第19話 外伝 1
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
19 外伝 1
目が覚めた時には、真っ白な天井が見えた。
何の飾りもない白い部屋で白い服を着た人達が、何やら騒いでいる。
「ユイナさん。あなた3日も眠っていたのですよ。」
優しげな女の人が声を掛けてくれるが・・・。
人違いだろうか?私は、ユイナさんではない。ルキノと言う名前だ。
まだボヤっとした頭で、ルキノが考えていた。
「ごめんなさいね。鞄の中を開けて、身分証を探させて貰ったわ。」
優しい白い服の人が、申し訳なさそうにこちらを見る。
「3日振りに起きたのだから、顔でも洗いなさい。美人が台無しよ。」と言って身体を支えてくれる。
連れて行かれた洗面台に付いている鏡を見ると、知らない人が映っていた。
「あなた誰?」
鏡に向かっていた言うと、白い服の人が慌てて別の人を呼びに行った。
色々な検査と言うものを行って、白い服を着たちょっと怖そうな男が言った。
「脳に損傷は見当たりませんが、心因的な記憶喪失ですね。新しい記憶に問題は無いのですが、過去の記憶の一切を無くしています。珍しいケースですが、何かをきっかけに思い出す事も有ります。少し様子を見ましょう。」
私は部屋を移され、沢山の人と生活をする事になった。
私が1番驚いたのは、食事が運ばれて来る事だった。
私は、食事を運ぶ側の人間だ。
私はエプロンをした女の人に質問をした。
何故私の食事が運ばれて来るのかと。
「私はこの施設の寮母ですからね。仕事ですよ。ユイナさんは、まずは元気になる事を考えましょうね。」
私の健康を何故寮母さんが心配するのか、分からなかった。
それから毎日、色々な事を教わった。
不思議と読み書きと言葉に困る事は無かった。
この世界には、珍しい物が沢山あり使い方を教わった。
私の携帯電話を返すと言ってくれた。
そこにはユイナさんの写真や、沢山の名前と数字が記録されていた。
私は寮母さんに私が見つかった場所に行きたいと相談した。寮母さんの息子さんを付けてくれて、私は図書館へ向かった。
息子さんはユイナさんより2つ上だと言った。
司書の人が説明してくれた。
私はこの図書館を1人でよく利用していた事。
いつの間にか、テーブルにうつ伏して倒れていた事。
そして、その時に読んでいた小説の事を。
私は小説『真実の愛は永遠に』を読んで、全てを理解した。私とユイナさんの人生が、入れ代わってしまったのだと。
私は寮母さんに相談した。今までの人生を清算してここで働かせて欲しいと。
寮母さんは、躊躇いながら言った。
「人手が足りないので嬉しいけど、あなたの様な若い子が・・・。」
それでも是非にと御願いをした。
寮母さんは、笑って引き受けてくれた。
この施設は病院の付属施設で、リハビリ患者などの介護や、私のように精神や脳の損傷の問題を抱える人を普通に生活出来る様にサポートしたり、デイサービス等も行っていて、独り暮らしのお年寄りの買い物や入浴等も手伝っている。
寮母さんは、難しい手続き。住民票や、保険証、通帳等の手続きを一緒にしてくれた。
「ユイナ、ちょっとお鍋の様子を見てて。」
寮母さん・・・、めぐみさんが大きな声で私に言った。
この施設で働きだして1年が経つ。
私はお鍋の底が焦げ付かない様に、ゆっくりとかき混ぜた。
台所に戻ってきためぐみさんは、私の頭をワシャワシャと撫でて
「ありがとう、ユイナ。」と言った。
私は両親にさえ、こんなに優しくして貰った覚えはない。
この世界に来て良かった。めぐみさんはお母さんの様に接してくれる。
私は、部屋の本棚に仕舞ってある小説『真実の愛は永遠に』を取り出し最後のページを開いた。
"ユイナさんへ"
ルキノは、あなたの世界で幸せに暮らしています。
どうか貴女もお幸せに。
いつかユイナさんに、このメッセージが届く事を祈りながら小説『真実の愛は永遠に』を閉じて、本棚へと戻した。
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