第32話 セルネオの備忘録
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
32 セルネオの備忘録
いつもの日常ではあるが・・・。
学園を通して貴族の派閥や噂などを調べるべく院生として研究棟に潜り込んでいるのだが、王陛下の補佐をしているシグルド様殿下には忙しすぎる。
当然シグルド殿下の側近である私の仕事も山の様に積み上がり、見るだけでもうんざりする量だ。
しかも隣国のきな臭い情報が入って来てからは、目の回る様な忙しさだ。
そんな時に時期はずれな謎の転入生が・・・。
アザルトル侯爵家の推薦であるが、本人は田舎の子爵家の令嬢だ。アザルトル侯爵家の侍女をしていたらしいが、奇妙な話しだ。
「セルネオ、今日転入生が挨拶に来る。学園にこれ以上問題児を増やす訳にはいかない。」
「はい。分かっております。今は王家にとってもシグルド殿下にとっても大切な時期。しっかりと見極めましょう。」
ルキノが挨拶に来る直前までの会話である。
扉が開けられ入って来たその少女は、可愛らしいが平凡な少女であった。
(アザルトル侯爵家の推薦という割には、派手さもない・・・。あっ、侍女だからか?それにしても何故侍女を推薦したのか?)
少し緊張気味な少女は、無難に挨拶を終えて図書館へ向かった様だ。
「ルキノ嬢の方は私が担当しても宜しいでしょうか?」
シグルド殿下との話で思わず言ってしまった言葉だ。
図書館は調査が楽だ。私の行動範囲だからだ。等と自分に言い訳をしているが、何故だかルキノが気になる。
そう思って監視対象者にしたが・・・。
王妃のお茶会に始まり、ベルン殿下への急接近。
アザルトル侯爵家の次期当主である、エリンシア嬢に対する発言権とその態度。
どう考えても、只の侍女ではない。
そうしているうちに、エリンシア嬢の膨大な魔力の発覚。
私はシグルド殿下にルキノ嬢を学院生に迎える事を強く勧めた。シグルド殿下は笑いを含みながら、受け入れてくれた。
その頃から、ルキノ嬢はベルン殿下と急速に仲良くなっていった。王族に対する無礼とも思える振る舞いを、ベルン殿下は喜んで受け入れている。
私はそれを横目で見守っていたが、まるで魚の小骨の様に私の喉に引っかかる。私は絶えず息を飲み込んだ。今度は私も『やっほ!』の挨拶も実践してみようと思う。
戦争が始まった。
エリンシア嬢とルキノ嬢が秘密裏に参戦する事が決まった。
だが、私の心配をよそに大活躍をしてくれた。
しかし、戦功は要らないと言う。
とにかくルキノ嬢は私の理解の範疇を超えていた。
バリデンに暴力を振るわれた時でさえ、笑って気にしていないと言った。私とベルン殿下の震える程の怒りを理解していない。この人を放って置くのは、危なすぎると思う。
エリンシア嬢の提案もあって、私は内緒のルキノの婚約者内定者になった。バリデンの様な輩達から無頼な振る舞いがあった時の為に、私が介入出来る様に立てた作戦だ。
ルキノ嬢と秘密を共有する事は、私の心を踊らせた。
一緒に研究をするうちに、真面目で慎重な性格が窺える。
エリンシア嬢の魔力を有効活用したいと申し出があった。
勿論エリンシア嬢の負担にならない程度だが。
ルキノ嬢にとって、エリンシア嬢が1番大切な存在らしい。
アレク卿から連絡があった。性懲りも無くノースルナ国が開戦準備を企てているらしいと。
王妃のお茶会を前に、忙しくさせてくれる。
お茶会の当日、ルキノ嬢はまた私を驚かせてくれる。
ドレスが被る事を嫌がる令嬢達を黙らせた、双子コーデ。
2人はお人形の様に愛らしく、他の令嬢に歯噛みをさせていた。だが、注目の的となった2人に早くもヘイロンが近づいている。やはり彼女を野放しにするのは危険だ。
私を取り巻く令嬢を追い払う為に、ルキノ嬢に悪い虫がつかない様に一石二鳥の案が浮かんだ。
私がルキノ嬢の本当の婚約者になれば良いのだ。
早速エリンシア嬢の懐柔に取り掛かった。
後でシグルド殿下に報告した際に、「何故急に婚約を?」と聞かれたが、「研究をスムーズに行う為です。」と答えた。
シグルド殿下の意味深な笑顔が、気に掛かるが仕方ない。
研究をやり遂げ、成果を出すにはルキノ嬢を抜きには考えられない。決して一緒にいたいからなどと邪な考えなど、浮かべてはいない。
私の悪い予感が当たった様だ。ノースルナ国が攻め入って来る情報が現実のものとなった。
ルキノ嬢やエリンシア嬢を危険な目に遭わせるのは本意ではないが、この王国を守る為に欠かせない人材だ。
2人で開発を行った通信水晶石で、優位に戦争を終わらせる筈だったのだが、シグルド殿下に負傷を負わせてしまいエリンシア嬢に暴走をさせてしまった。
当然の如くルキノ嬢はエリンシア嬢に追従し、結果2人を危険な目に合わせてしまった。
通信水晶石の存在は、私とルキノ嬢が離れた場所で通信する為にある。逆を言えば危機的状況にある時は離れた場所で待機する事になる。側にいて寄り添えない。
戦争には大勝したが、それが2人の令嬢に頼らなければならなかった事に胸が痛んだ。
シグルド殿下やベルン殿下の口添えもあり、ルキノ嬢とエリンシア嬢に戦功が授与されることになった。
パーティーにも参加する。
(私が婚約者なのだから、パートナーは当然私だ。)
エリンシア嬢は流石アザルトル侯爵令嬢だが、ルキノ嬢も中々に洗練された振る舞いだった。
「ダンスは苦手です。」とか言っていたが、中々どうして。
普段から姿勢が良いのと運動能力とあるのだろう。
エスコートしていて、不快な部分は一つも無かった。
戦争が終わり平和が訪れたが、ルキノ嬢はベルン殿下のストレッチ体操とやらに力を注いでいる。
(相変わらず、あの2人は仲良しだな。)
また3人で四阿で内緒話をして楽しんでいる。
ヒソヒソと何を話しているのだろうと気に掛かる。
そんな焦った様な日々を過ごす中、シルヴィア嬢に捕まってしまった。運が悪い。
「セルネオ様、内密に少しお話が。」
仕方がない。面倒だが無視をする訳にもいかない。
「急いでいますので、手短にお願いします。」
「アザルトル侯爵家とベルン殿下が謀反を働いているという噂を耳にしました。」
・・・ ・・・!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます