第31話 学園の噂

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


31 学園の噂



「ルキノ嬢、今度は何をした?」

婚約者様であるセルネオ様が血相を変えて、私の腕をとった。

少し慌てている様子が見られるが・・・。

セルネオ様とは婚約者とは言うものの、実際の間柄は甘いモノではなく研究棟に籠って2人きりになっても研究ばかりをしている。


「セルネオ様。きちんと説明して頂かないと、意味が分かりません。」


失礼な話だ。仮にも婚約者である私に最初から疑った物言いは、少し残念な気持ちになった。

別に愛を囁いて欲しいとは言わないが・・・それにしてもである。


「学園の噂を知らないのか?」

セルネオ様が不思議そうな顔で聞いてくる。


「知っていますよ。1・エリンシアはお金で戦功をかった。2・シグルド殿下、ベルン殿下、セルネオ様、アレク様と複数の殿方を拐かしている。3・聖女であるシルヴィア様を苛めている。4・エリンシアと私は、聖女様に呪いをかけようとしている。えっと他には・・・。」


私は指を1つづつ立てながら丁寧に言った。


「もういい・・・。」

セルネオは私の手を下ろし、眼鏡を取って瞼を指先で押さえた。


「5・2人はベルン殿下と共謀して王族への反逆を起こそうとしている。だ。」


「えっ?それは初耳です。具体的に聞いても?」


「数人の令嬢が、確かに本人達の口から聞いた。と言って噂が広まった様だった。王家、反逆、貴族、処刑と言う言葉をハッキリ聞いたと。もう学園中の噂になっている。」


「あぁ、百物語の事か。確かにベルン殿下と、そう言う話をしました。」


「成り行き等を聞いても?」


「はい、簡単です。夏の暑さに負けぬ様に涼をとろうと思いまして、怪談話をしておりました。ベルン殿下の参加は、前回が初めてです。」


「ルキノ嬢達は、何回かしていたのか?」


「ええ、私がエリンシアを誘いました。じつはこれには事情が御座いまして・・・。でもこれ以上は言いたくありません。」


事情は言いたくても言えない。それは今ここにいるセルネオ様が関係しているからだ。転生前の時はシグルド殿下もセルネオ様も、エリンシアの悪い噂を信じたはずだ。

悪役令嬢だったエリンシアが断罪されたのは、噂も大きい要素になったはず。ならばその噂を利用して、無実を証明する。


セルネオ様が私達を信用していない様に、私もシグルド殿下やセルネオ様の事を信用しきれてはいないのが現状だ。つまりはお互い様である。

断罪の材料を吟味し裁決を下したのは、他ならぬシグルド殿下なのだから。

エリンシアが王族の前で攻撃魔法を使った事により、調査が行われエリンシアの悪行(噂を含む)が次々と暴かれる。


確かに今は良好な関係を築いているが、今後もこの関係が続くと言う、保証はない。


ルキノはそれ以降、口を噤んだ。

私達は楽しく(恐ろしく)談笑をしていただけ。

誰に咎められなければならないの?

ベルン殿下もルールは守ってくれた筈だ。特定の人物の名前は出してはいないし、王国や王族の名前も口にしていない。全てはフィクションなのだから。


「無理に事情を聞く事はしないが、今回は王族であるベルン殿下の噂が上がっている。そこが問題なんだ。」


セルネオが額を指でトントンと叩きながら、思案しているようだ。その仕草でセルネオが本気で頭を悩ませてしる事に気が付いた。

確かにベルン殿下を巻き込んだのは、良くなかったかもしれない。しかし今、作戦がバレてしまったら、今までの百物語の意味がなくなってしまう。


「放っておきましょう。」

ルキノはセルネオに少し体を寄せて小さな声で言った。


「このまま野放しという事か?」


「はい。私達は何も悪い事はしていません。悪いのは人の話、それも殿下のお話に聞き耳を立てて噂を流した人達です。それもベルン殿下の御名を出しての噂話など、不敬以外の何者でもありません。今後はエリンシアと2人で別の噂になる様な百物語をします。」


「事が大きくならない様に釘を刺す必要があるな。百物語とやらは、シグルド殿下を通して王陛下にも説明をして頂こう。」


ルキノの様子を伺うに、ベルン殿下を巻き込む事が本意ではないという事が分かる。


「エリンシアが成人し侯爵を継ぐまで後1年余り、それまで宜しくお願いします。」


ルキノはセルネオに深々と頭を下げた。


しかしセルネオの心中は複雑だった。ルキノは何故エリンシアの成人にこだわるのか?侯爵を継いだ後も、苦労はあるであろう。ルキノの言い方は、まるでそこがゴールの様な言い方をする。


それがルキノの言う事情であるのだろう。では何故相談をしてくれないのだろうか?

まるで私の事は信用に値しないかの様に。

セルネオはルキノの頑なな態度に、少し苛立ちを覚えた。


「ルキノ嬢、私やシグルド殿下では頼りにならないのか?」

苛立ちの余り、つい口から出た言葉である。


「逆にセルネオ様やシグルド殿下は、私を無条件に信じていらっしゃるのですか?」

ルキノは目をパチクリと瞬きながら言った。

それが当然の言い分だとでも言う様に。


2人に気まずい沈黙の時間が続く。

ふと風が吹きルキノの髪を靡かせた。

(髪、だいぶ伸びてきたな・・・。)


「セルネオ様は眼鏡が似合いますね。」


ルキノが髪を指に絡ませながら、セルネオの方へ視線をやると

何やら真剣な表情で考え込んでいた。

腹黒眼鏡鬼畜のセルネオ様が、何を考えているのやら。

ルキノはその凛々しい顔を、眺めていた。




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