第34話 学園の様子 2

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


34 学園の様子 2



「何だか久し振りね。」


「忙しくしてたからね。」


学園に足を踏み入れた2人は、久々の開放感に浸っていた。

授業はあるが、領地でのマナー教育や感謝祭の準備に比べれば休日の様である。


しかし、待ち伏せしていたかの様なタイミングでシルヴィア様に遭遇する。エリンシアは見てはいけない物を見てしまったかのように、目を反らした。折角の良い気分が台無しだ。


「あら、また殿方を誑かしに学園に通うのかしら。」


「恥ずかしく無いのかしら。」


シルヴィアの一行は、聞こえる様にエリンシアに言った。

率先して噂話をしているのは、アリベルの声だ。


「ご機嫌様。急いでおりますので、失礼します。」


「ご機嫌様。」

関わりたくないと思って足早になる。ルキノもそれに習う。

(感謝祭の話をしてた方がよほど楽しいわ。)


通り過ぎようとした時、アリベルが行手をさえぎった。

シルヴィアの方をチラリと見て、大仰に言う。

「お待ちくださいエリンシア様。聖女シルヴィア様を無視するなんて、無礼じゃありませんか?」


エリンシアは悪びれた様子もなく、表情を変えずに言った。

「あら、挨拶致しましたわよ。聞こえませんでしたか?そんな事より、貴方はどなたでしょうか?」


「・・・。」

アリベルは黙り込んだ。


「シルヴィア様のお友達の方。私はアザルトル侯爵家のエリンシアです。名乗りもしない方に行く手を阻まれる謂れは有りません。私は高位貴族の方は全て存じておりますし、それ以外の貴族がそんな無礼な振る舞いをする訳もないし、それとも貴方は何処かの王族の方でしょうか?」


アリベルは耳まで赤くなって俯いてしまっている。


「エリンシア、王族の方に失礼があってはならないわ。」

私はエリンシアを嗜める振りをした。


エリンシアもルキノの言葉に乗っかって、優雅に礼をとる。

しかしその手には、しっかりと魔力石を握っていた。


「シルヴィア様、王族の方、行って宜しいでしょうか?」


「私は何も言ってないでしょう?どうぞ行って下さい。」

シルヴィアは苦々しく言った。


「でも、シルヴィア様・・・。」

尚も食い下がろうとするアリベルを手で制して、シルヴィアが「今日は魔法攻撃を仕掛けて来ないのですね。それではご機嫌。」と挨拶をした。


エリンシアとルキノは、それを聞いて立ち去る。


アリベル・・・私に憧れを抱いている様だけど、使える奴なら側に置くけど、使えない奴なら利用して切り捨てるわ。


「アリベル様、2人でお話ししたい事が御座います。お時間宜しいでしょうか?」

シルヴィアは、アリベルを見ながら微笑んで見せた。



シルヴィアから少し離れて、ルキノは通信石に話しかけた。

「セルネオ様?聞こえてましたか?」


「聞こえてたよ。」


「ルキノ、貴方セルネオ様と通信していたの?」


「そうよ。エリンシアの卒業まで、出来る事は全てやる。」


「そこまで?」


「セルネオ様、エリンシアと感謝祭の話をしてから研究棟に行きます。一旦通信を切りますね。」


「感謝祭?」

自分の言いたい事だけ言ってルキノは通信をきった。


「呆れるな、人の話は最後まで聞け。」

セルネオは一旦大人しく研究棟でルキノを待つ事にした。



エリンシアの授業が始まるまで、祭りの詳細を打ち合わせ時間を潰した。授業が始まれば、優秀な侍女であるリーナが目を光らせている。


「お待たせしました。」

ルキノが研究棟に到着すると同時に、セルネオは疑問をなげかけた。


「ルキノ嬢、感謝祭って?」


「王都で祭典が行われる1週間後に、アザルトルの領地でも感謝祭を催す事にしました。その計画をエリンシアと立てている最中です。セルネオ様も是非遊びに来て下さい。」


「あぁ分かった。ところで、相変わらずにシルヴィア嬢に絡まれているのだな。」


「ええ、面倒くさいですけど仕方ありません。セルネオ様、もしもの時は証人になって下さいね。そんな事よりも、相談に乗って下さい。」


「なんだ?」


「アザルトルの領地を区画整備しようと思っているんですけど、参考資料とかありませんか?」


「用意しておくよ。最近急に領地の改革に着手しているようだが、何かあったのか?」


「辺境伯様の領地をみて、感心したんです。統制が取れていて男性も女性も、商人も農民もバランス良く働いていました。アザルトルの領民達にも、見習って貰おうかと思いまして。」


「確かに領内での貧富の格差は、問題に発展する事も多いな。感謝祭を催しながら、把握するつもりか?」


「はい。時期的にみても丁度良かったので。」


「分かった。出来るだけ協力しよう。」


「有難うございます。」


(後は感謝祭で行うエリンシアの演説の原稿を作らなければ・・・。インパクトのあるものが良いのだが。実はもう幾つかの案が浮かんでいる。領民のレスポンスが楽しみだな。)


ルキノは我知らず不気味な笑みを漏らしていた。


「ルキノ嬢、悪い顔になっているぞ。」


セルネオは少し心配になった。

エリンシアとルキノが何かを始める時、大抵は突拍子のない事をしでかして、寿命が縮む思いをさせられるからだ。


果たして今回の暴走は如何なるものか。

そして、我々はそれを収める事が出来るであろうか。

セルネオは楽しさ半分、恐いもの見たさ半分でルキノに話の続きを促した。


「今回催す感謝祭の趣旨はですね・・・。」

セルネオはルキノの膨大な計画の話しに、今日の研究は諦めて潔くルキノに協力する事にした。


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