第21話 婚約破棄 2
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
21 婚約破棄 2
作戦失敗だ。シルヴィア嬢に相談しなくては。
バリデンは急いでシルヴィアのもとに走った。
シルヴィアはしばらく考えた後、何か閃いた様に言った。
「バリデン様、もうルキノの事は諦めて下さい。」
「そうだな、敵がベルン殿下にセルネオ様では、分が悪い。」
「では、一糸報いるために、公開婚約破棄をしてはいかが?ルキノの評判を地の底に叩き落としてやるのです。お膳立ては致しますわよ。」
「そうだな。私もやられたままでは、気が納まらない。」
「では、盛大な茶会をセッティング致します。沢山の招待客の前で、恥を掻かせてやりなさいな。」
シルヴィアは、バリデンがどうなろうと、知った事ではない。
当初のから目標、ルキノをエリンシアから引き離す。
そのために行動をしていた。
上手く行けば、エリンシアの慌てふためく様子が見れる。
もしくは、ルキノを見捨てるか。
どちらにしても見ものであるのは間違いない。
社交界の噂の怖さを、思い知るがいいわ。
2週間後、シルヴィアからお茶の招待状が送られて来た
このお茶会で、徹底的にルキノを潰すつもりであった。
お茶会当日、ルキノは上機嫌であった。やっとバリデン様から解放される。
「ご招待ありがとう御座います。」
エリンシアは慇懃無礼とも取れる態度で挨拶をした。
「ようこそおいで下さいました。」
と、エリンシアと握手を交わそうと手を出そうとして
「痛っ。」と手を引っ込めた。
エリンシアの後、ルキノは満面の笑みで、シルヴィアに挨拶をした。
流石のヒロイン、戦功の聖女様。お茶会に招かれている面々には、目を見張るものがあった。
今日のメンバーの誰しもが、ヒロインの味方であろう。
「エリンシア様、ルキノ様。今日はようこそおいで下さいました。」
シルヴィアも上機嫌である。
大勢の令息令嬢達が、談笑を楽しみ駆け引きを繰り返す。
お茶会も中盤に進んだところで、バリデンが急に大きな声を上げた。
「皆様の前で、お知らせしたい事があります。私リードン伯爵家のバリデンは、アルトン子爵令嬢のルキノ様と婚約破棄を発表致します。」
こんな社交界の貴族が揃っている場所での婚約破棄など、令嬢の社交地位は失われたも同然だ。
ヒソヒソと小さな声で、皆の噂が始まった。
シルヴィアは扇子で隠した口が弧を描く。
「婚約破棄?」(王家の承認も得ていないのに?)
「了承致しました。」
ルキノは落ち着いて、バイデンに言った。
心の中でガッツポーズをしながら、エリンシアの方に向き合って談笑を再会した。
承知したと言っているのに、バリデンはまだ続けるつもりらしい。
「まずお前は、時間がない、忙しいと、婚約者である私を蔑ろにした。そして、忙しいと言いながらセルネオ様やベルン殿下と親しく接している。これは不貞行為に他なりません。」
不貞行為が噂になれば、もう良い縁談は結ばれないだろう。
皆のヒソヒソとした噂話が、ザワザワに変わってきた。
シルヴィアの思い通りに事が進んでいる。
「承知したと申しましたが?」
ルキノが僅かに眉を上げた。
「それだけ?不貞行為をした者が、申し開きもしないつもりか!!」
バリデンが段々と興奮した様で声を荒げてくる。
「私に体が2つあれば良かったのですが。まず私はアザルトル侯爵家にお仕えする身であります。エリンシア様のお世話をしなくてはなりません。次に私は学院生であります。研究を第一とし、日夜励まなければなりません。時間がないのは、その為でございます。そしてセルネオ様は共同研究者、ベルン殿下は研究支援者です。殿下やセルネオ様を貶める発言はお控え下さい。」
ルキノは面倒臭そうに、マナーギリギリの不快感を見せながら小さめの声で言った。
