第42話 最後の駆け引き

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


42 最後の駆け引き



王家は3人の妃候補へ

妃教育の残り2ヶ月を自習期間とし領地で過ごす事。

邸宅からの外出は禁止。客を招く時は開示する事。

自習の期間何に取り組んだかのレポートを提出する事。を通達した。


当然王家の見張り役は、色々な所に潜んでいた。


この措置に一番に脱落したのはマリエッタだった。

10日を待たずして、変装をし邸宅の外に遊びに行っていた。

決していかがわしい遊びではない。ショッピングとカフェを楽しんだに過ぎない。


王家は内容をマリエッタの父、魔導士高位長に届けた。

知らせを聞いた魔導士高位長は、王家に辞退を申し入れマリエッタに一ヶ月の監禁を言い渡した。出入り口が一つしか無い質素な部屋の前には3人の騎士が交代で見張り、最小限の食事が差し入れられた。


実は魔導士高位長はそれ程怒ってはいない。だがこれくらいの罰は必要だ。王家に向けてのポーズとしても。

出世に興味の無い魔法オタクの父は、娘がシグルド殿下と一緒になりたいと言う我儘を聞き入れただけ。


「せっかくチャンスを与えたのに、自分で棒に振るとは自業自得だな。」

呆れた顔で溜息混じりに呟いた。



一方のシルヴィアは、慈善活動に尽力していた。


◯月◯日 ◯◯孤児院 10万リル

◯月◯日 ◯◯病院  10万リル

◯月◯日 ◯◯教会  10万リル


レポートには日付けや金額を記入した。空欄を埋めるべく。

可憐で心優しい、慈愛満ちた癒しの魔法を使う聖女。

そんな意識をより多くの人達に植え付けるための慈善活動だ。

そして週に一度は王都より、令息令嬢を招いてお茶会を催していた。王都の情報や世間の噂などを、さり気なく聞き出す。

豪華なお茶会に、手土産まで持ち帰らせて自分側に引き入れる為に「お父様、もっとお金が必要です。」と手紙を出す。


アートゥンヌ伯爵は当然の様にマリエッタとエリンシアに密偵を放っていた。

(マリエッタは早々に退場してくれたか・・・)

邸宅の中までは入れないが、出入りする人物は特定できる。

しかし王家の諜報員の目に止まらぬ様に行動しなければならない。


エリンシアの動向にも気を配っていたが、時折平民を3人程邸宅に招き質素なお茶会をしている。と言う情報しか入って来ない。

(何を考えている?)不安に駆られながらも、引き続きエリンシアを見張る様に命令した。


ここにきてアートゥンヌ伯爵家は、財政がきつくなってきている。パーティーやお茶会の度に必要となるシルヴィアのドレスに宝石、他の候補者を貶めるために使われた工作費。

リードン伯爵家に払った金貨は戻ってこない。

シルヴィアが王妃になれば、元は取れると思ってはいるのだが、先立つものを用意しなければならない。


アートゥンヌ伯爵は、宝石等は新しいものを買うたびに前のものを売り払い、古美術や高価な家具なども少しずつ切り売りしていた。


この2年で領地から徴収する税金も少しづつ増やした。

財力のある下級貴族からは賄賂を受け取り、高位貴族へ賄賂を渡した。

「光属性の癒しの魔法を使うシルヴィアが王妃になった暁には・・・。」

毎回同じ決め台詞を言いながら。


もう戻れない。何としてもシルヴィアに王妃になってもらわなければ、アートゥンヌ家の未来が全てシルヴィアにかかっている。


アートゥンヌ伯爵は夫人の実家に支援を頼む手配をした。

そのお金を持って一旦領地へ戻り、直接シルヴィアの状況をみて話し合うために。


「お父様、お金の用意は出来ましたか?」


「あぁ、持って来た。それより、こんなに使ってどうする?」


「エリンシアに対抗するためには、やり過ぎて悪い事ではありません。」


「しかしエリンシア嬢は、平民ばかりとお茶会をしているらしい。密偵の報告だ間違いない。」


「何を企んでいるの・・・?お父様、手紙を書くわ。届けて頂戴。」


手紙の内容は、アリベルへエリンシアの邸宅に行き、様子を探って来るようにと記したものだった。




「突然の訪問をお許し下さい。」

エリンシアを訪ねたアリベルは客間に通された。


「もう直ぐお茶会も終わります。少しお待ち下さい。」

リーナはお茶会をいれて、ここで待つ様にと言った。

暫くすると


「お待たせしてごめんなさい。マリベル様、どう言った用件で?」

エリンシアがアリベルの向かいに座り、リーナにお茶とお菓子を持って来る様にと頼んだ。


「エリンシア様、シルヴィア様に探って来る様に申しつかってお邪魔しました。」

アリベルはそのままを口にした。


「そう・・・何かお土産が必要ですね。邸宅に招いたのは平民を10人程でしょうか。ルキノは10日前に来て翌日には王都へ帰りました。研究が残っている様です。他に何か?」


「いえ、そのままをシルヴィア様に報告させて頂きます。宜しいですか?」


「ええ嘘は言っておりません。お帰りの道中お気をつけて。」

エリンシアはそう言うとリーナを呼び

「馬車まで案内して差し上げて。」と言った。


リーナがアリベルを馬車まで送る途中、そっと耳打ちをした。

「エリンシア様の弱点は虫です。シルヴィア様へのお土産になさいませ。」

アリベルは無表情で邸宅を去り、リーナは何事も無かった様に微笑みながらマリベルを見送った。



王妃教育期間も残り僅か。王宮へレポートを提出し3日後の卒業パーティーで結果が出る。


卒業パーティーの日にエリンシアは侯爵を継ぐ。

エリンシアが断罪される結果を変えられなかったら・・・。前回は令嬢であったが今回はアザルトル侯爵として裁かれる。最悪の場合、一族連座、ルキノとリーナも…。

エリンシアは不安と戦っていた。

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