第28話 戦争終結

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


28 戦争終結



シルヴィアは焦っていた。

今夜は戦争終結を祝って、祝賀パーティーが催される。

前回行われた凱旋祝賀パーティーには、様々な貴族が招待されていた。王都に住まう平民にもワインが振る舞われた。


しかし今回の戦争終結パーティーでは、高位貴族と功労者は貴賓の間で下位貴族は一般の間でのパーティーとなっていた。

高位貴族は下位貴族のホールに顔を出す事が出来るが、下位貴族が高位貴族のホールに顔を出すことは、不敬とみなされる。


シルヴィアは功労者として貴賓の間に招待されているが、父であるアートゥンヌ伯爵は一般の間のホールに招待されていた。

それだけでも腹立たしいのだが、当日だと言うのにシグルド殿下からパートナーの申し込みが来ていない。


「今は忙しいのは分かるけど、ドレスかアクセサリーくらいは贈って来るのが当然じゃない?パートナーの申し込みも、使いの者でも寄越せば良いのに。」


アートゥンヌ伯爵も頷いた。

「功労者の父である私が一般の間に招待状が届くのもおかしな話しだ。王家は私達を蔑ろにされ過ぎている。」


不満爆発の2人ではあったが、王家に直接文句を言える筈も無く、シルヴィアはドレスアップに時間をかけて美しい姿で会場に行った。ホールにシグルド殿下の姿は見えない。

(きっとまだ控えの間でいるんだわ。)


シルヴィアはシグルドを探して控えの間の方へ歩を進めた。

1番奥の部屋から、セルネオ様が出て来た。

多分あそこに居るんだわ。

シルヴィアは身を隠し、廊下に飾ってあった花瓶を割り派手に音をだして、護衛騎士がそちらに行く様に仕向けた。


護衛騎士が居なくなった部屋の扉を開けてシルヴィアは「シグルド様。」と声を出した。

しかしそこに居たのは、王陛下と王妃殿下であった。


「何者だ!」王陛下の侍従者が声を荒げる。


「王陛下の控えの間に無断で入るとは・・・。」

侍従者は怒りに声を振るわせた。陛下はあからさまに眉を顰めているが、王妃殿下が優しい声でそれを制した。


「シルヴィア様、部屋をお間違えですよ。きっと迷子になってしまったのでしょう。護衛騎士に案内させますね。」


「失礼致しました、王妃殿下。有難うございます。」

シルヴィアはカーテシーをして、護衛騎士にホールに案内された。取り敢えず渋々にホールへ進んだ。


ほんの僅かな時を挟んで、楽団が音楽を鳴らし始めた。

両陛下の入場の合図だ。

まず両陛下が入場された。高位貴族達は、玉座までの花道を作り礼をとる。数段高い位置にある玉座に座ると手を上げた。


続いて現れたのが、シグルド殿下とエリンシアであった。

シグルド殿下にエスコートされている、エリンシアの美しさに、誰もが溜息を漏らした。


その次に現れたのは、ベルン殿下とアレク卿。

手を振りながらシグルドとエリンシアの横に並んだ。


そして最後の登場、セルネオとルキノだ。今回は高位院生と言う立場も手伝って、色々な評判もたっている注目の2人だ。


全員が出揃って一列に並ぶと、会場から拍手が巻き起こった。

そしてゆっくりと音楽が流れ始めた。


シグルドとエリンシアは中央へ進み出た。

ファーストダンスの始まりだ。

2人のダンスは息を飲む程の美しさだった。完璧なステップに完璧なエスコート。そして2人の美しさに注目を浴びる中、ファーストダンスは終了した。


そこで王陛下は、ゆっくりと歩み出て来た。


「まず、シグルドとそれを支えてくれた5人の英雄を紹介しよう。」


「副将として支えたベルン。」

「はっ、勿体なきお言葉で御座います。」


「次に敵戦に単騎で突撃し、勝利に導いたアレク卿。」

「辺境伯を継ぐ者として、当たり前の事をしたまでです。」


「それから、セルネオとアザルトル侯爵家のルキノ。研究により、魔力石なるものを活用した様だな。ひき続いて研究の方も頼むぞ。」


「はい。心得まして御座います。」


「そして、同じくアザルトル侯爵家のエリンシア。そなたは、ルキノをアザルトル家へ迎え後見し、研究者として育てた。またベルンを補佐し多大な寄付をしてくれ、戦場に救援物資や薬医者などの手配。騎士達の携帯食など、多岐に渡って辺境伯の民達を守ってくれた。こたびの采配は見事なものであった。」


「勿体なきお言葉。ですがとても嬉しく思います。」


最初エリンシアは勲章を辞退しようと思っていたが、国王陛下にシグルドやアレクそして何よりベルンが心置きなく勲章を受け取れるようにエリンシアの魔力の事を伏せた上で勲章を受け取るように指示されての事であった。

英雄5人には勲章メダルが授与された。

授与式も無事終わり、再びパーティーを再開すべく音楽が流れ出した。


顔を顰めて睨んでいたシルヴィアは、突然行動に移す。

2曲目のダンスはシグルド様と踊る。

そう決意して、シグルド様の方を歩いて行くと、


シグルドは、王妃殿下の手を引いてフロアの中央へきた。

王妃殿下は微笑みながら、小さな声でシグルドと話をしている様子だ。


セルネオ様とルキノ様もホールに出て来た。

他の貴族達も、ぞろぞろとパートナーの手を取って出て来た。


流石に王妃殿下のエスコートを邪魔する訳にはいかない。

シルヴィアは一旦下がって様子を見る事にした。


2曲目のダンスはゆっくりとした曲で短めに終わった。

シグルドは王妃殿下を玉座まで送り、セルネオ達と合流すると

何やら微笑みながら談笑をしている。


次のダンス曲こそは、シグルド殿下と踊る。

シルヴィアは、ずっとシグルドを視線で追っていた。


シグルドと5人の英雄は、高位貴族の招待客に囲まれて褒め囃されていた。私もあの輪の中に居るべきなのに・・・。


シルヴィアは自分もシグルドの隣に並ぼうと、歩き出した時に

3曲目のダンス曲の演奏が始まった。


シグルドはルキノの手を、そしてエリンシアの手をアレクが取っている。


シルヴィアは確信した。仕組まれている・・・。


(エリンシアの企みに違いないわ。アレク様まで誑かして。

きっとそのお陰で、メダルを頂いたのね。本当なら私が・・・。)


シルヴィアはエリンシアを睨みつけた。

(エリンシアは何かの策略をもって私を蹴落としたのね。仕返しの方法はないかしら・・・。シグルド様にベルン殿下、セルネオ様にアレク卿まで。あの2人はどこまであざといの!)


自分の立ち位置をまんまと取られてしまった。

(許さないわ。今に見てなさい。)

シルヴィアの黒い瞳が、怒りに揺れていた。





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