第24話 アレク様の助言
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
24 アレク様の助言
お茶会での噂も絶えない中、エリンシアと学園内を散歩していた。
ヒソヒソと話す声が、耳に入ってくる。
そんな中、令嬢達の輪を裂きシルヴィア様が近寄って来た。
「ルキノ様。この度はご婚約、誠におめでとう御座います。」
あなたからその言葉を聞いたのは、2度目だよ。
シルヴィアは仲の良い友達の様に、近づいて来た。
「ありがとうございます。」
私は、お礼を言って立ち去ろうとしたが、シルヴィア様とその取り巻きが行く道を塞ぐ。
何も話す事はないのだが、シグルド殿下に取りなして欲しいのだろう。
イライラしながら、躱そうとするとベルン殿下の使いから連絡が届いた。アレク様が、時間を取って下さるそうだ。
今日はシグルド殿下とセルネオ様も一緒にいらっしゃる様だ。エリンシアにもお呼び出しがかかった。
私達が急いで研究棟へ足を運ぼうとした時、
「お待ち下さい。」
シルヴィアが止めようとエリンシアの手を掴んだ時、バチッという音が聞こえた。静電気かな?と思っていると
「痛いっ!」シルヴィアがよろめく。
「エリンシア様、何をなさるのですか?何時も何時も私の事を苛めて、楽しいですか?」
皆に聞こえるように、大きな声で喚く。
だがエリンシアには、何の事だか分からない様だった。
「ベルン殿下に呼ばれています。セルネオ様の『婚・約・者』であるルキノと、ルキノの『後・見・人』である私が。邪魔をするおつもりですか?」
エリンシアの言葉に息を飲み、やっと後ろへ下がった。
それにしてもさっきの静電気、痛かっただろうな。私も冬になると、扉のノブを触る度に襲われたよ。
ついては(何か対策を考えておかねばなるまい。)と思った。
急足で研究棟に着くと、ベルン殿下の出迎えてくれていた。「やっほ!」と挨拶を交わし、案内を受ける。
心なしか、ベルン殿下の機嫌が宜しくない様に見えた。
いつもの屈託の無い笑顔とは、違う様な・・・?
しかし直ぐにシグルド殿下の待つサロンに辿り着いてしまったので、言葉を飲んだ。
「御機嫌麗しく存じます。」
エリンシアが淑女の礼をとり、私もそれに習う。
「今日は呼び立てて済まない。内密に話したい事がある。」
シグルド殿下の表情が緊張の面持ちを見せる。
「君達も知っていると思うが、改めて紹介しよう。辺境の地を守護する者、アレク卿だ。」
「はい存じております。御機嫌麗しく存じます。アレク様。」
「はい。エリンシア嬢、ルキノ嬢。」
アレクはぎこちなく微笑んだ。
「早速本題に入るが、ルキノ嬢がアレクに相談があると聞いたが?」
「はい。」
「先に私の本題に入っても良いか?」
「ええ、構いません。」
「結論から先に言えば・・・ノースルナ国の不穏な動きを辺境伯が報告してきた。どうやら、隣国をも巻き込んで再戦を挑んでくるつもりらしい。」
シグルドは忌々しげに、言葉を吐いた。
「捕虜として捉えていた、第2王子と将軍の命を諦めたらしい。」
「殿下、ここからは私が。」
アレク卿が、口を挟んだ。
「先の戦を勝利に導いたのは、あなたですね?エリンシア嬢。この間の茶会で気付きました。私は魔力の関知が得意でしてね。」
「ええ。ベルン殿下とルキノの力をお借りしての事ですが。」
「ちょっ、ちょっと待って下さい。」
ルキノが慌てて言った。
「またエリンシアを戦争に巻き込むつもりですか?」
アレクはルキノを手で制した。
「エリンシア嬢、ルキノ嬢。取引をしませんか?」
「はっ?」
「ルキノ嬢の相談とは、エリンシア嬢の魔力に関する事ではないですか?どの様なお話しで?」
ルキノは一旦エリンシアの方に目線を向けた。
