第27話 戦争 2

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


27 戦争 2



シグルドがエリンシアを抱き起こす。

「ルキノ嬢、セルネオに連絡を。」


「はい。」

ルキノは魔力石を握りしめて、セルネオに呼びかけた。


「セルネオ様、エリンシアは無事です。もう少し耐えて下さい。」


「分かった。頼む。」

そう言って、セルネオはアレクを前線から引き戻した。

魔力暴走により自軍を巻き込む訳にはいかないと、敵陣に突っ込んで行ったアレクだが、これ以上はアレクの身が危険だと判断した。



「エリンシア、エリンシア!」

ルキノの呼び声に、エリンシアがゆっくり目を開ける。

心配そうに覗き込むルキノの横には、シグルドの顔があった。


「シグルド殿下・・・。」

ぼーっとしたエリンシアにルキノが手を翳した。

段々と意識がはっきりとしてくる。

エリンシアはシグルドの腕の中にいる事に気付いた。


「申し訳ありません。」

エリンシアは急いで身体を起こした。


ルキノの魔力コントロールのお陰で、次第に落ち着いたエリンシアに、ルキノは泣きながら抱きついた。

その様子を見て少し心地の付いたシグルドが


「私は戦場に戻ります。兄上、2人をお願いします。」

そう言いながら、エリンシアの髪を撫でた。


戦場へと戻るシグルドの背中を見送りながら、エリンシアがベルンに言った。


「敵の後方に位置する主力部隊に攻撃を仕掛けましょう。」


「ダメです。危険です。」

ベルンがエリンシアを止めようと手を伸ばしたが、ルキノがその手を掴んで首を振った。


「エリンシア、私も行くわ。」

ルキノもエリンシアと同様で、額から汗を流し血を滲ませ苦痛に顔を顰めるシグルド殿下の様子が頭から離れない。


セルネオ様もアレク様も前線で戦っている。

これは戦争なのだ。本当は誰も傷つけたく無い、傷ついて欲しくない。だが綺麗事では片付かない。この手を汚しても守りたい人達がいるのだ。


「ベルン殿下は、町へ戻り指揮をとって下さい。負傷者をお願いします。」


そう言い残してエリンシアとルキノは立ち上がった。

2人を止められない事を理解したベルンは、自分の護衛騎士と少数の隠密部隊を預けて町へと戻った。


町では負傷者が、所狭しと横たわっている。

アザルトル家侍女のリーナが大活躍をしていた。

エリンシアが事前に準備していた、毛布や携帯食を万遍なく行き渡らせている。忙しさのあまり小走りになっているリーナをベルンが捕まえて、事情を説明する。


リーナが乾いた笑い声を漏らした。

「私でも止められませんでしたよ。エリンシア様とルキノ様ですもの。私は私に出来る事に集中します。」

そう言って負傷者の中に姿を消した。


(私に出来る事・・・。)

ベルンは、自警団の一部連れて野営地に向かった。

戦場と町の中間地点、そこで前線の負傷者を受け入れる体制を整えながら、エリンシアとルキノの帰りを待つ事にした。


エリンシア達が隠密に敵部隊に向かって行って4日が経った。

セルネオの魔力石に連絡が入る。

「セルネオ様、部隊を一度後退させて下さい。」


「ルキノ嬢、無事か?」


「はい、何とか。今から敵本陣に雷を降らせます。戦場がパニックにならない様に統制をお願いします。」


「分かった。無理はしないでくれ。」


「はい・・・。では、後程。」


ルキノは通信を切りエリンシアと山頂から戦場を見渡した。

軍旗の色などを再度確認して、エリンシアに手を翳した。

「エリンシア、アレク様に送る魔力を残しておいてね。」


「分かっているわ。」


微笑ながらもエリンシアの顔が引き攣る。

(殺傷能力は低くても良い。なるべく広範囲に)

心の中で呟きを反芻しながら手のひらに集中する。

そして敵陣の中枢区に雷を降らせた。


止むことのない轟の中で、ノースルナ国の軍隊の陣形が崩れて行く。

雷鳴の合図でシグルドは鶴翼の陣形をとり、ゆっくりと包囲していった。


「エリンシア、もういい。もう良いよの。」


ルキノはエリンシアの上げた手を掴んでそっと下ろした。

ふらふらと自分の身体を支える事さえままならないエリンシアが首を振る。


「まだよ。」

と言って最後の力を振り絞って、アレクの魔力石に気を失うまで魔力を送り続けた。


ノースルナ国を完全に包囲したシグルドは、

「投降する者は武器を捨てろ。」と言った。

隣にはアレクが剣先から雷を漲らせている。

トドメを刺すには十分な威圧感に、殆どの兵士は武器を置いた。


こうして後に『最終決戦』と呼ばれる84日間にも及ぶ戦争に、幕が引かれた。


主犯であるノースルナの第1王子達の捕縛に成功した。

そこには同盟国の軍の幹部もいた。


「セルネオ、エリンシア嬢を探せ。」


「はい。」

セルネオは魔力石でルキノに呼びかけた。


「セルネオ様・・・。エリンシアが気を失っていて、今は動けません。先にシグルド殿下達と凱旋帰還を行って下さい。私達は後からゆっくりと帰りますから。」


「そんな訳にはいかないだろう。」


「ですが、国民の不安を取り除き国内を安定させる事が急務です。ベルン殿下が護衛騎士を付けてくれていますから、御安心下さい。」


ルキノの言う事は尤もで、それしか方法がないのも確かだ。

セルネオは内密に隠密部隊に、エリンシアと合流する様にと指示を出して自分達は戦場を後にした。


辺境伯領地の町に帰還し、一同休憩をとる。


「アレク様、ご活躍おめでとうございます。」


「シグルド殿下、完全勝利おめでとうございます。」


勝利した騎士達が雄叫びを上げる。辺境の民達は、大勢詰め掛けて来て勝利を祝った。

手を振りながら民衆の作った花道を手を振りながら闊歩する。

シグルドとアレクは、複雑な気持ちで笑顔を作った。


王都まで2つの領地を通過せねばならない。

その度に、祝福のパレードが催され民衆の歓喜に応える。


最後の領地でパレードを行っている時、小さな男の子が人混みに押されて転んだ。

シルヴィアがここぞとばかりに駆け寄った。

男の子の膝に手を翳し微笑みを向ける。膝の擦り傷は、ゆっくりと癒えていった。


「ありがとう。綺麗なお姉さん。」

男の子が、満面に笑みが零しながら花束を差し出す。


シルヴィアは花束を受け取りながら、満足そうに頷きながら微笑んで見せた。


民衆達が騒ぎ出す。

「聖女様だ。聖女様が、助けて下さった。」


「聖女様、万歳。」


「シグルド殿下と聖女様に栄光あれ。」


民衆達の歓喜の盛り上がりに水を差す事も出来ず、シグルドは先を急ぐように促す事しか出来なかった。





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