第30話 戦争の末に


=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


30 戦争の末に


「お待たせ致しました。シグルド殿下、アレク卿。」


シルヴィアに行く手を阻まれ到着時間が遅れてしまった為、恐縮してしまう。

しかしエリンシア達より遅れて来た者がいた。

ベルン殿下とセルネオ様だ。


「皆、揃った様だな。」

しかしそんな事は気にする様子もなくシグルドが説明を始めた。


「先ずはノースルナ王国だが、国王には退位頂いた。

今回の戦争の発端は、国王が贅沢色欲三昧を繰り返し、多くの国民の声を聞く事もせず、挙げ句に他国に攻め入り領地を広げた者を王太子に指名すると宣言をしたが為、王子達は競って侵略戦争を始めたらしい。」


成る程、魔獣対戦の時といい戦力はあるが纏まりがないのはそういう訳があったのだ。


魔獣に力を借りる者。他国に力を借りる者。

一枚岩ではないからこそ、起った事だった。

寧、王子達が力を合わせ協力して攻めて来られたら、今よりも大惨事になった可能性もあった。


「王妃や側室は纏めて離宮に幽閉され、幼子は養子に出された。新しい王陛下には、キルバス公爵に即位して頂く。公爵の祖父は二代前の王弟殿下で、公爵の人望も厚い。・・・王陛下と王子達の処遇だが、公爵いや新王陛下に一任したが、元国王、第3王子も含め彼らは毒杯を頂く事になるだろう。」


エリンシアとルキノは頷いた。元より口出しするつもりも無い。


「だが油断は禁物だ。引き続きアレク卿は防衛の強化を。セルネオ、エリンシア嬢、ルキノ嬢も協力を願いたい。」


『承知致しました。』

全員が口を揃えて立ち上がり、礼をとった。


エリンシアの魔力、セルネオとルキノの研究、アレクの防衛がこれから200年余り続くサティア王国の平和の礎となる事を今は誰も知らなかった。



◇◇◇ ◇◇◇



戦争終結の朗報を得て、ルキノは上機嫌でベルンに言った。


「ベルン殿下、次回から体幹を鍛える体操を始めますよ。」


エリンシアが目を見開きベルンを見つめながら言った。

「ベルン殿下、まだルキノの変なポーズに付き合っていたのですか?」


「ああ、ずっと続けていたよ。ストレッチも辺境伯の領地でも毎日やっていた。」


「私もそろそろレポートを仕上げないと。折角学院生に残して頂いたからには、成果を少しでも残さなくてはね。」


「セルネオ様との研究があるじゃ無い。」


「あれは、元々セルネオ様が主導されているものだから。」


「他にもハーブティーや薬草にも着手したいのだけど、薬とも毒ともわからないから、難しいわね。」


ユイナは基本、慎重で真面目な性格をしている。それはルキノになっても変わっていなかった。学べる環境があるなら、沢山学びたい。知らない知識を得たり、知っている知識を活用するのは、楽しかった。

エリンシアと共に淑女教育を頑張ったのも、同じ理由だ。



「今日は早く終わったしエリンシア、久しぶりに百物語でもしましょうか?」


「そうね。少しだけやりましょうか。」


エリンシアとルキノが場所を学園の四阿に移そうとした時、ベルンが声をかけて来た。


「百物語って何ですか?」


「ちょっとした夏のお遊びですわ。」

ルキノが悪戯っぽく答えた。


ベルンが仲間に入りたくて、ウズウズしている。

ルキノはエリンシアと目配せをして、

「こちらへどうぞ。」

と、一緒に四阿へ行きベルンにルールを教えた。


「じゃあ私から始めます。」

ルキノは日本特有の怪談話しをした。


「何か、執念とか怨念が凄いわね。」

エリンシアは毎度本気で怖がってくれる。


次にエリンシアが語り出した。

吸血鬼をアレンジした様な、よくあるパターンの話だった。


最後はベルン。

「ある王家に反逆を企てた、貴族のお話です。」


ベルンはヒソヒソと外に聞かれてはならないという風に話始めた。ベルンの小さな声に、2人は顔を少し近づけて聞き入る。

ベルンはその華奢なイメージとは似つかない、おどろおどろしいストーリーを展開した。


「そして証拠が見つかり、反逆者一味が捕まりました。処刑が執行され首を落とされましたが、落とされた首から高笑いが聞こえてきました。」


エリンシアは「きゃっ」と小さな悲鳴を上げて青い顔をしている。

よほど怖かった様だ。


「どうでしたか?こんな感じで良かったですか?」

ニッコリと笑ったベルンがルキノに聞いてきたが、作り話とは思えない程にリアルな語り口調だった。


「十分です。ベルン殿下にこんな才能があったなんて吃驚です。」


「作り話なんですよね。本当に?」

エリンシアはベルンのリアルな語りに、震えながら聞いた。


「エリンシア嬢、顔色が悪いですね。やり過ぎましたか?私と一緒にストレッチでもしますか?」

ベルンが心配そうに聞いた。


「ベルン殿下、今のエリンシアにストレッチは効果ありません。顔色が優れないの意味が違いますから。」

ルキノが笑いを堪えながらベルンに言った。


「大丈夫ですベルン殿下。一晩寝れば忘れますから。」


ルキノは気丈に振る舞ったエリンシアを見て、余計に笑いが込み上げてくるのを、堪えるのが精一杯であった。


勿論、今日も3人程の令嬢が盗み聞きをしている。

ベルン殿下の貴族の処刑や王族の冷酷な振る舞いの話に肝を冷やしながら。


たがこの噂があらぬ方向に展開に発展するとは、思いもよらなかった。

私が思ったより噂というものは回りが早く、令嬢達はお喋り好きで、想像力が逞しかったのだ。


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