エリンシアが頷く。
「エリンシアの魔力を、何処かに逃せないかと思いまして。
出来れば溜める事が出来れば良いのですが、アレク様に魔法具の相談をしようと思っていました。」
「はい。なので両方に良い話を持って来ました。」
そう言ってアレクは小さな水晶の様な石を取り出した。
「この魔法具にエリンシア様の魔力を流し込みます。その水晶石の魔力が、私の水晶石に転送されます。私はその水晶石を埋め込んだ剣でノースルナ国の防衛戦に挑みます。どうでしょう?」
アレクの提案は、そのままルキノの心配事を解決してくれるものだった。しかし、懸念がない訳ではない。
「今直ぐには、判断しかねます。もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」
ルキノはエリンシアと顔を合わせて頷いた。
「セルネオ様、この話は以前からセルネオ様が検討していた作戦の延長上にあると思うのですが?」
ルキノはセルネオに顔を向けた。
「あぁそうだ。ルキノ嬢が銅線を使ってはどうかと言っていたな。見積もりは出来ているが、実用までには至っていない。
研究の方は一旦置いて、この方法で進めてみないか?希少な水晶石は、辺境伯の領地にある鉱山でしか採れない物をアレク卿が用意してくれる。」
「分かりました、セルネオさま。水晶石を使った研究を優先させましょう。」
「だだ、問題が1つある。」
セルネオはエリンシアの顔をチラリとみて、ルキノの方へ向き直った。
「この方法が上手くいけば、研究者であるルキノ嬢と私の手柄になる。そして戦功は、アレク卿のものに・・・。またしても、エリンシア嬢の手柄を横取りする形になってしまうのだ。」
「私は、それで構いません。ですが、シグルド殿下のお考えをお聞かせ願えたらと思います。」
エリンシアは微笑みながらシグルドの目を真っ直ぐに見た。
「エリンシア嬢。貴女の魔力を皆に知らしめれば、要らぬ嫉妬を受け御身も危険に晒される。今は堪えて欲しい。」
シグルド殿下の表情に、悪心を抱く感情は読み取れない。
心からエリンシアの心配をし、最善の策を立てているのだろうという事が分かる。
エリンシアはシグルド殿下に全て託す事に決めた。
「はい、分かりました。私は王国の・・・シグルド殿下の役に立てるのであれば、戦功などいりません。魔力を公開するのは、侯爵家を継いでからで良いと思います。」
「エリンシア嬢、感謝する。」
シグルド殿下の心からの感謝の言葉だけで、エリンシアは満足だった。
「辺境からの知らせによりますと、開戦までまだ時間があります。水晶石や他の魔法具などを辺境から持って来る様に指示を出しております。作戦会議には、この研究棟を使っても宜しいのでしょうか?」
「秘密が漏れないように、研究棟の一部を閉鎖する。ここで皆の案を出し合って打開策を見出したい。宜しく頼む。」
シグルド殿下が頭を下げた。
「王族が簡単に頭を下げてはなりません。」
エリンシアが慌ててシグルドに言った。
「王族である前に私達は仲間だ。そうですよね、兄上。」
「あぁ、私達は力を合わせる事が必要だ。忌憚無く意見を発揮出来るようにする為にも、この場では王族や貴族のマナーは、省略しましょう。」
「有難う御座います。それとアレク様にもう一つお願いが・・・。」
「私に出来る事があるのであれば。」
「魔力を抑える魔法具、出来れば指輪タイプのものが欲しいのですが。」
「あぁ、それならば辺境から取り寄せた荷物の中にあると思う。だが、魔力を抑えるとは?」
「色々と考えている事がございますので。」
ルキノはニッコリと笑って、考えを巡らせた。
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