第33話 学園の様子 1

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


33 学園の様子 1


今年の王妃のお茶会は、中止となった。

2度の戦争を経て、疲弊した国民や兵士を慮って小さな祭典に変更したのだ。平民達にもパンとお菓子やワインが振る舞わられる。


しかし専ら世間では、シグルド殿下の婚約者の候補者が内定されたのではないかと噂をされていた。

何故ならシグルド殿下の婚約者は、未来の王妃なのだ。国政を左右する一大事である。お茶会を祭典に変更したのも、その余裕からではないかと。そして学園内もその噂で持ちきりであった。


「シルヴィア嬢、教えて下さいよ〜。」


シルヴィアを取り巻く中の令息が冗談めかして聞いている。

周りも興味津々の様子だ。


「ふっふっ、皆さん駄目ですよ。王族の噂を軽々しく口にするものではありません。」

口に手を当て笑顔で対応するシルヴィアの余裕綽々の返事に、噂は更に広まった。

シグルド殿下の婚約者は、シルヴィア様に決まったのだと。


「エリンシア様は最近学園を休みがちになっていると聞きましたわ。財力と権力を駆使して頑張ってはみたものの、シルヴィア様には敵わなかったと言う事でしょうね。」


最近取り巻きに加わった令嬢のアリベルが、エリンシアの名前を引き合いに出してきた。


「そうですわね。エリンシア様が王妃になるなんて、私は不安でしたもの。」


「ええ、呪いとか王家への反逆の噂もありますし、私も怖かったですわ。」

周りの人達もアリベルの意見に賛同した。


アリベルには企があった。

地位も低く財力もない弱小貴族のアルトン子爵家の令嬢ルキノが、エリンシアの権力を傘に次期公爵様との婚約に漕ぎつけたのだ。私にもチャンスが有るかも知れない。

(私もシルヴィア様に引き上げてもらって、成り上がってやる。シルヴィア様が王妃になれば・・・)



◇◇◇  ◇◇◇



一方のエリンシアとルキノは足繁く領地へ通っていた。

学園卒業までに、やるべき事は山程ある。

領民の暮らしぶりと税収が見合っているか。治安や福祉。貴族の無体な虐げは横行していないか。

そして何より、王妃教育自主学習。


「ルキノ、私は5カ国の文化と言語をマスターしたわよ。」


「エリンシアは凄いわね。私はまだ3カ国よ。」


「これから国際社交マナーの先生がいらっしゃるわ。気を引き締めて頑張りましょう。」


2人は王都と近い所に領地がある事を幸いにし、何度も往復しながら領地の運営に力を注いでいた。


「私が王妃になれば、侯爵家の実務を一旦人に預けなければならないわ。出来るだけ整備しておかないと。将来は子供が安心して侯爵家を継げるように。ルキノも協力してね。」


(まだ自分も子供なのに、子供の心配をしてるよ。)

「王妃になれば・・・って。シグルド殿下からプロポーズでもされたの?」


「いいえ、まだよ。でもルキノも公爵夫人が決まったし、後は私が王妃になれば作戦は完璧じゃない?」


「壮大な計画だね。シグルド殿下にアプローチするのが先じゃない?」


「何で?準備が先でしょう?」


エリンシアのこういうところだ。

王妃になる野心とは別に、大変な努力家だ。

本当に王妃の器だと思う。でも世間は、シグルド殿下は、それを知らない。人知れずに努力するタイプだからだ。


「王都で祭典が行われた後になるけれど、領地でも小さな感謝祭を催すわ。ルキノも案を出してね。」


「分かった。そろそろ先生がいらっしゃるよ。」


ルキノが言った側から扉がノックされ、リーナが先生を連れて入ってきた。


「本日も宜しくお願い致します。」

エリンシアとルキノは、挨拶をした。


王妃ともなれば、外交も出来なくてはならない。

対諸国に向けて、様々な文化交流の知識を身に付けなければ。

エリンシア達は2時間に渡って講義を受けた。


翌日早朝、タウンハウスへ帰る馬車の中ルキノがニヤニヤと笑いながら言った。


「明日は学園に行くでしょう?感謝祭の事なんだけど、今からでも計画書を見てもらえる?」


エリンシアは頷いて、ルキノから手渡された書類に目を通す。

(ルキノったら昨日遅くまで起きてたと思ったら、これを作っていたのね。)


「予算の事が心配なんだけど、どうかしら?」


そこには感謝祭の計画、ゲームやビンゴ大会、露店商やフリーマーケットが詳細に記されていた。


「もちろん賞品はアザルトル侯爵家で。大した物じゃ無くてもいいわ。数を出す事が大事だから。」


「そうね。私のお小遣いを少し切り詰めればいけるかしら?」


(小遣いで賄えるのかよ!)心の中のツッコミは置いておいて


「露天商は区画を整備してこちらで用意しようと思うの。参加者には、くじ引きで無料で貸し出すの。

それから、広場でフリーマーケットを開催する。こちらは子供でも参加出来るように野原で作った花冠やサイズの合わなくなった古着なども出店出来るようにスペースが必要だわ。」


「両親のお小遣いも切り詰めないとね。」


「あと住民を区画で分けて、対抗戦を開催してはどうかしら?男性の部で騎馬戦とか、子供の部で靴飛ばしとか。」


「騎馬戦?戦争を始める気?それに靴なんか飛ばしてどうするの?」


「まぁルールは後で説明する。それよりお知らせをどうするかが問題ね。この際きちんと区画整備もしましょう。格区画からリーダーを選出して、連絡係をしてもらう。今後の役にも立つしね。」


「そうね。辺境の地だと思っていたけれども、アレク卿の村の統治力は素晴らしかったわ。女性達の活躍も。怪我の応急処置や炊き出しまで・・・見習いたいわね。」


ルキノもエリンシアの意見に頷いた。

馬車で領地から王都までの12時間程かかる道のりは本来なら苦痛でしか無いのだが、考えるべき事は尽きない。いつの間にか夕方になっていてタウンハウスに到着した。


「エリンシア、乗馬を習えないかしら?」


「急にどうして?」


「アザルトルの領地で突発的に何かあった時、少しでも早く移動出来た方が良いと思う。」


「ルキノは働き者ね。準備して置くわ。」


おかしな縁で一緒にいるルキノだけれども、アザルトル侯爵家の事を大切に思ってくれている。

絶対に口にしないけれど、とても感謝しているわ。

エリンシアはルキノを見て、微笑んだ。







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