第16話 シルヴィア
=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=
16 シルヴィア
「予定が狂ってしまったわ。」
シルヴィアは、お茶の用意をしてくれているメイドに当たり散らした。
凱旋祝賀パーティーからの流れで、シグルド殿下との婚約に漕ぎ着けようとしていたのだが、途中で殿下が居なくなってしまった。
ダンスフロアでの注目も、途中からエリンシアに代わってしまって・・・。
「まぁ、お似合いの2人です事。」
等と、此見がしに嫌味まで聞こえてくる始末。
あの女を何とかしなくては・・・。しかし、私は儚く可憐な少女でなくてはならない。
シルヴィアは考えを巡らせていた。
終戦後、平和を取り戻した学園生活。
戦功のヒロイン、癒しの聖女と回りがチヤホヤと持ち上げてくれる。
シルヴィアはいつも令息令嬢達に取り囲まれていた。
一方のエリンシアは、いつもルキノという子爵の令嬢と2人だけだ。
シルヴィアは、取り敢えず情報を集める事にした。
「エリンシア様と仲良くされている方は、いらっしゃいます?お茶にお誘いしようと思っているのですが・・・。」
「シルヴィア様、エリンシア様に関わらない方が宜しいかと。何やら呪いの相談とかを内緒でしているそうですよ。」
「私も聞きましたわ。」
さっぱり分からない話が、聞こえてくるばかりだ。
婚約の申し入れも増え、先日は侯爵家からの縁談も持ち掛けられた。
「お父様、私は先の戦さで王妃となる実力を見せました。後はお父様の力でシグルド殿下との婚姻を纏めて下さい。」
シルヴィアは見た目に反して野心家だった。
父親に催促しているが、アートゥンヌ伯爵程度の力では王陛下への謁見も儘ならない。
ましてや王族の皆が実情を知っていた。
シルヴィアが、アートゥンヌ伯爵が王妃の座を狙っているという下心も。
シルヴィアがシグルド殿下を探して図書館の回りを彷徨っていると、エリンシアとルキノが歩いて来るのが見えた。
2人の会話を盗み聞こうと、近寄った。すれ違う時に会話が耳に飛び込んできたのだが。
「痛い!」
擦れ違い様に、鋭い痛みを感じ手を引っ込めた。
「何を為さるの?」
シルヴィアは思わず叫んだが、エリンシアは何の事だか分からないと言う顔をした。
痛みを感じた手を見てみたが、何ともない。
(それよりも先程の会話にシグルド殿下の名前が聞こえた?)
「勘違いでした。失礼します。」
シルヴィアは場を納めて、エリンシアを秘かに追った。
そしてエリンシアの行く先に目線をやると、案の定シグルド殿下の姿が。
エリンシア達と殿下が合流して間も無く、ベルン殿下とセルネオ様までが一緒になって歓談しながら昼食を食べていた。
遠巻きにその光景を眺めていたシルヴィアだったが、ふと考えを巡らせる。
(ふふふっ良い事を思いついたわ。私って天才。)
エリンシアを尾行していれば、その内シグルド殿下にお会い出来るチャンスも訪れてくるだろう。
それよりも今は、目の前にいる邪魔な虫の排除から致しましょうかしら。
暫くシグルドを見つめていたシルヴィアは、足取りを軽くして図書館へと向かった。
数日間に渡り、エリンシアの跡を付けていたシルヴィアにチャンスが訪れた。
シルヴィアは、エリンシアとシグルド殿下の昼食時を狙ってスタスタと歩みを進めた。
「ご機嫌麗しく存じます。」
シルヴィアは一同の前に立ち、スカートを摘み膝を折った。
シグルド殿下は眉に皺を寄せそうになるが、何とか堪えて言った。
「何か御用ですか?シルヴィア嬢。」
「ええ、ルキノ様に。この度はご婚約、誠におめでとう御座います。」
「婚約?」
ルキノは身に覚えの無い事に、首を傾げた。
「バリデン様もこちらにいらっしゃいますよ。」
シルヴィアの合図に、バリデンが顔を見せた。
「婚約者殿は、こちらにいらっしゃったのですね。私達も御一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」
バリデンが馴れ馴れしくも、ルキノの側に立って頭を下げた。
「何の事でしょうか?」
ルキノが尋ねると
「まだ聞いていないのですか?アルトン子爵も呑気なお方ですね。我がリードン伯爵家とアルトン子爵家のルキノ嬢、両家の同意により私達は先日婚約致しました。今日からはルキノ嬢とお昼を共にしたいと思っています。」
急な話の展開に、ルキノの頭の回転が止まってしまった。
テーブルの一点を見つめて黙って俯いている。
頭の中は、真っ白だ。
「今日のところはお引き取り頂きたい。休憩中とは言え研究の打ち合わせも兼ねている。大事な会議の最中だ。」
シグルドが、少し威圧的に言った。
「承知しました。ではルキノ嬢、明日からは御一緒に。」
バリデンはルキノの手の甲に口付けようとした。
「いやっ!」
ルキノは咄嗟に手を振り払った。
「ルキノ様。バリデン様に失礼ですわよ。」
「いやいや。大丈夫です。我が婚約者は恥ずかしがり屋の様ですから。では明日。」
バリデンとシルヴィアは言いたい事を言って去って行った。
ルキノはバリデンの『我が婚約者』と言う言葉に、身震いをした。(私は売られてしまったのだろうか?)
ベルンが落ち着かない様子で、ルキノを見ている。
シグルドはセルネオに向かって目で合図を送る。
「兄上、セルネオはルキノ嬢の側に。決して離れないで。エリンシア嬢は借りて行きます。」
と言ってエリンシアと共に王宮へ急いだ。
今日はエリンシア達に、長らく続いたノースルナ国との冷戦が終結に向かう報告をする予定だった。敵将と第2王子を捕虜に出来た事が、上手く取り引き材料に使えた。魔獣をも含んだ総力戦が、半日で壊滅されたのだ。ノースルナ国の完敗であった。
陰の功労者と、喜びを分かち合う予定であったのだ。
(バリデンの奴・・・。ちょっと目を離した隙に、やってくれるではないか。)
エリンシアの前だからと、怒りの感情を抑えつけようとした。
しかしエリンシアの怒りは、大爆発している様子だ。
「っっ許さない!!」
エリンシアの顔が怒りに満ちているが、本人は声が出てしまっている事にすら気付いて無かった。
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