第23話 王妃のお茶会 2
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
23 王妃のお茶会 2
庭園の薔薇を愛でながら、アレク様と歓談を交えながら魔法のコントロールについて、質問をした。
「では魔力が尽きる程の放出をしてしまった場合は?」
「気を失いますので、気を付けた方が宜しいですね。」
「まぁ怖い。アレク様は色々と、お詳しいですわね。」
少し年上のアレク様は、大人余裕で色々と教えて下さったのだが、この場はお見合いパーティーだ。
いつまでも引き留める訳にはいかない。と思っていると
「エリンシア嬢、ルキノ嬢。」
ベルン殿下が子犬の様に駆けてきた。
「やっほ!ベルン殿下。」
「やっほ!今日の装いは一段と、その・・・目立っているね。」
(分ります、ベルン殿下。褒める言葉が見つからなかったのね。)
エリンシアは内心溜息をついた。
アレク様が会話に付いていけず、暫しの無言になっていると
「あっ、アレク卿失礼しました。」
ベルンは改めてアレクの方へ向き直った。
「いえ、ベルン殿下。皆さん親しい間柄のようで、私は失礼します。」
アレクが立ち去ろうとした時
「あっ、待って下さい。」
ルキノが引き留めた。
「ベルン殿下。アレク様は、膨大な魔力に長けているとお聞きしました。ご相談したい事が有るのですが。」
ベルンはルキノの内心を読み取り
「アレク卿、王都にはいつまで滞在の予定ですか?近く内密に時間をとってもらいたいのですが。」
「分かりました。父と相談の上、ご連絡致します。」
ベルン殿下とアレク様は礼をとって、去って行った。
私達から離れた途端に、令嬢達に囲まれている。
ベルン殿下の人気は、急上昇を続けている。
アレク様も大変モテているようだ。
いまいち人気のヘイロン様が声を掛けて来られたが、やんわりとそれを断り人混みを交わして、私とエリンシアは噴水前の長椅子に場所を移し、遠巻きに集団見合いの様子を眺めていた。
ヘイロン様はガックリと肩を落とし、別の令嬢に声を掛けに行った。
去年学園を卒業したプリシラ様が、ベルン殿下とアレク様の取り巻きに加わった様だ。
シルヴィア様は相変わらず、シグルド殿下に纏わりついている。マリエッタ様とバチバチのご様子だ。
「エリンシアは参加しなくて良いの?」
「嫌よ。あんなみっともない姿を晒すのは。」
そう、客観的に見てみると良く分かるのだが、令嬢達が狙いを定めて男達に媚びを売る姿は、浅ましい。
でもこの姿がこの世界の常なのだ。
弱肉強食、強引にでも高位貴族との婚姻を取り付けた令嬢が勝ち組になるのだ。
「ルキノはどうするの?」
「私は自然の流れに身を任せるわ。」
一対のお人形の様に、仲良く並んで座っている2人は表情を崩さずに令嬢らしくない乾いた会話をしていた。
そんな所へセルネオ様が両手で令嬢達を制止しながら、此方に向かって来るのが見えた。
(厄介事に巻き込まれそうな予感がするわ。)
エリンシアが心の中で思ったが、案の定。
セルネオ様はルキノの所へ真っ直ぐに向かって来て、いきなり手を取り跪いた。
「なっ、何?」
ルキノが動揺を隠し切れないでいると
少し大仰な態度で
「水面下で婚約を進めている間柄では有りませんか。」
と訳の分からない事を言っている。
もう片方の手でエリンシアの手を取り
「後見人様も御一緒に。」
と言いながら、両手にゴスロリ双子を携えて人混みから抜け出した。
「セルネオ様、私達をダシに使って逃げ出しましたね。」
エリンシアが少し睨みながらセルネオ様に詰め寄っている。
「セルネオ様の声、令嬢達の耳にも入ってましたわよ。どうなさるおつもりですか?」
「はっはっ、別に構わない。」
「私達は構います。」
「そうですか・・・。ではルキノ嬢。私と婚約しましょうか。」
セルネオの言葉に、ルキノはパチクリと目を瞬いた。
エリンシアが穿った目線をセルネオ様に向ける。
そんな中でセルネオ様のプレゼンがいきなり始まった。
「取り敢えずは社交界に向けて、表面上は婚約者。その方が都合が良いだろう?」
えっ?何の都合だろうか?
「私は王族に次ぐ高位貴族、筆頭公爵家の嫡男です。そしてシグルド殿下の最側近でもあります。その私とルキノ嬢が婚約をする事により、エリンシア嬢とシグルド殿下の距離も自然と近くなるのでは?」
駄目だ、エリンシアが唆されている。
「バリデンの様な輩がいつ現れるか分からない。私とシグルド殿下、エリンシア嬢でルキノ嬢を守りましょう。」
私に甘いエリンシアがコクコクと頷き始めてしまった。
「私達でこの王国を盛り立てるのです。如何ですか?」
(それはエリンシアの叶わぬ夢のはず・・・。)
あーっ!遂にエリンシアが落ちた。
エリンシアはセルネオ様の両手を取り、感無量の顔で
「実はルキノも、セルネオ様の事を好ましいと言っていました。」
エリンシアに売られてしまった。
騒がしい私達を見つけた令嬢達が、段々と集まって来ている。
「では、婚約誓約書を交わしましょう。」
「ええ。分かりました。」
私には言葉を挟む隙さえ与えてくれない。
パクパクと口を動かすだけで中々話に入っていけない私だったが、勇気をもって小さな声で言った。
「私とは身分の差が・・・。」
「何を言っているのルキノ。貴女はアルザトル侯爵家からガザルディア公爵家に嫁ぐのですよ。胸を張りなさい。」
エリンシア、声が大きい。
さっきはまだ婚約だったのに、もう嫁ぐ話になってるよ。駄目だ、エリンシアはまだ子供だ。セルネオ様に乗せられて昂揚している。腹黒セルネオ様は、何を企んでいるのか。
しかし私には2人を説得する術もなく、顔を赤く染めて俯く事しか出来なかった。
どんどんと人が集まって来る。
私達を取り巻く野次馬の最後尾には、宰相であるガザルディア公爵の姿もあった。
この大衆演劇の様な三文芝居を早く終わらせて欲しい。
セルネオ様がお目当ての令嬢達の視線が、私に突き刺さる。居たたまれない。
この場を早く抜け出したい一心で「はい。」と答えた。
セルネオ様は悪い顔で笑っている。
こんなに恥ずかしい状況は、転生前の人生を含めても初めてだった。
でも、嫌じゃない自分が居ることにも気が付いていた
「ありがとう。マイ・レディ。」
セルネオ様は私の手を取って、甲に口付けを落とした。
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