだった?」
「色々と報告があるわ。取り敢えずは帰りましょう。内緒話は誰にも聞かれない場所でね。」
アリベルはこれ以上は後を着けるのは無理だと思い、一旦シルヴィアへ報告に向かった。
明日から準備に追われるのは、覚悟の上での感謝祭の計画書を積み上げる。三日後には領地に向かわなければならない。ルキノは深夜まで計画書を睨みながら、試行錯誤していた。
アリベルは媚びた笑顔でシルヴィアと向き合っていた。
「来週、感謝祭、馬車馬、それと領民の税を大幅に上げると言っていました。私には何の事やら。ベルン殿下とセルネオ様の接触はその一回だけでした。」
「なるほどね・・・。」
シルヴィアは、ニヤリと笑って言った。
「ご苦労様。」
「では私はこれで失礼します。」
「あっ・・・来週アザルトルの領地に行くからアリベルも同行なさい。」
「えっ?はい、わかりました。」
来週アザルトル領内で感謝祭を行うらしいわね。
殿下もいらっしゃる様子だし、エリンシアには恥をかいてもらわなくては。
シルヴィアも感謝祭に向けて色々な策略を巡らせるのだった。
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