周りの招待客達は、どちらの言い分が正しいのか、どちらに味方するのが良いか迷った顔をしている。
「裁判じゃ無いのですから、もう宜しいではありませんか?」
エリンシアが冷めた声でこの場を納めようとしたのだが・・・。
「ですが、皆様は真実を知りたがってますわ。」
シルヴィアは場を盛り上げたい様で回りを見回し観客を煽る様に言った。
「そうですか。こんな不愉快なお茶会は初めてです。好きに噂をすると宜しいわ。ルキノ、帰りましょう。」
「そうですね。行きましょうエリンシア。」
2人は立ち上がりカーテシーをして、その場を去った。
それに続いて何人かの令嬢達もこの場を後にした。
エリンシアに付く事にしたのか、シルヴィアに見切りをつけたのか。
予想に反して閑散としたお茶会になってしまい、シルヴィアは悔しさに顔を顰めた。しかし招待主として場を納めなければならなかった。
まだ興奮冷めやらぬバリデンを尻目に
「本日はこの様な形になりまして、とても残念に思います。今日はお開きに致しましょう。」
「そうですわね。ではご機嫌様。」
などと各自ボソボソと挨拶の言葉を述べて、そそくさと帰って行った。
◇◇◇ ◇◇◇
お茶会より数日後、リードン伯爵とバリデン。アルトン子爵とルキノ。そしてエリンシアが王宮から呼び出された。
そこには、シグルド殿下、ベルン殿下、セルネオ様も王陛下と同席していた。
「リードン家とアルトン家は随分と社交界を騒がせている様だな。裁判にするか、ここで納めるか?」
陛下の重い声が響く様に聞こえた。
もちろん両家とも裁判にする気はない。婚姻のトラブルなど、貴族の恥である。裁判するという事は公表するという事だ。
「リードン家は悪くありません。アルトン子爵に騙されたのです。支度金だけ受け取って、息子は蔑ろにされたのです。」
「ふむ。それは災難だったな。では、アントン子爵に支度金をリードン家に返金する様に命じる。」
王陛下の言葉に、リードン伯爵はニマリと笑いアルトン子爵の顔は青ざめる。
「ところで、バリデンはルキノ嬢に暴力を振るったそうだな?息子に刑罰を与えるか、慰謝料を払うかどちらが良い?」
初めて耳にした情報に、リードン伯爵はバリデンを睨み耳を赤らめたが、渋々口を開いた。
「慰謝料をお支払い致します。」
「ふむ。では、支度金を慰謝料としてルキノ嬢に支払うように。」
今度は逆の立場だ。リードン伯爵が顔を顰め、アルトン子爵が顔を綻ばせている。
「王陛下に申し上げます。今回の婚約は王家の承認を得ていなかったものと存じます。婚約破棄ではなく、白紙にして頂きたく思います。またこの様な運になってしまったのは、アルトン子爵が、欲のためにルキノの同意無しに話を進めたからで、アルトン子爵がアザルトル侯爵家を侮った行為でもあります。ルキノを子爵家から除籍し、アザルトル侯爵家の養子としたいと思いますが、許可願えますでしょうか?」
「ルキノ嬢は、16歳でもう成人である。ルキノ嬢が同意するのであれば、許可しよう。」
ここでアルトン子爵の顔がもう一回青ざめる。慰謝料は自分の元へ戻らず、全てルキノが持って行ってしまった。
「ありがとうございます。」
「それではこれで各々遺恨を残さぬ様に、精進に励めよ。」
王陛下の采配はこれで終わった。
結局シルヴィアの用意した金貨は、リードン家からアルトン家
そしてアルトン家からリードン家、最後にルキノの慰謝料になった。両家には金貨1枚入らず、シルヴィアは用立てた金貨を失いバリデンは信頼と面目を失い、アルトン子爵は金蔓(ルキノ)を失った。
エリンシアとルキノは、作戦通りに事が進み笑みが溢れた。
(こんなに上手くいくなんて・・・。そろそろ来ると思ってたわ。公開婚約破棄!作者様もテンプレがお好きなんだから。)
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