第18話 婚約者 2
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
18 婚約者 2
3日程エリンシアに会えていない。
ルキノは心に不安を抱えながらも、学院に通いながら魔力の研究に勤しんでいた。
セルネオ様と学園内を通過するたびに、好奇の目に晒されながら。
「金を領内に張り巡らせると、領主達の中には破産を余儀なくされる者も出てくるでしょう。」
「銅線では駄目なのですか?」
2人は大凡貴族達の興味のない会話をしながら、学園を通り過ぎ様としていた。
「銅線ですか?」
近寄りがたい空気を醸し出しているにも関わらず、バリデンが行く手を阻んできた。
「おはよう御座います。ルキノ嬢。」
「おはよう御座います。バリデン様。」
ルキノは足を止めてスカートの裾を摘み、お辞儀をした。
そしてすぐ様にセルネオの方へ向き直り
「銅線の見積もりをして頂く事は可能でしょうか?」
と話しを続けた。
「あぁ直ぐに手配てしおこう。」
2人がバリデンの横を通り過ぎ様とすると
「ルキノ嬢、婚約者である私を蔑ろにして他の男と仲良くするのは、不貞行為ですよ。」
と、バリデンがルキノに手を延ばしたが、タイミング良くベルンが割って入った。
(間に合って良かった)心の中でホッと息をつき、責めるような口調で言った。
「リードン伯爵家は、学院の研究を愚弄するおつもりで?」
「殿下・・・。とんでもありません。ですが、ルキノ嬢は私の婚約者です。」
(はっ、王家の承認もないのに。)と小さく呟くと
「では婚約者の研究を応援して差し上げては?陰ながらね。」
バリデンにそう言い放ち、ルキノをセルネオとの間に挟んで「やっほ!」とルキノに言った。
ベルン殿下ブレないなぁと思いながら、ルキノは「やっほ!」を返した。
ルキノに手出しを出来なくなり、背中を見送ったバリデンは、小さく舌打ちをした。
バリデンは女好きで、気に入った女は手に入れなければ気の済まない性格だった。
そして障害かあれば、尚更に燃え上がる。
最初は甘く囁き、自分の物にすると興味が無くなる。
ルキノは今までバリデンが口説いてきた女とは、何かが違うと思った。
たかが子爵家の娘が、自分の甘い言葉に眉を歪め拒絶を繰り返す。
婚約者にまでしてやったのに、まるで逃げる様な素振りだ。まぁ自分の物になったら婚約は破棄するつもりでいたのだが。何故王族までもが邪魔をしてくるのか?
(しかし多少強引な手段を用いたとしても、問題はない。相手はオンボロ子爵令嬢。婚約者なのだから・・・あまり長引く様なら、今度は強行突破してくれるわ。)
バリデンはおぞましい決意を胸に秘めていた。
セルネオ達が図書館を通り過ぎ、研究棟に足を踏み入れようとした時、リーナが追い付いた。
「エリンシア様からの伝言でございます。今日の夕方帰って来られます。時間が許されれば、セルシオ様にもお越し頂きたいとの事でございます。」
急いで来た割には、息も乱さずに長文のセリフを言えるなぁと、ルキノは変な事に感心をしていた。
「殿下達は無理だが、私が伺うとお伝えしてくれ。ルキノ嬢もお送りするので、迎えは結構だ。」
セルネオはリーナに伝言の返事をして、私を研究棟へ促した。
研究棟では、ベルン殿下にストレッチを指南していた。
私の論文テーマの健康医学の、良い被験者だ。
嫌、それはさすがに不敬に当たるかな。だが私の提案をどんどんと取り入れ実行して下さる。そして成果を出して下さる。
私は高位学院生として成果を残さなければならない。
それに協力してくれているのだ。
「はい、息を吐きながら曲げて下さい。もう少し。」
「はい、いいですよ。今度は息を吸いながら身体をゆっくりと戻して。」
「足、腰、肩は基本ですからね。毎日行って下さい。湯浴みの後が1番効果的です。」
