第15話 凱旋祝賀パーティー

=逆境逆行悪役令嬢の侍女に転生しました=


15 凱旋祝賀パーティー



「何を考え込んでいるの?」

エリンシアはルキノの隣に座って、リーナにお茶の催促をした。


「うん。私が今まで読んだ『王家の歴史書』の中には、戦争の件が詳しく載っていないの。」

ストーリー展開のロマンスに紐付ける為、ヒロインが救済する飢饉や勇者の活躍する戦争、跡目争いによる派閥紛争等はあるが、詳細は記されていない。


「ルキノは前に『王家の歴史書』を先読みしたって言ってたけど、私が逆行する前と後では色々な事が変わっているわ。前は戦争にも参加していないし、ベルン殿下と友達にもなっていない。1番に違うのはルキノと言う味方がいなかったわ。考え込んでも仕方ないんじゃない?前は前、今は今。全く別物だわ。」


まったくエリンシアの言う通りだった。


「それよりパーティーのドレスを選びましょうよ。」


凱旋祝賀パーティー・・・。自分達が主役ではないパーティー。

乗り気はしないが、仕方がなかった。


エリンシアは、パーティーそのものが好きでドレスアップやお洒落が好きなのだ。

まぁ可愛いから(私を見て)的な気持ちが分からないでも無いが・・・。あっ、ルキノも可愛かったんだわ。

それに気付けばパーティーも悪くは無かった。


「今回は、成るべく地味なドレスを選びましょう。」

そう言った私の事を、エリンシアは目を丸めて見た。


「作戦名は、『地味なドレスを着ても目立ってしまう美人なの。ごめんなさいね。』よ。」

ルキノは、エリンシアに悪戯なウインクを投げた。



 ◇◇◇  ◇◇◇



パーティーの当日、エリンシアは淡い色のドレスに髪をハーフアップにして、髪飾りも大人しい色合いの物を選んだ。

私も淡い色のドレスに、ショートボブなので髪飾りも付けず、しかしアイメイクだけはしっかりと施した。転生前のアイメイク術を活かして。

少しきつい印象を与えるが、その方が良かった。


それにしてもエリンシアは、妖精の様な姿だ。

背中に羽を付けてあげたい。


王宮にあるパーティ会場に着くと、一際大きな声でフロアを席捲している男がいた。


「いや、癒し魔法は希少ですからね。」


「微力ですが、娘も王家の役に立てて良かったです。」


「最前線ですから、心配もしましたよ。」


聞いてもいない事をベラベラと捲し立てて、高位貴族達と肩を並べたかの様な態度で自慢話を繰り返す。

シルヴィアの父親、アートゥンヌ伯爵である。


子爵や男爵の中には

「シグルド殿下とお似合いだ。」


「国を支える国母に相応しい。」

等と、煽てる者も少なくない。


(正規軍の戦功は、シグルド殿下とセルネオ様です!)

ルキノは、心の中で叫んだ。


事実として、敵を引き付ける為には軍旗を高々に挙げ『王子殿下此処に有り!』と注意を引く必要があった。

そして影の功労者であるベルン殿下とエリンシアが、それを望んだからだ。


(シルヴィアは、ご相伴に預かっただけ。ごっつぁんゴールでしょうが。あんたの娘は、何もしてないよ?)

って言ってやりたい。



楽団が一際大きな音を鳴らして、賑やかな音楽を奏でる。王陛下入場の合図だ。

会場の雑談がピタリと止み、両脇に控え道を作る。

センターを王陛下が歩いてくる。シグルド殿下やベルン殿下が手を振りながら後に続く。騎士団の団長や、軍の部隊長。そしてセルネオ様、シルヴィア様も。


パーティーの招待客は、紳士淑女の礼をとって迎えた。


ベルン殿下が私の前を通る時「やっほ!」と声を掛けてきたが(今じゃないでしょ)と思う。


仕方ない。私は、膝を折り頭を下げたまま小さな声で「やっほ!」と返事を返した。

(後でお説教しなくては・・・。)



王陛下が着席し、手を上げる。


シグルド殿下がシルヴィア様の手を取り、フロアの中央に進み出た。

ファーストダンスの始まりだ。


音楽が鳴りだし、それぞれにパートナーを誘い出す。

私は、壁の花に成るべく隅っこに移動した。

エリンシアは早速令息達に囲まれている。

ファーストダンスは踊らないと決めていたエリンシアは、扇子で口許を隠し首を横に振りながら令息達を躱していた。高位貴族の令嬢マナーにおいて、ファーストダンスは意味を持つもので有り軽々に踊る事は、自分を貶める行為に等しかった。


私は心配になりエリンシアを見守っていたが、エリンシアの毅然とした態度に感心した。


少し歓談の間を挟み、2曲目のダンス曲が流れ出す。


シグルド殿下にピタリとくっついて腕を組んで離れないシルヴィアが

「シグルド様、踊りましょう。」と手を差し出す。


シグルド殿下は、「約束がありますので失礼。」

と言って、手を振った。


シグルド殿下が歩み寄って行った先は、エリンシアだ。

「一曲お願いできますか?」


エリンシアがシグルド殿下の手に自分の手を乗せて、少し膝を折る。


「はい。喜んで。」


うゎー、美形カップル。キターッ!!ご馳走さまです。と拝んでいる私に声を掛けて来たのは、バリデン様だった。


「ルキノ嬢も来ていたのですね。良かったら一曲・・・。」

全部言い終わらない内に、セルネオ様が来た。


「ルキノ嬢、お待たせしました。行きましょうか。」

セルネオ様が手を差し出した。


「はい。バリデン様、失礼致します。」

と頭を下げてセルネオ様の手を取ったが、小さな声で

「私、踊った事ないんですけど。」と言った。


「でも、困っていたでしょう?」

と悪戯な笑みを浮かべる。


「大丈夫ですよ。リードしますから、私に任せて。」

セルネオ様とのダンスは、シグルド殿下に次いでフロアの注目を集めた。

こんな事になるなら、もっと練習しておけば良かったと思ったが、後悔先に立たずだった。


嬉し恥ずかしダンスタイムが終わり、エリンシアと合流し4人でベルン殿下の元に向かった。


令嬢達に囲まれていたベルン殿下が、私達を見つけ急いで駆けてきた。

「兄上、少し休憩されませんか?」

シグルド殿下の気遣いに、ベルン殿下が安堵の息を洩らす。


一行は王妃の管理する温室庭園に場所を構えた。

王族の許可無しでは入れない為、貴族に絡まれて逃げ出したい時に使う王族の逃げ場所になっている。


「シグルド、助かったよ。令嬢に囲まれるなんて、初めての経験だ。」


ルキノの健康推進実践方が功を奏したのか、ベルン殿下の肌には血色が戻り、髪にも艶が出てきていた。

儚げで麗しのビジュアルに殿下と言う地位。ここに来て令嬢達の噂になり始めたのだ。


「ベルン殿下、ダンスは宜しかったのですか?」

エリンシアがベルン殿下に聞いた。


「ルキノ嬢のお陰で随分と元気になったが、まだダンスで令嬢をリードする程の体力は無いからね。」


「次は体幹を鍛える体操をお教え致します。ですがベルン殿下、公的な場所で『やっほ!』はお止め下さい。」

ルキノは、ベルンを睨んだ。


「すまないっっ。早く使いたくて。」


「公私混同はいけません。」


ベルン殿下が謝る中、セルネオ様だけが笑っていた。







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