第20話 婚約破棄

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


20 婚約破棄


エリンシアにはもう1つ策があった。


「セルネオ様に協力を願いたいのですが、ルキノの後見人である私が、アザルトル侯爵家が水面下でルキノの縁談に動いていた。事にする。セルネオ様、誰か紹介して下さいますか?話の分かる人を。」

 

セルネオは再び頷く。


「この2つの理由を王陛下へ進言すれば、王家の承認は止められませんか?」


「分かった。シグルド殿下に相談する。水面下の縁談の相手は私が引き受けよう。」


「えっ?」

完璧な淑女であるエリンシアの顔が、ほんの一瞬だけ間抜けな顔になる。


「エリンシア嬢から私に打診があった事にし、私も色良い返事を仄めかした事にする。ルキノ嬢は知らなかった事にすれば良い。」


ありがたい。ありがたい申し出だが、唐突の事でエリンシアとルキノは、次の言葉が出なかった。


「でっ、ですが、それではセルネオ様の名誉に傷が付きます。」


「ただの打診の話で?ルキノ嬢は、噂など気にしない人だと思ったのだが、違ったかな?」


「私は気にしません。ですが、セルネオ様が・・・。」


「大丈夫だ。私も気にしない。事情を知る人間は少ない方が良い。秘密はどこから漏れるか分からないものだから。」



セルネオ様の言う事は間違っていない。

ただ何故、私達にこんなにも友好的なのかが分からなかった。


「私が作戦に関わった以上、失敗に終わる事など無い。」

セルネオ様が1番悪い顔をして笑った。



 ◇◇◇ ◇◇◇



シルヴィアは、焦っていた。

ルキノをエリンシアから引き離せば、エリンシアが孤立する。

そう思って行動を共にしていたが


「バリデン様、いつまで待てば良いのですか?いくら投資したと思っているんですか?」


リードン伯爵家からすれば、お金を注ぎ込んでまで子爵の娘と婚姻を結ぶメリットはなかった。

しかし、アートゥンヌ伯爵家が金を出し王太子妃に1番近いとされるシルヴィアに恩を売れる。

そしてバリデンは、ルキノを手に入れる。


2人にとってはウィンウィンの関係になる筈であったが。


「図書館で決行する。」

バリデンが苦い声で答えた。


学園の授業が終わり、バリデンは急いで図書館へ足を運んだ。

遠目にルキノの姿を捉えた。息を潜めてゆっくりと近づいて行った。



ルキノは本に没頭していた。背後から誰かが近づいて来た事にも気付かずに。


耳元に息がかかると同時に「やっほ!」と小さな声がした。

心臓が止まるほど吃驚したルキノは、恐る恐る振り返る。

そこには不敵な笑みを浮かべるセルネオ様が立っていた。


ルキノは真っ赤になった顔を逸らしながら言った。

「セルネオ様、ベルン殿下との会話を聞いていたのですね?」

と問いただすと


「内緒の話はもう少し小声でするものですよ。」

と笑っていた。この人に、こんな悪戯心があったとは。


その様子をバリデンは少し離れた位置から見ていた。

プライドが傷付くと同時に怒りの感情が燃え上がった。

自分に素っ気ないルキノが、セルネオと親しそうに笑っている。我慢も限界だった。



「ルキノ嬢、作戦結構だ。1番奥の部屋にはベルン殿下と信頼出来る私兵が隠れている。」と言いながら手を振ってその場を離れて行った。


ルキノは1人で図書館の奥にある本棚に向かって行った。

バリデンがこっそりと後を付ける。

そこは人目に付かない奥深い場所で、バリデンは今こそがチャンスだと思った。


「ルキノ嬢。久しぶりですね。婚約者の私を放ったらかしにするなんて、どんな罰をお望みですか?」


「お久しぶりです、バリデン様。研究の方が忙しく、思う様に時間が取れません。申し訳ありません。」


「その割には、エリンシア嬢やセルネオ様と楽しそうにしていますね。」

バリデンが段々とにじり寄ってくる。


ルキノも数歩下がりながら、バリデンとの距離を保つ。


「アルトン子爵家とリードン伯爵家が決めた事ですよ。」


ルキノは後退しながら、部屋のドアにぶつかった。急いで部屋の中へ逃げ込む。だが、バリデンがゆっくりと距離を詰めてくる。


「やめて下さい。大きな声を出しますよ。」

その言葉にバリデンの理性の切れた音がする。

バリデンは咄嗟にルキノの腕を掴んだ。


ルキノがその腕を振り払うと、同時にパァンという音が響いた。


「そこまでだ。か弱い令嬢に暴行を働くとは。」

と言って、セルネオ様の私兵はバリデンの腕を後ろ手に捻り上げた。


「誤解だ。ルキノ嬢と私は婚約者だ。情事を楽しもうとしていただけだ。」


その言葉にセルネオの私兵が、困惑した顔をして手を緩めそうになったその時、


「大きな声がしたが、何事だ。」

セルネオ様が登場した。

ルキノの赤くなった頬を見て、怒りで声が震えそうになる。


「私も様子を拝見していた。」

いつの間にかベルン殿下も、セルネオ様の横に立っていた。


「バリデン、今日のところは見逃すが、後日追求させて頂きます。2度は無いと思いなさい。では、ルキノ嬢行きましょう。手当をしなければ。」


そう言いながらルキノをエスコートし、研究棟へ向かった。


「申し訳ない、ルキノ嬢。バリデンの奴、まさか女性に暴力を振るうとは。」

いつもの冷静沈着なセルネオ様とは違い、明らかな動揺を見せている。 

暴言程度は予想していたが、暴力を振るうとは・・・。


ベルン殿下もただ黙って俯き、悔しそうに唇を噛み締めている。


「この辺までは想定内だったので、お気になさらずに。」

ルキノは平気だという笑顔を見せて笑った。


研究棟へ行き応急の手当をした。赤くなった頬を冷やして軟膏を塗る。

(確かにちょっと痛かったけど大袈裟だな)

ルキノはセルネオ様とベルン殿下が守ってくれると信じていたので、大丈夫だと確信していた。


「ルキノ嬢、何も出来なくて申し訳ない。」

ベルンは、俯いて小さな声でルキノに言った。


「居てくれるだけで、心強かったですよ?」

ルキノはベルンの手を取り、ブンブンと振った。


セルネオがルキノをタウンハウスへを送ろうとすると、ベルン殿下がどうしても付いてくると言って聞かなかったので、3人で帰宅する事にした。


エリンシアがルキノの頬を見て、詰め寄って来た。


「セルネオ様、どう言う事か説明して下さるかしら?」

僅かではあるが、エリンシアの声が震えていた。


セルネオが真摯な態度でエリンシアに頭を下げる。

説明をしようと、口を開きかけた時


「ごめん。エリンシアに内緒でセルネオ様に作戦を持ちかけちゃった。でも、作戦は成功したのよ。」

ルキノが気まずそうに笑いながら言うと


エリンシアの怒りが頂点に達した様だ。


「ルキノ!!土下座なさいっ!!!」


ルキノは土下座をしながら、エリンシアに許しを請っていた。


訳の分からない状況に、セルネオとベルンはエリンシアを宥めるだめに、必死になった。


エリンシアの仁王立ちの説教は、30分程続いた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る