今日のルキノの指導は、終わったようだ。
毎回ながら、変わった格好をさせられるが効果は着実に発揮されていた。
1年前のベルン殿下とは、見るからに違って見える。
「次は体幹を鍛える体操をしますからね。ストレッチをサボると、とんでもない事になりますよ。」
ベルン殿下は、額にうっすら汗をかいている様だった。
ルキノ鬼教官は、満足気に頷いて見せた。
「今日は早めに移動しよう。ベルン殿下を王宮へ送って行き、エリンシア嬢の元へ向かおう。」
セルネオは公爵家の馬車を手配し、3人で乗り込んだ。
公爵家の家紋の入った馬車を制止できるのは、王家の者位だろう。
誰にも邪魔をされる事無く、王宮経由でアザルトル侯爵のタウンハウスへ到着した。
「ようこそおいで下さいました。セルネオ様。エリンシア様がお待ちになっております。どうぞこちらへ。」
「ルキノ様、おかえりなさいませ。」
リーナに案内されて、タウンハウスの応接間に通される。
そこには、ゆっくりとお茶を飲んで寛いで座っていたがエリンシアは立ち上がり、セルネオ様に礼をした。
リーナがセルシオ様を席に案内し、香りの良い紅茶と甘い焼き菓子を用意して、退出した。
エリンシアはお茶をコクンと1口飲み、カップをソーサーに戻した。
「まず、報告からするわ。アルトン子爵の説得は無理でした。契約書も交わしているからと、ルキノ・・・残念だけど、婚約の事は諦めるしかないわ。」
好きでもない男と結婚する?
エリンシアの報告にルキノが固まる。
「大丈夫よ、ルキノ。契約書なんて、たかが紙切れ。私達にも有るでしょ?もっと凄いものが。」
エリンシアが悪い顔で微笑んだ。
「問題はアルトン子爵家の処遇と、ルキノの外聞。」
「あっ・・・。それは大丈夫。」
そもそもアルトン子爵とは、知らないおじさんだ。ルキノを売るおじさんに、恩は無い。
ルキノも悪い顔になっていた。
「そう。ではセルネオ様、説明致します。」
エリンシアは先程の顔とは全く違った、真剣な面持ちで眼差しをセルネオに向けた。
「これは切り札ですので、内密にお願いします。私達は1年半前に魔法契約書を交わしています。残りの契約期間は後1年半。私が学園を無事卒業するまでです。」
「魔法契約書なんて高価なものを何故?」
「その話は横道に反れるので置いておいて、契約内容に私はルキノの生活全般を支援する。ルキノは、私の学園生活を全般支援する。と言う項目がございます。」
セルネオは頷き色々と引っ掛かる所はあるが、話を最後まで聞く事にした。
「バリデン様の婚約の契約書と、魔法契約書。どちらがより優先されるか、お分かりですよね。」
「あぁ、魔法契約書が優先される。」
「魔法契約書に、公開の義務はない。ならば、ルキノはバリデン様と婚約したまま接触を避ければ良いのですわ。」
エリンシアの言わんとした事が分かり、溜め息を洩らす。
「ヒントはアルトン子爵がくれたのよ。契約書の話を思い出したわ。」
契約書など無くても、ルキノとの絆は思ったよりずっと深まっていた。魔法契約書の存在そのものを忘れる位に。アルトン子爵が契約書を持ち出した時に思い出したのだ。
「ルキノ、言い難い事なのだけど・・・。この機会に子爵家と縁を切った方が良いと思うわ。10歳のルキノを使用人に出し、給金まで搾取してた。最後にお金と引き換えに貴女を売ったのよ。」
エリンシアが心配そうに見つめる。
子爵家に思いは無い。顔も知らない人だから。
でも本物のルキノは、どう思うのか?という不安が胸を苦しめた。しかし決断しなければ。
「全てをエリンシアに任せます。」
エリンシアを信じてる。私を不幸にする選択をしないと。
エリンシアは微笑みながら頷いた。
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